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百五十四話 タダ働き

「ここにおいででしたか」


 スタートスの城の裏庭で、荷物をうんとこしょ、うんとこしょと運んでいたら、顔の長いやつに話しかけられた。

 ロキュウリだ。役人のうちのひとりの。


「どうかしたか?」


 答えながらも手は休めない。荷台に乗せた木箱をバンバン床におろしていく。


「あの? これは……」


 ロキュウリは困惑した表情で、みるみる積みあがっていく木箱を見る。


「あ? くいもんだよ食い物。あれポッチじゃぜんぜん足んねえだろ」


 配給する食料だ。

 昨日持ってきたものはすべて配りきってしまったのだ。

 しょーがないから新たに農場から持ってきた。

 まったく。ゆっくりするヒマもない。


「領主さま、じきじきにですか?」

「そうだよ、なんか文句あっか?」


 領主だったらなんだつーの。やんごとない身分のやつは重いもんを持っちゃいけねーってか?

 やだね。俺はやりたいようにやるんだ。路地裏のキタネー店でも平気で入っていくのだ。


 つーか、農場にはほかのヤツを入れたくねーからな。俺が運ぶしかねえんだよ。

 ――とは言えここから先は兵士にやらせる。

 俺がピィイと指笛を鳴らすと、二階の窓からやさぐれ兵士クレプトが顔をだした。


「こいつを運んでくれ。半分は配るが、もう半分は城の備蓄だ。場所はわかるな」

「は!」


 クレプトは短く返答するとすぐに姿を消した。たぶん数人の兵士をひきいて駆けつけてくれるはず。

 返事だけしといて放置とかはしないはず。


「文句など、めっそうもございません。しかし、これだけの食糧どこから……」


 ロキュウリが恐縮しつつもたずねてきた。

 君、質問多いね。


「西からだよ。書簡に書いてあったろ? いかなる援助も惜しまないって」


 援助してんの俺だけどな。

 むしろあいつらは支援を受ける側だ。

 おかしいな? ワシ配ってばっかりや。エラくなったら搾取する側にまわるんじゃないんかい。


「なんと! 輸送部隊の追加物資ですか!! まさかほんとうに来るとは。それもこんなに早く……」

「なんだよ、疑ってたのか?」


 約束だかんな。ちゃんといきわたるまで食料は配る。

 たまにウソはつくけど約束は守る。それが大人っていうものよ。


「も、申し訳ありません。飢えに苦しんでいたときとの落差があまりにも大きすぎまして。……あの、つかぬことを伺いますが、その輸送部隊の方々はどちらへ?」


 あ、そういやそうだな。荷物を届けたやつはどこ行ったんだつー話だな。

 たしかに不自然だ。


「わが秘蔵の部隊はすでにおらぬ。人知れず動き、人知れず去っていく。やつらは影、そう、影部隊よ」

「は、はあ」


 なんかよーわからん言い訳をしてしまった。

 べつに精霊召喚士だから精霊使ってるでいいんだけどね。

 でも、精霊いないのになんでとか、門がどうとか説明がめんどいんだよ。


「で、けっきょく何の用なの?」


 ロキュウリにたずねる。

 俺のことはえーねん。質問あるならサッサと言ってちょうだいなと。

 

「これは失礼しました。本年の税の徴収なのですが」


 あー、税ね。それで俺を探してたワケか。

 そういやこいつは財務担当だもんな。

 

「ナシだよ、ナシ。ベリンダから聞いてねぇの? 今年は全員免除だよ。オメーもな」


 ベリンダに伝えたはずなんだけどな。あいつが忘れるはずはないと思うんだが。

 ――まあ、確認しに来たってところか。ふつう全員免除って考えられないもんな。


「は、あ、いえ。聞きましたが、まさか免除とは、にわかに信じられず……」

「仕事も流通もストップしてるのに税だけ取ることはできんじゃろ? 心配せんでも来年からしっかり取る。やるべき仕事はたくさんあるからな」


 物見台の建設、城壁の補強、農地の開墾など、力仕事だけでもこれだけパッと思いつく。

 もちろん金細工、織物、染め物など技術職にも支援する。

 悪魔の脅威さえ排除すれば、みなに仕事を作ってやれる。


 普通ならこうはいかないだろうな。

 とにかく農場の存在が大きい。十分な食料があるからこそ、税だの仕事だの賃金だのと言ってられるのだから。


 ……そういや、俺こんなに働いてるのに賃金もらってねえな。

 作った作物は配り~の、門は閉じ~の、ずっとタダ働きばっかじゃん。

 サモナイト商会からのあがりすらも全部設備投資に消えていっとる。

 いったい、いつになったら金持ちになるのか。


「とにかくだ。財政のことはベリンダと相談して決めろ。あいつに一任しとるから」

「は、はあ」


「俺は他の街の様子を見てくるよ。悪魔に襲撃されてたら助けないといかん」

「え!?」


 もう手遅れかもしれんが、やれることはやっておきたい。


「こことおんなじで、じっと助けを待ってるかも知らんしな」

「子爵さま……」


「だからこっちはお願いね。頼りにしてるよ」

「はい! 承知しました。このロキュウリ、全身全霊で職務をまっとうさせていただきます」


 ロキュウリは深々と頭を下げた。

 うん、わかってくれてなによりだよ。


 じゃあ、行きますか。

 門を見つけたら破壊する。街が襲われていたら助ける。

 んでもって、保護を名目にまた街ごと頂戴しよう。 

 いや~、タダ働きはツレーわ。領地しかもらえないもんな~。フヒヒヒ。

 

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