百四十九話 詭弁で乗り切る
「賞金首?」
「あのエムか?」
「では子爵などと言うのは……」
兵士たちが、くちぐちにこぼす。
やや雲行きが怪しい。
しかし、こんなもの想定内だ。似顔絵はちょっと考えてなかったけど、バレることぐらいは承知の上なのだ!
「ふん、まんまと男爵に乗せられおって」
ふふん、と鼻で笑う。
余裕の笑みだ。本人がいないのだ。事実確認できなければどうとでもなる。
対する兵士は苦い顔。
ふっ、きさま程度など、簡単に丸め込めるわ!
「不正を調査していると言ったであろう。それに感づいた男爵がウソをでっち上げたのだ」
「嘘?」
俺の話を聞き返す兵士。
よし、よし、悪くない。聞き上手はやりやすい。
「そうとも。おのれの不正がバレると焦った男爵は、ワケの分からない罪状を押しつけてごまかそうとした」
「賞金首とでっち上げたと?」
「それでなんとかなると踏んだのであろうな。事実わたしは逃げることしかできなかった。貴殿たちが聞く耳を持たなかったからな」
「そ、それは……」
ヤバイと思ったのだろう。兵士の顔色が一気に悪くなった。
なにせ思いもしなかった落ち度が、自分にふりかかってきたのだ。
「なにか証拠はありますか? 男爵が嘘を言っていたという証拠が」
動揺を隠しきれない兵士は、それでも問うてくる。
証拠。証拠ね。ばかめ、それこそ悪手だ!
「ふん、笑止千万だな。証拠がないのはでっち上げた男爵のほうではないか? 考えてみよ、やつは精霊を奪い去った罪だと言った。――だが、どうやって精霊など奪い去るのだ? そのようなことができるならば、お主がやって見せよ! ついでに街を取り囲んだ魔物も消し去ってみよ!!」
兵士は言葉をつまらせた。
あたりまえだ。精霊を奪い去るなど誰にもできやしない。
罪と言うなら、それはウソでしかない。
これを覆すには自らやってみるか、やり方を述べるしかないだろう。
だが、そんなことできるはずがないのだ。
まあ、精霊はすでにいないし、魔物も俺が倒していないんだが、言わんとしている意味は理解していると思う。
俺なら空気を読まず、はい、消しました! って言うんだが。
「で、では冒険者というのは? ギルドには冒険者のエムとして登録されております。なにゆえ冒険者が子爵になれましょうか?」
それでも兵士は食い下がる。
ふっ、ムダなことを。
「ちがうな。冒険者が子爵になったのではなくて、子爵のせがれが冒険者に扮していたのだ」
「子爵の……せがれ?」
「貴族の三男坊が冒険者をやる。よくある話だ。だが、長男が事故にあい、次男も病に倒れる。ならば世継ぎは三男坊となるではないか」
詭弁である。先ほどもそうだが、兵士の問いは私の出生だ。
それが男爵のウソにすり替わり、いまは一般論に置き換わろうとしている。
ふふ、こんなはずではと思っているか?
口論で俺に勝つのは十年早いわ!!
――だが、兵士はそれに気がついたのか、俺の出生に焦点をあててくる。
「では、あなたは貴族の三男坊だったのですか?」
「ふん、たとえばの話だ。貴公はわれに身内のハジをさらけ出せと?」
秘技、貴族ブロック!!
メンツを重んじる貴族ならではの防御術だ。
平民はこれでたいがい黙る。
「……」
よし、決まりだな。
兵士が肩を落としたところで、本題に入る。
「まあよい。後で納得のゆく証拠を見せてやる。――お前たち、街の有力者をここに連れてこい。皆の前ではっきりさせようではないか!」
兵士を説得したところで領主の座は手に入らない。
有力者を納得させてこそ、領主足りえるのだ。
つーか何度も言うのメンドくせえしな。
一度で終わらせよう。一度で。
やさぐれ兵士を筆頭に、数人が城の外へと向かう。
これも段取り通り。有力者の目星はつけてある。
ちゃっちゃと引っ張ってきてもらって、この茶番を終わらせようではないか。
ちらりとマルコシアスに目をむけると、すごく愉快そうな目をしていた。
男爵のときもそうだったけど、やっぱ悪魔って人をだまくらかすのが好きなんやな。