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百五十話 説得という名の

 城へ続々と有力者たちが集まってきた。

 何事かとおっかなびっくりな者、こちらを不審な目で見る者、野心むきだしの者、さまざまである。

 さて、これから俺が領主になるための説得をするわけだが……


「こっちだ、こっちだ! 一列に並べ!!」

「だいじょうぶ、押さないで。みんなの分、たくさんあるから」


 ガヤガヤとやかましい。

 すぐとなりで食料の配給をやっているのだ。

 配るのはジェイクとリズ。彼らはもともとスタートスで冒険者をやっていただけあって、段取りよくさばいていく。

 顔見知りが多いからだろう。配給をうける側も、多少なりとも安心しているように見える。


 この騒動、もちろんパフォーマンスだ。

 食料を配るのは俺で、民衆を味方につけているのだとアピールしているワケだ。


 ぶっちゃけ、もうこれで勝負ありな気もする。が、有力者とやらの意見も聞きたいと思う。

 ザコにはザコの言い分もあろう。


「聞け~い! われはエム・サモナイト子爵である。今よりスタートスの街を預かることとなった」


 一瞬、シンとなる。

 が、その後、民も有力者たちも騒然となった。


「やっぱり帝国からの援軍!」

「ありがたい、これで助かる」


 みな帝国の援軍だと思ったようだ。まあ、これが普通の反応だよね。

 スタートスは帝国傘下の一都市。援軍ならば帝国から来たと考えるのが当たり前だからだ。

 配給している時点で援軍いがいの何者やねんつー話だが、銀のバラと名乗り食料を売ったばかりだ。みな慎重になっているのだろう。爵位を告げられ確信したというところか。

 まあ、慎重なのはある意味正解といえる。なにせ領主の座をかすめ取られようとしているのだから。


 バレる前にとっと話を進めてしまおう。

 街の外を指さすと声を張る。


「周囲の魔物は駆除した。これで街が襲われることはない」


「おおー」と大きな歓声があがった。

 まずは武力を誇示する。秩序を回復したのも俺だと印象づけるのだ。


 あんのじょう街を救った英雄だと、賞賛の目が俺にふりそそいだ。

 いい感じ。


「見ての通り、食糧を配給している。みなこれまで、孤立無援でよく頑張ってくれた。感謝の意を込めて無償で提供させていただこう。もちろん、皆にいきわたる量はじゅうぶんにある」


 次にほこったのは財力だ。歓声はさらに大きなものへと変化する。

 いいぞ。もうすこし。

 さらに有力者たちを見回して言う。


「いま、集まってもらっているのは街に貢献した者ばかりだと聞いている。今後も私のもとで、その力をふるってもらいたい」


 身分の保証だ。これで受け入れやすくなったに違いない。

 男爵に取り入って甘い汁を吸っていたものもおろう。ひとまずそれを保証してやれば、抵抗はより少なくなる。

 現に有力者の何人かは、表情がやわらいでいた。


 よし、ならばもっと踏み込ませてもらおうか。

 組織運営の基盤となる人事を発表させていただく。

 いま、ここには有力者以外にも、役人たちも集まっている。

 兵士、役人、有力者と三つおさえてこそ、安定した統治ができるというものだ。


「では、街を運営するにあたり、長となるものを紹介させていただく。しっかりと覚えていただきたい。まずは騎士団長、マルコ!!」


 俺の後ろに控えていたマルコシアスが、一歩前へと歩み出た。

 場にすさまじい緊張が走ったのがわかる。

 マルコは人間に擬態しているものの、圧迫感がものすごい。武に聡い者ほど強く感じるだろう。

 じっさい有力者の護衛らしき者が、たじろいだのが分かった。


「彼ら騎士は主に外敵から身を守るのに活躍する。ゆえに街の秩序は兵士たちに託すことになるだろう。その責任者が彼だ。兵士長クレプト、前へ!」


 やさぐれ兵士が一歩前へ出た。なんと、こいつにも名前があったのだ。

 正直覚えられないから、やさぐれ兵士と呼びたいが、おおやけの場ではそうもいかない。

 クレプト、クレプト、クレプト……よし、これで三日は大丈夫だ。

 やさぐれ改めクレプト兵士長が、すました顔で胸を張る。


 しかし、これには兵士たちがざわめいた。

 聞いてない、どういうことだと顔を見合わせる。

 まあ、そりゃそうだろうね。なんでアイツが? ってなもんだろう。

 しょーがない、功労者だからね。働いた者がエラくなる。これ当然のことね。


「兵士の階級はすべて見直すこととした。選定は騎士団長マルコにゆだねるものとする」


 その瞬間、兵士たちのざわめきはさらに激しくなった。

 階級を見直す。ヒラに降格する可能性があるのだ。上のものほど、気が気でないだろう。

 だが、不服があっても申し立ては難しいだろうな。

 なにせ選定は騎士団長マルコだ。文句があればやつに言えということなのだ。

 そんなのムリに決まっている。あんな闇のオーラに包まれたやつに意見できるものか。

 そんなツワモノがいるなら、男爵などとうにその座を追われとるわ。


 ちなみに、兵士の階級の見直し。実際、選ぶのはクレプトだ。

 だが、彼に兵士の不満が集中するのは避けたいところ。マルコという防波堤を置くことにしたのだ。

 これで一気に改革が進むだろう。


「次、徴税官」


 ベリンダが一歩前へ出た。

 ベリンダ・クロイツフェルト。言わずと知れたサモナイト商会の秘書だ。強引に拉致っ――いや、丁重にお迎えした。

 このさい、サモナイト商会の秘書は凍結させてもらう。

 こっちの方が急務なのだ。

 彼女は貴族のご令嬢だ。なんとかうまくやってくれると思う。


「名前はベリンダ・クロイツフェルト。徴税官として街の財務を管理してもらう」


 こんどは役人たちよりどよめきが起こった。

 ベリンダは新顔、それに女だ。それを不服として……ってわけじゃないだろう。

 別のことに引っかかったのだ。


 徴税官。その名の通り、税を徴収する役人だ。顔色ひとつ変えず、俺のチンコをペンでぶっさすと言い放つ彼女にはぴったりの役職だろう。

 そりゃあ無慈悲に税を徴収するはずだ。

 だが、問題はそこではない。

 徴税官は皇帝の代理人でもある。各地を回り、都市から税を吸い上げるのも業務の一環だ。

 ゆえに徴税官が管理するのは本国、すなわち皇帝の資産であり、地方都市の財務を管理するはずがないのだ。


「お待ちください!」


 役人のひとりが声をあげた。

 日焼けをしてない、色白で面長(おもなが)の男だ。

 え~っと誰だったっけ。いちおう役人の顔と名前は事前に確認しておいたんだけどな。

 こう人が多くちゃ覚えきれないんだよ。

 自信がないので小さくたずねる。


「えっと、白キュウリ君だったっけ?」

「ロキュウリです」


 そうだった、そうだった。

 なにせ見た目がキュウリに似てたから、そりゃあ間違うよね。


「ロキュウリ、何か?」

「彼女に街の財務を管理してもらうとは、どういうことですか?」


 やっぱそこだよね。引っかかって当たり前。

 むしろ、そこをスルーするやつなんぞに内政など任せておけるかってんだ。

 けど、ただゴネてるだけの可能性もある。いちおう確認しておこう。 


「言葉通りだが? 彼女にスタートスの財務を管理してもらう。なにか? おまえたちは女の下につくのが不服とでも?」

「――いえ、そういうことではございません。これまで徴税官どのは、年に一度税を徴収しに来られるだけでした。すぐに本国へ帰ってしまわれる。しかし、子爵様は管理と申された。まさかここは帝国の直轄地となるのですか?」


 あ、そっちいったんだ。

 なるほど、直轄地か。それなら徴税官の仕事も変わってくるか。

 う~ん、予定ではここらでバレて、帝国じゃねえんだよ文句あっかコラァ! って言うつもりだったんだけどな。

 このまま帝国ヅラした方がいいのかな?

 でも、そのうちバレるだろうしな。どうしたもんか。


ややこしい。

もちっとスッキリできんもんかのう。

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