百五十一話 メンドクサクなったので一気にまくしたてる
バラすべきかバラさないべきか。
……う~ん、なんかメンドクサクなってきたな。
あとで帝国じゃないから、どうたらこうたらと説明するのもダルイしな。
よし、ネタばらしして一気にケリをつけちまおう。
直轄地かと問うてきたロキュウリから視線を切ると、みなを見渡して言う。
「直轄地か。たしかに直轄地だ。だが、この地を治めるのは帝国ではない! ただいまをもって、このスタートスは帝国からの独立を宣言する!!」
場が一気に静まり返った。そのまま、しばしのときが流れる。
……あれ?
なんか反応がうすい。
みんな出来損ないのカボチャみたいな顔をしている。
おかしいな。せっかくのキメゼリフだったんだが。
「……反乱?」
ポカーンと口を開けていたやつが、ポツリこぼした。
その言葉を皮切りに、あたりは驚愕や嘆きの言葉でいっぱいになる。
もちろん、民衆だけではない。有力者も兵士も役人も、やいのやいのと騒ぎだす。
これはアレやな。
話が飛びすぎて、すぐにはついてこれなかったってやつか。
「まさか……」
「帝国を敵に回すのか! 冗談じゃない!!」
「そんなことをすれば、この街はどうなる?」
役人やら有力者やらが、フガフガ言う。
「ちょっと待て。あの顔、どこか見覚えが……」
「手配書?」
「まって、どういうこと?」
「やっぱり、子爵っていうのは……」
民衆も兵士もピーピーうるさい。
うん、これこれ。こうでなくっちゃ面白くない。
キサマらのさえずりなど、一瞬で消し去ってくれるわ!
「静まれい! 帝国がどうした!! 街が魔物に包囲され困窮する。民は男爵の不正にもさらされ、明日食べるものすらない。その間、やつらはなにをしていた? 食料どころか兵のひとりたりもよこさぬではないか!!」
ふたたびシンと静まり返った。
俺がこなきゃ死んでたからね。みなそれぐらいは分かっているはずだ。
とはいえ、不安なのも事実なワケで……
「いや、しかしそれとこれとは話が別です。帝国に反旗を翻したとなると、タダではすみません。すぐに軍を送ってくるでしょう」
ロキュウリが言葉をはさむ。
そして、それに何人もがうなずいた。
帝国って変なとこで信頼感があるのね。まあ、そうでなくちゃ各地の諸侯を束ねられないか。
といえ、そんなこと俺の知ったことではない。まずは嫌味で応戦だ。
「ふん、軍を送ってくると? 助けもよこさぬのにか?」
「うっ! 残念ながら……そうです。反乱には断固たる意志をつらぬくでしょう。帝国は強大です。一地方都市などあっという間にのみこまれます」
そうなのよね~。帝国ってデッカイのよ。周囲を併合してここまできたんだよ。
でもさ、ほっときゃ西側諸国にも手を伸ばすだろうし、だったらこっちからも切り取っていいわけじゃん?
「無用な心配だな。もはや帝国はわれらの足元にもおよばん。それにな、これは反乱でもなければ、一地方都市の話でもない。民を守るための緊急措置である。ベリンダ、あれを」
俺の合図とともにベリンダが書簡を大きくかかげた。
書簡は三つ。
フィリップ士爵、パラライカのハンフリー子爵、エドモンド伯爵からの血判状だ。
ぐだぐだ~っと長い文の他に、紋章、名前、血の捺印がされている。
国が違えど見る人が見れば、本物だと一目でわかるだろう。
ベリンダがそれをひとつひとつ読み上げる。終わるとマルコシアスが開いて民に見せる。
書かれているのは、エム・サモナイトを子爵と認めること。すでに自分たちもその庇護下にあること。
そして、スタートスの街を支配下に置くにあたり、いかなる援助も惜しまないことなどが書かれている。
ただ、エドモンド伯爵の書簡が、盲目的過ぎてじゃっかん恋文のように聞こえる。
まあ、それは気にしないでおこう。とにかく強い結びつきをアピールできればそれでよい。
これで身元もバッチリだしな!
「パラライカ……。みな帝国ではないのか?」
「西側諸国のものだ。……まさか西と戦争に?」
あ、うん。そうなるか。
おれが牛耳ったのは西のはじっこの方だけだけど、そう考えないもんな。
西側諸国と帝国の全面戦争みたいなイメージになっている。
これはあまりよろしくないのう。
しゃーない。切り札を使っていくか。
「よく聞け! これは東と西の争いではない。彼らの街も魔物に包囲された。それをわたしが解放してきたのだ!」
これにはみなが、顔を見合わせた。
ここだけでなく、西にも魔物が大量発生したのかと。
だが、これだけでは弱い。ここまで来たらもう言ってしまおう。
「わたしの庇護を拒むならそれでよい。帝国に助けを求めればよい。わたしは一向にかまわん。――しかし、魔物は遠慮してくれんぞ、なにせやつらは太古に封印された悪魔どもだ。帝国などに守れるものか!!」
ついに言ってしまった。悪魔この世界を狙っていることを。
じゃあ倒せるお前は何者やねんつー話になってイヤだったんだが。
だが、効果はてきめんだったようだ。みなの顔が真っ青になる。
「悪魔……」
「まさか……」
「え? うそ!」
リズが一緒に驚いていた。
いや、お前はえーねん。
「西側諸国では、すでに街がいくつかガレキに埋もれた。そこをわたしが食い止めたのだ。帝国? そんなもんがいつまでもあると思うな! すでに悪魔に滅ぼされていてもおかしくないわ!!」
そうなんだよね。救援要請が届いてないだけじゃなくて、届ける相手すらすでにいないってこともありうるワケで。
べつにイヤならいいんよ。俺も門の破壊に専念できるしな。
勝手に亡びてくださいよ。ガレキからまた復興させっからさ。
民衆たちは、あーでもない、こーでもないと話しだした。
そういえばと魔物の姿を思い浮かべて納得する者、できぬ者。
冷静に状況を観察する者、ただオロオロとうろたえる者とさまざまだ。
さて、ボチボチ決断をせまるかね?
とりあえずウソは言っていないから、判断は勝手にしてくださいな。
まあ、一部ウソがあると言えば、男爵が悪魔を召喚したという話ぐらいなもんか。
そんぐらいいいよな? いまさらそんなこと誰も気にしないだろうし。
そもそも言ったのは銀のバラの俺であって、子爵の俺じゃねえしな!
「では、あらためてみなに問おう。われをスタートスの領主と認めてその庇護下にはいるか? それとも帝国という幻想を見つめて、来るかわからない援軍を待つか? はたまた誰にも属さぬ独自の道を歩むか? 好きに選ぶがよい」