百六十九話 未来予知
未来予知による思考の先回り。
心を読むのとはまた違う。
俺がのちにする行動や、口にだす内容をしっているからこその芸当だろう。
どうする?
予知されようが、圧倒的な力の差があればなんとでもなると思っていた。
それに俺は配下を召喚できる。
思考を読まれようが、未来が見えようが複数でいけば対応できない。
そう思っていた。
だが、俺がそう考えることもコイツは知っているはずだ。
ならばなぜ一人でいる?
数に対抗するなら数だ。
軍団で身を固めていてもおかしくないのに。
理由が分からない。なぜだ?
ひとりでも勝つ自信があるのか?
それとも他に狙いがあるのか?
確かめなければならない。
悟られないようにするには、どんな質問を投げかければいい?
頭をフル回転させる。
しかし――
「逃げられると困るからだ」
アスタロトがその答えを言う。
クッ、また先回りを!
どうする?
考えろ。考えろ。
相手が先を読むならこちらも読めばいい。
いかに未来を知っていても、行動を起こさねば何も変わらない。
その行動の先に起こる結果を予測し、大きく回避するんだ。
攻撃と認識する前に避けるのだ。
……だが、そんなことできるか?
ムリだろ。
ならば――
「アスタロト。俺に逃げられたくないと言ったな」
「ああ」
「ならば、そこを一歩も動くな。動いた瞬間に俺は帰らせてもらう」
「ククク、だろうな。了承した」
よし。これでアスタロト本人の行動を縛ることはできた。
あとは他者の介入を気をつければいい。
ワナならば、他に何かを仕込んでいるに違いないからな。
「ニンゲン。いや、召喚士エム。今度はこちらからの質問だ。すでに我はいくつか答えた。動くなという注文も受け入れた。これだけ聞いたんだ。まさかイヤと言うまい?」
「……ヤダ」
ふん。そう簡単に主導権を渡してたまるか。
注文を受け入れた? そんなもん知るかってんだ。
「フハハハハハハ!」
アスタロトはふたたび笑い出した。
「なにがおかしい?」
「ククク、まさか本当にそう答えるとはな。我を目にしてその態度と言葉づかい。そんな人間がいるとはにわかに信じられなくてな」
「未来を知っていてもか?」
「そうだ。知っているのと体験するのとでは天と地ほどの差がある。それに……」
「それに、なんだ?」
変な間をつくるな。
そんな間などつぶしてくれる。
――しかし、やはり未来を予測できるのか。
それが本当かどうか定かではないが、少なくともその能力を隠すつもりがないのは確かか。
まあ、隠したところで無意味だが。ネビロスが知っている以上は。
「ククク、ずいぶんと頭が回るヤツだな。そうでなくてはな。だが、キサマは少々思い違いをしているようだ」
「思い違い? どういうことだ?」
「我は確かに未来が見える。しかし、全ての未来がそうであるとは限らない。未来とは不変ではない。未来を知る者が行動すればするほど未来は変化していく。この質問を問う未来もあれば問わない未来もある。その変化は実際に問うてみないと、我にも分からぬのだ」
なるほど。
未来を知るがゆえに未来を変えてしまうのか。
自身が関われば関わるほど未来は不透明になる。
これが真実ならば、意外と不便な能力だな。
……いや、待てよ。
では『アスタロトとベルゼブブどちらが強い』の問いはどうなる?
自身が関わって未来が変わるというなら、どちらが強いか判断できないのではないか?
その疑問を投げかけようとする。
するとやはり、アスタロトからの返答が先に来た。
「ふむ、質問が多いな。まあよい。あの問いの答えは普通に戦えばベルゼブブが勝つ、だ。未来を予知しながら戦えば分からない、そういうことだ。だが、未来を予知できる者が勝つ確証もなしに戦うと思うか?」
ふ~ん。ややこしいな。
納得できない部分もあるが、なんとなく筋は通っている気もする。
まあいい。
そろそろ俺も行動に移さないとな。
ネビロスの情報によると、門を維持する装置は三か所だそうだ。
人間界、魔界、両方に作られた骨の装飾、これで二か所だな。
問題はもう一個だ。
なんでもアスタロトが首に下げるペンタグラム。
これが門のすべてを制御してるんだと。
う~ん。困った。
だってコイツ、ペンタグラムしてないじゃん。
素っ裸に王冠だけじゃん。
どうする、俺!?
これまで小説家になろうをメインで活動してきましたが、その場をカクヨムに移すことにしました。
メインはカクヨム。サブでなろうですね。
たぶん作品の公開はカクヨムが先になると思います。
べつに慌てて見るようなもんじゃないけど、お好きに使い分けて頂けたらなと思います。