百五十六話 南東にすすむ
つぎに向かった街はサンドラ。
こちらも職人の街で、ガラス加工を主な産業としている。
街の西には砂漠地帯が広がり、ここから取れる細かい粒の砂が、ガラスの原料となっているようだ。
「無人だね」
「ああ」
セカンダリア同様、人の姿がまったく見えない。
生活の痕跡だけがそのまま残っている。
「ここもダメだったんだね」
「そうだな」
もう少し早ければ助けられたのだろうか?
いや、助けられても維持できるとは限らない。戦力、兵糧が足りないと共倒れになる。
自分がいればなんとかなったと考えるのはおごりだろう。
できる範囲で出来ることをしていくしかない。
「よくスタートス無事だったよね」
「まったくだ」
スタートスはセカンダリア、サンドラよりも街の規模は大きい。とはいえ、よく持ちこたえたと思う。
なんかしらの要因がありそうだな。
これまでの状況を見るに、ちょっと兵士が多い程度では、とても悪魔の侵攻をおさえられるものではないからだ。
また、来る悪魔が大群でなくとも爵位持ちであれば、一瞬で落ちたに違いない。
「マスター、つぎはどっち?」
「これまで通り南東だな」
スタートスからずっと南東を目指してきた。このまま進めばフォーモリアという街に出るはず。
俺は行ったことはないが、規模としてはスタートスより大きいらしい。
「無事だといいね」
「う~ん」
悪魔の動きからすると魔界への門は、この先だと思うんだよな。
無事である可能性はとても低いだろう。
「んじゃまあ行くか」
「うん」
地面を蹴り上げると上空へ。
そのまま南東を目指す。
眼下に見えるのは、まばらな木々。それは徐々に密度をあげ、やがて森へと変わった。
フォーモリア大森林だ。背の高い木々が広範囲に広がっている。
その中にポッカリあいた草地をみつけた。
「マスター、あれ? 城壁みたいなのが見えるけど……」
草地の真ん中にデンとかまえるのは、城壁に囲まれた大きな街だ。
たぶんあれがフォーモリアなのだろう。
しかし……
「うわ! めっちゃたかってるよ」
街の周囲を埋め尽くすのは無数の悪魔だ。それ目がけて、城壁から雨あられのように矢が降り注いでいる。
「たいへん! 助けないと!!」
いや、これは……
「ルディー、手遅れだ」
「え! なんで? まだ戦ってるよ」
矢だけではない。街からは火球や石つぶてなど魔法による射撃も加わっている。
戦いは拮抗しているように見えた。
だが――
「もう死んでる」
そうなのだ。城壁から矢を射るのは、ところどころ骨が露出した生ける屍たちだ。
火球を飛ばすのも同様だ。マントをはおり、杖を持ったガイコツだったのだから。
――――――
「どうなってんのこれ?」
街を攻めるのは、鳥や馬などを模した動物に近い形の悪魔。
対する守備側は、スケルトン、ゾンビ、リッチなどといったアンデッドに類するもののようだ。
「仲間割れ?」
「う~ん」
というより勢力争いだろうか。
系統の違う悪魔同士が新たな領土を奪い合っているのかもしれん。
なるほど、これがスタートス周辺に悪魔が少なかった理由か。
どちらが先かは分からないないが、やってきた悪魔がセカンダリアまで攻め落とす。
その後、あとにやってきた別の勢力と争いになり、戦力を集めるためスタートスが手薄になったと。
迷惑なやっちゃなー。
戦うなら魔界でやればいいのに。
でもラッキーちゃラッキーか。これで侵攻が遅れたわけだし。
それに、この隙に門を閉めればいいんだからな。魔界側も悪魔が少ないに違いない。
問題は門がどこにあるかってことだが……。
「マルコシアス!」
悪魔のことは悪魔に聞こう。
宙に描かれた魔法陣よりマルコシアスが姿をあらわす。
マルコシアスはスタートスの守備のかなめだ。だが、この様子だと攻め込まれることもないだろう。
「お呼びでしょうか、主よ」
マルコシアスは空中にて、器用に首をたれる。
「うん、あれ見て」
フォーモリアの街を指さした。
「ほほう、これは」
マルコシアスは実に愉快げだ。
なんかオモロイもん見つけた! って感じ。
ちょっとだけ嫌な予感がするが、まあ嫌な予感など毎度のことだ。気にせずグイグイ行こう。
「状況はわかる?」
「ガイコツどもはネビロスの軍勢ですな。もう一方は、おそらくフルーレティー配下の悪魔たちでしょう」
ネビロス? フルーツティー?
なんか貴族のお茶会みたいだな。
「夫人、めずらしい果物をお取り寄せしましてよ」「まあ、とってもフルーティー」
優雅でゴザル。
「彼らはとても仲が悪い。鉢合わせて争いに発展したのでしょう」
へ~そうなんだ。
やっぱ悪魔にもソリが合わないとかあるんやな。
ちなみに強さはどんなもんじゃろ?
ワシ勝てるんかいな?
「マルコ、二人の特徴を教えてもらってもいい?」
「ネビロスは死霊術に長けております。死した敵を意のままに操ることができます」
死霊術! ネクロマンシーか!!
てことは人間が死ねば死ぬほど数が増えるやつじゃん。
これヤバイね。最優先で退治せんとイカンやつや。
「フルーレティーは雹を自在に降らすと言われております。また植物学に精通し、人に幻覚を見せるとも」
幻覚っすか!
雹はまあいいとして、幻覚はちと不安だな。
ルディーの強化版みたいなもんだろ? 精神系はやっかいなんだよなー。
「強い?」
弱けりゃ一気に蹴散らせばよい。仲間を増やす間も、幻覚を見せる間もあたえず遠隔攻撃でチュド~ンだ。
強かったらどうしよう?
姑息な手段を考えることになるが……。
「そうですな、どちらもかなりの強さです。しかし、主さまの足元にも及びますまい」
マジで!?
やった、楽勝じゃん。
「とはいえ相性がいささか悪いかと存じます。ネビロス、フルーレティーともに魔法が効きにくい特性がございます。魔法を主体とする主さまには、やりにくい相手かと。戦うのなら軍団をつかうべきでしょう」
え~、魔法効きにくいの?
それはイヤだなー。
それに軍団かー。それもあんまり気が進まないなあ。
たしかに軍団は強大になったけども、やられて数が減ったら俺自身が弱くなっちゃうんだよね。
役立たずでいいから、いっぱいいた方が強くなるって不思議な感じなんすよ、俺。
それにネクロマンシーだから倒されたら相手の戦力になっちゃうってことじゃん。
たしかに相性悪いなあ。
配下増やしてワシみずから突っ込むのが一番いいっていうね。
エラくなっても最前線。
なんなのコレ?
「そして、気になることがございます」
まだあんのかよ。
「彼らふたりの地は遠く離れたところにありました」
ふたりの地って領地だよな。魔界の離れた場所にあるってことか。
――ん? てことは!?
「おそらく門はふたつございます。近く、それも同時期に開いたためこのような事態になったのでしょう」
マジかよ!
じゃあ二個閉めろって?
さすがにそれはシンドイぞ。
「そして、さらなる懸念材料なのですが……」
さらなる?
もうエエって。
「ネビロスはアスタロトの配下の悪魔たちの長です。同じくフルーレティーはベルゼブブ配下の長。これら二つの争いとなると……」
なんか強そうなのキター!