百六十三話 大爆発
フルーレティとその配下を傘下におさめ、さらに強大となった俺は、ある場所を目指していた。
魔界だ。
とはいっても、装置を壊すため新たに門をくぐったのではない。
すでに門を閉じた場所、イフリートと出会ったあの魔界へいくのだ。
もちろん、目的は人材の確保だ。イフリートに命じて、仲間になりそうなやつを集めてもらっていた。
もっともっと契約者を増やすのだ。
俺はかなり強くなった。それでも三大悪魔に対抗するには、まだ不安が残る。
なるべく有利な形にもっていきたい。戦うにしても、取りこむとしても。
「マスターは新しい魔王にでもなるつもりなの?」
さらに悪魔と契約しようとする俺を見て、ルディーが苦言をていしてくる。
そうなんだよな。
そもそもの目的は、悪魔がこちらに出てこないようにすることだ。
べつに三大悪魔を倒す必要はないのだ。
しかし、やつらだって門を壊されるのを黙って見ていないだろう。阻止しようと様々な手を打ってくるに違いない。
それをねじ伏せるタメにも力をつけるべきなのだ。
だが……。
なんていうのかなー、ルディーの心配ももっともなのだ。自分自身、違和感みたいなものがある。
一種の強迫観念のようなものに囚われているような気がするのだ。
もっともっと力をつけなければならない。そうしないと大変なことになるぞと、心の中でなにかが訴えてくる。
本能が危険を察知している?
あるいは、そんなものはただの言い訳で、本当は力に溺れ始めたのか?
……自分自身に問いかけるも、答えは出ない。
疑問を持てているうちは、まだ大丈夫だと信じたいところなのだが……。
ゴロゴロキュ~ン。
突然、腹が変な音を出した。
空腹か? そういや、そろそろ昼飯時だしな。
「イタ、イタタタ」
あれ?
猛烈、腹が痛くなってきた。
「どうしたの? 大丈夫?」
ルディーが心配してくるが、それどころではない。
尋常じゃない便意が襲ってくる。
「ムリ」
慌てて草むらへ駆けこむ。
パンツを下した瞬間に大爆発した。
ゲリだゲリ。
まるで尻から火を噴いたようだ。
「ウオオオ。なんか変なモンでも食ったか? オレ」
ウンウン唸りながらも、ポツリこぼす。
「オソラク毒でショウ。フルーレティのシッポからは、猛毒がデルのデス」
この声は。
振り向いてみると、物知り顔で頷くネビロスがいる。
キサマ、なぜそこに……。
「さすがアルジさまです。アクマすら死に至らしめるフルーレティの猛毒ヲ、排泄物として体外にダセルトハ」
嬉しくない。褒められているようだが、全然嬉しくない。
まったくデリカシーというものがないのかねオマエは。
人がウンコしてるとこに近づいてくるんじゃねえよ。
たしかに、おまえを汚れ仕事専属にしようと思った。
だが、そういうことじゃないねん。
便意もおさまり、ふたたび魔界へと向かう。
ただ、ネビロスは二、三発ぶん殴って、フルーレティを薄目で見つつだ。
「おまえ、毒注入したんか」
「……すみません」
デカイ図体で小さくなって返事をするフルーレティ。
「猛毒なの?」
「はい……。普通の悪魔ならコロっと」
コロっとじゃねえよ。
すぐに言えや! 俺もコロっといったらどうしてくれんだよ!!
「全然効いた様子がないので、感心しておりました。流石にこれは勝てないと。まさか時間差でこのような影響がでるとは……」
ああ、なるほど。
毒が効かなかったことも降参の理由だったんだな。
でも、一言くらいあってよくね? 毒、大丈夫でしたか? みたいな。
「まあエエ。どうせ解毒薬とかないんだろ? なんせ悪魔だもんな」
「はい……」
相手を倒す手段は豊富でも、治す方法なんて持ってなさそうだもんな、悪魔って。
しかしだ。俺、なんで毒効かなかったんだろうな?
やっぱ悪魔と契約しまくってるからかな?
クイックシルバーと契約して念動力を手に入れたと同じように、悪魔と契約して抵抗力もついてきたんかね?
そういやシールドを破壊するようなフルーレティのシッポ攻撃でも、痛いで済んだもんな。
これ毒だけじゃなくて、いろんな抵抗力が上がってるかもしらん。
マジ、人間からどんどん遠ざかってね?
大丈夫かな俺?
ルディーは「神様がゲリとかするハズないじゃん。だいじょうぶ、マスター全然変わってないから」とよく分からんフォローを入れてくれるが……。
そうこうしている内に、こくたんの扉へと到着した。この先がイフリートのいる魔界だ。
どうだろう? けっこう集まっているだろうか?
魔界は広い。
ベルゼブブやアスタロトといった、ボス悪魔の影響下にないものだって沢山いるはずだが……。