百五十九話 悪魔にも個性がある
「よ~し、ネビロス。門へ案内しろ」
たしか門は食堂にあるとか言っていたな。
城は広い。いちいち探してなどいられない。
コイツに聞けば一発なのだ。利用しない手はない。
ついでに門のむこうにある装置の場所も教えてもらうとするか。もちろん壊し方もな。
いや~楽だね。
さすが俺。
恐ろしいぐらいの名采配だったな!
ネビロス君は、カタッっと骨を鳴らすと、城の階段をのぼりはじめる。
すぐに大きな部屋へと出た。頭上にはクサリで吊るされた燭台があり、壁際には大きな木のテーブルがいくつも寄せられている。
大食堂やね。
そして、部屋の中央。みごとな装飾がほどこされた、白く巨大な扉があった。
「おお!」
これが門か。
パラライカでは空間にポッカリ空いた穴だった。こんな巨大な扉などなかった。
しかも――
「え? これって……」
骨だ。
扉は無数の人骨を組み合わせて出来ているようだった。
「わ! 動いてる」
扉やその枠に組み込まれた骨たちは、その場から移動はしないものの、手やら足やらがワサワサと動いていた。
「キモッ!」
なんかそういう虫みたいだ。
首筋がゾワゾワかゆくなってくる。
思うに、この骨たちは城の住人だったに違いない。殺されたのち復活させられ、門を彩るオブジェにされてしまったのだ。
悪趣味にもほどがある。
「お~い、ネビロス。なんだよこれは」
ネビロスのツヤツヤしたホネアタマを、ペチペチ叩きながら問いただす。
「結界で、ござイマス」
「結界?」
門じゃないの?
予想と違った答えにチョイと戸惑う。
「ハイ、さようデ」
「結界って、なんか封印でもしとるんか?」
封印とくれば、解いたらいけないモノ的なやつだろう。
あれだ。「大丈夫、だいじょうぶ。出てきても俺が倒してやるから」みたいな余裕こいたらエラいことになるやつだ。
ダメじゃん。なにしれっと誘導してんのよコイツ。
「フウインというカ――」
ネビロスの頭部をむんずとワシづかみにする。
「俺は門に案内しろと言ったハズだが?」
力をこめると、ミシミシと骨がきしむ音がした。
「ハワワワ、おまちクダサイ。ここが門でござイマス。コノ骨タチはカミが施したフウインを弱めるタメの呪術なのデス」
呪術?
あー、そうか。穴が閉じてしまわないようにしとるわけか。
つまり装置。
このキッショイ骨が門を維持する装置なんやね。
あれ? でもなんでここに?
装置は魔界にあるんじゃねえの?
気になったのでネビロスにたずねてみた。
「ハイ、もちろんマカイにもござイマス。ですが、コチラにもつくりました。呪術はアナを広げる役割も担ってイマス。ムコウとコチラ、二箇所でおこなった方が、アナはハヤク広がるのデス」
おお! なるほど!!
二か所か。
あたまいいな。
――いや、あたまいい……のか?
そりゃ広がるのは早くなるかもしれんが、閉める側にとっては都合よくね?
行って帰ってこられなくなるのが一番の問題なんだ。魔界側の装置を壊してからこっちも壊す。
これで魔界に取り残されないですむ。
そのあたりをもう一度たずねてみた。
「ハハ、ご冗談を。ニンゲンなどに壊せるハズもありまセン。われらにとってニンゲンなどタダのエサ。エサはエサらしく壊そうなどタイソウなことは考エズ、ブザマに逃げ惑っておればそれでヨイ……ハギャギャ! マッテ、マッテ、コワレ――」
ふたたび力をこめると、ネビロスの頭はパキャンと砕け散った。
「あ~あ、そうなるに決まってるじゃん。ネビロスってバカなんだね」
ルディーはあきれ顔だ。
「まあ、骨だけあって脳ミソないからな。学習などせんのだろう」
それにしても悪魔っていろんな性格のやつがいるなあ。
ある意味、人間より人間くさいというか……。
――――――
「コチラでございマス」
ネビロスの案内にしたがって空を飛ぶ。
目指すはもう一つの門だ。聞くところによるとフルーレティーが守っているのだという。
ちなみにネビロスは香炉をつかって復活させた。
なんという二度手間だろうか。何回も使わすんじゃねえよまったく。俺までガイコツになったらどうすんだ。
「マスター、門を壊す前にフルーレティーを始末するんだね」
「まあな」
ルディーの言う通り門の破壊は後だ。
俺が魔界に行っている間にフルーレティーに動きがあったら嫌だからな。
ネビロスとフルーレティーの争いは膠着していた。
いちおう攻勢にでていたのはネビロス。守備を固めるのがフルーレティー。
倒した相手を戦力にできるネビロスは、味方の消耗をあまり考える必要がない。
一方、倒されれば倒されるほど不利になるフルーレティー軍は、慎重にならざるを得ないといったところだ。
とはいえ、攻めるネビロスもさほど積極的ではなかった。
なぜなら魔界側の門を守るのはベルゼブブだからだ。
攻め入ったところで勝てるはずもないのだ。
結局はどちらも大将待ち。
互いの門はいまだ大きさが不十分で、三大悪魔と呼ばれる彼らが通れるほど広がってはいないのだ。
……まあ、それもどこまで本気かわからないけどな。
そこまで敵視しているのなら、門など関係なく魔界で戦ってるだろ。
遊びの面が大きいのかもしれないな。