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百四十七話 スタートスの街のゆくすえ

新章開始

 リール・ド・コモン男爵は行方不明となった。

 屋敷からこつ然と姿を消したのである。

 民衆は大いに困惑した。振り上げたコブシの落としどころを失ったのだ。

 このままでは収まりがつかない。みなで徹底的に家探しした。だが、男爵の行方はようとして知れなかった。


 そんなとき、民衆のひとりが偶然にも書斎に隠された通路を発見した。

 どこかへ続く通路だ。おそらく男爵はここから逃げたのだろう。

 民衆はとうぜん追う。しかし、その先はカギのかかった鉄の扉があり、開けられなかった。

 だが、ここでも偶然いあわせた盗賊ギルドの一員なるものより開錠される。扉の先が街の外へとつながっていることが判明した。

 街の外は魔物だらけ、けっきょく男爵は魔物に食われたんだと結論づけられた。


 こうして、スタートスの街は領主不在となった。政治的空白である。

 とはいえ、それで税金がなくなるわけでも、階級がなくなるわけでもない。街はこれまでどおり存続していく。

 当たり前である。領主がいなくとも官職として働くものは健在であり、しっかりと税金を徴収していくのだ。

 兵士の給料もそこから支払われていく。


 このような状態、通常ならば帝国より代替わりが指示されるか、新たな代官が派遣されるかである。

 しかし、この地域は悪魔に占領され、孤立無援である。

 指示を仰ぐことも出来なければ、指令がくだることもない。


 このまま放置すれば争いがおこるだろう。

 誰が領主の座にすわるかで、モメるのだ。

 回避するには、ある程度の戦力を保持し、民を飢えさせないだけの財力のある者を領主にすえる必要がある。とりあえず形だけでも。



「と、まあ、そんな感じだ」

「は、はあ」


 俺がことの顛末(てんまつ)を話すと、イケメン騎士フィリップはあいまいにうなずくのだった。

 スタートスの街はまだまだ食料がいる。追加するべくセラシア村へ取りに行った矢先、フィリップをたまたま見つけたのだ。

 ちょっとお話いいですか? と木陰に連れ込んでの雑談である。


「それでだ。領主がいなくなったわけじゃん」

「よくわからないんですけど、そうなんですね」


「で、そこの領主をお願いできないかと……」

「はい?」


「お~、引き受けてくれるか! いや、助かったありがとう」

「ちょちょっと! そんなこと言ってませんよ。おかしなこと言わないでください」


「いま、はい、って言ったじゃん」

「やめてくださいよ。はいじゃなくて、はい? ですよ。訳がわからなくて聞き直したんです」


「ワケがわからなくてもいいんだよ。引き受けてくれれば」

「引き受けるわけないでしょ。そもそもわたしはセラシア村の領主です。遠く離れた、縁もゆかりもない街の領主なんてやれるわけがないでしょう」


 フィリップは苦い顔である。お人好しの彼も、さすがに見知らぬ土地の領主を引き受ける気はないようだ。

 ただね、仮に帝国から代官が派遣されたとして、やつらスタートスと縁もゆかりもないぞ。

 だったら君でも問題などあろうはずもない。むしろ、若くてカッコイイやつが領主のほうが民衆は喜ぶだろう。

 食糧だって配ればいい。

 街の窮地を見過ごせないイケメン騎士。たいがいはイチコロやろ。


「つーか、他に頼めそうなやつがいねーんだよ。支援はすっからさ」

「ムチャ言わんでください。サモナイトさんがやったらいいじゃないですか」


「え~、やだ。そんなことしたら身動きとれなくなっちゃうじゃん」


 いろんなところに行って、いろんな経験をしたい。

 領主みたいな不自由なポジションは、ジジイになってからで十分なのだ。

 そうだ、足腰立たなくなったら領主をやろう。

 各地から美女を集めて、杖でツンツンつついてやるのだ。


「わたしだって嫌ですよ。そもそもセラシア村を治めるのだって、みなが路頭に迷うから仕方なく引き受けたんです」

「スタートスだって似たようなもんだろ」


 路頭どころか悪魔に食われるぞ。

 それは俺がなんとかするから、住民を束ねてほしいわけよ。イケメン騎士フィリップ君に。

 しかし、フィリップはピシャリと言う。


「だからこそですよ。わたしは生まれも育ちもパラライカです。故郷を、そこの民を守ろうと思ったんです。スタートスには民も兵士もいるんですよね? だったら、スタートスの街を守るのはスタートスの街の人じゃなきゃだめでしょう」


 おお……正論を。


「はい、マスターの負け~」


 ルディーの審判が下ってしまった。

 確かに負けだな。――というかフィリップに頼むのは、そもそも無理筋だった。

 フィリップはさらに続ける。


「さきほどの話だと、スタートスはサモナイトさんの故郷なんですよね? 戦力もあって、財力も食料もある。民にも優しい。サモナイトさん以外に適任はないんじゃないですか?」


 フィリップの過剰な評価に困惑する。

 俺そんな優しくないと思うんだが……。

 老後の目標は杖で美女をツンツンするやぞ。そんなカスに街の命運を託してええのんか?


 まあ、いまさらっちゃいまさらか。

 なんの因果か、街どころか人類の命運が俺にかかっとるわけやしな。


 しかし、人材不足はいかんともしがたいな。

 なにかを託せる人物がぜんぜんおらん。

 戦力は十分すぎるほど整ってるんだけどな。帝国なんぞ木っ端みじんにできるほどの。

 ただ、ほぼ人間じゃないのよね。内訳は精霊に妖精にリザートマン。そして、悪魔だ。

 人間の国を治めるのは、やっぱ人間でないと。


「マスター、諦めて領主やりなよ。遅かれ早かれ乗っ取るんでしょ。その帝国ってやつがある限り、好き勝手できないんだしさ」


 まあ、そうなんだよね。

 こっち側に販路を広げるとなると、いずれ帝国が邪魔になってくるわけで。


 組織がデカくなれば、必ず帝国からチャチャが入る。

 誰かを領主に据えても、俺との板挟みになったらかわいそうだしな。


「わかったよ。やるだけやってみるよ」


 いろいろ根回し考えてたけど、俺がでるならあんまいらんか。

 いざとなったら力ずくでどうとでもなるしな。


 西側諸国は流通から支配、帝国は領土まるごと奪い取る。

 なにやら話がデカくなってきましたなあ。


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