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百三十八話 たたみかける

 市場どうよう住宅街、商業地区などでも販売をおこなった。

 ヤサイをとにかく売りまくる。けっこうな儲けだ。

 だが、ここでも騒ぎを聞きつけた兵士が現れる。難癖つけて奪おうとするのだ。

 とうぜん殴る。それから、闇市広場でまた販売すると言い残して、すたこらさっさとトンネルへと逃げ込んだ。


 もちろん、トンネルはすぐには追ってこれないようにふさいだ。

 ただ、ふさぎすぎてはいけない。出入口をちょっと土砂で埋めるだけにとどめる。

 見つけてもらいたいのだ。のちのち土砂を取り除き、トンネルを調査してもらうために。

 これでだいたいの仕込みは終わった。

 あとは本番を残すのみだ。


 そうして、向かったのはB地点。

 俺の商売の原点でもある闇市広場に、ひょっこりと顔を出す。

 いるいる。

 すでに多くの住民が、買ったヤサイを入れるためのカゴやふくろを用意してウロチョロしていた。

「まだか?」「ここで合ってるんだろうな」なんて声もチラホラ聞こえる。


 よしよし。いいあんばいだ。

 兵士はどうだ?

 いた! やさぐれ君だ。

 数人の仲間と思わしき兵士とともに、少し離れた位置で様子をうかがっている。

 完璧!

 では、いくぜ!!


「おまえら、待たせたな! これから食い物を売ってやる。一列にならべ!!」


 穴からポンと飛びだすと、華麗に着地。木箱に足を乗せる。

 横に置くのは超巨大なカボチャだ。目印として最適だろう。

 このカボチャは農場でとれたやつだ。収穫が遅れたら、あれよという間にデカくなっていたのだ。


「きた!」

「あそこだ!!」


 わーと歓声とともに人々が集まってくる。

 すごい勢いだ。

 あんまり近づかれると暑苦しいので、前を残して風魔法の障壁をはる。

 なにごとにも適度な距離間がひつようなのだ。


「よ~し、さっそく売るぞ。最初は誰だ? 出した金額に応じて――」

「待て~い!!」


 これからだというところで、俺の言葉をさえぎるやつがいる。

 しかも、ものすごい声量だ。

 押すな押すなとひしめき合っていた人々が、シンと静まり返った。


「その食料はいってえどっから持ってきたんだ? おかしいじゃねえか、みんなこんなに飢えているのに」


 そいつはズバリと切り込んできた。けっこう核心をついてくる。

 食料がないからこそ、この状態になっているのだ。

 街が閉鎖され、外から持ってきたとは思えない。にも関わらず、なぜか食べ物が大量にある。

 どう考えてもおかしい。

 街の人々はみな、食糧を手にいれるのに必死で気づいていない。

 いや、気づいたとしても黙っているのだ。売ってもらえなくなることを恐れて。


「そうよ、そうよ」


 女が声をあげた。民衆に隠れて姿は見えないが、先ほどの意見に同調してくる。


「そもそも、アンタ誰なのよ。巻きつけた布で顔もよく見えないし。ちょっと怪しいんじゃない?」


 いま俺は顔を隠している。

 子汚(こきたな)いシャツに子汚いズボン。うす汚れたシャツを顔に巻きつけ、いかにも怪しげだ。

 だが、これがいい。この胡散臭さがキモなのだ。 


「誰でもいいじゃねえか。さっさと食――」


 そこへ誰かが割り込んできた。

 細かいことはどうでもいい。とにかく食料をってな話だろう。

 みなのこころを代弁したとも言える。

 だが、それでは困るのだ。

 せっかくの仕込みが台無しになってしまう。


 君はちょっと黙ってなさい。

 念動力でアゴを固定し、それ以上喋れないようにした。


「誰かって? 俺は盗賊ギルド、銀のバラだ!」


 先ほどの発言を上書きするように声を張り上げた。

 これで流れを引きもどす。


 ちなみに、仕込みとは最初に発言した二人だ。

 大声をだしたのがジェイクで、それに乗っかったのがリズ。

 ふたりともパラライカから拉致(らち)ってきた。

 念動力で自由をうばい、目隠しをして門を通す。

 いや~、コサックさんとドローナがいないときはどうしようかと思ったけど、代わりが見つかってよかったよ。

 ふたりとも最初はエラい怒ってたけどな。

 家賃のことを持ち出したら、なんかごにょごにょ言っていた。

 やっぱ、貸しは作っておくもんだな。ムリヤリでも、こころがまったく痛まねえもの。


「盗賊ギルド? じゃあ、この食いもんは……」

「そうだ! 盗品だ」


 ジェイクとの掛け合いだ。

 茶番は段取り通りすすんでいく。



「盗賊ギルド?」

「盗品?」


 民衆がざわざわと騒ぎだした。

 いいぞ。完全に引き込んだ。


「じゃあ、おまえは俺たちから盗んだものを売っているのか? みながこんなに苦しんで……」


 おっと、こいつは仕込みじゃない。

 さっさと黙らせてしまおう。


「うるせえ! 盗賊が盗んだものを売ってなにが悪い!!」


 逆切れする。

 なんたって悪名高き、銀のバラだからな。

 批判など、どこ吹く風だ。


 ――今回は支援ではなく販売を選んだ。貨幣が欲しかったからな。

 べつに販売だって悪い行為ではない。俺は商人であって為政者ではないのだ。

 だが、相手は飢えた民衆。たとえ盗品じゃなくとも、心象はよくないだろう。

 なにせ人の弱みにつけこむ行為だ。サモナイト商会の名をだせばイメージをそこなう。

 そこで盗賊ギルドなのだ。盗品を売るのは当たり前。

 しかも、俺は銀のバラのボスらしいからな。

 気がねなく弱みにつけこめるってもんだ。


 よし! たたみかけるぞ!


「それにな! 盗んだのはお前たちからじゃねえ! 男爵だ。ここの領主の男爵の邸宅から盗んでやったんだ」


 ふははは。決まりだ。これで民衆の怒りの矛先が男爵にむかうだろう。

 なんで、そんな食料をためこんでるんだってな。


 証拠だって、すぐにでてくる。

 なぜならヤサイを販売した場所はすべて男爵邸につながっているからだ。

 トンネルだ。トンネルを辿ってみりゃあ男爵邸の納屋にでる。

 すると、あら不思議、目にするのは大量の食糧だ。だって急遽つくった貯蔵庫がそこなんだもの。


 だが、それだけじゃねえぞ。

 ダメ押しの一手だってあるんだからな!!


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