百三十六話 キャストをそろえる
ズコズコズコのズコリンチョ。
地下牢にむけてトンネルを掘る。
このへんのはずだが。
こんどは上にむかって穴を伸ばすと、そこから四角い石が落ちてきた。
地下牢の石畳のようだ。無事到達したのだろう。
チィ~ッス。
穴からヒョイとあたまを出す。
目に入るのは粗末なベッド、ウンコする桶、そして、なんかのシミ。
……人影はない。
んん?
手のひらに炎を灯し、全体をながめる。
鉄格子で区切られた牢獄はどれもみんなカラだった。
「はて?」
よっこいしょと穴からぬけだし、すみずみまで見渡す。
やっぱり誰もいない。ベッドの下に隠れている……なんとこともなさそうだ。
「散歩?」
「んなワケないじゃん」
牢にいるから囚人なんですよ。
まあ、鉱山で強制労働ならば留守もありえるけども。
でも、こんなところに鉱山などないしなあ。
鉄格子に手をかける。
「フンガ~!」
鉄の柵は、いともたやすくクニャリと曲がった。隙間から牢の外ヘでる。
「わ~、すごい怪力」
「ふふふ、われを捕らえられるのは恋のクサリだけだ!」
ボケたところで地下牢を後にする。
誰もいないのだからしょーがない。
しかし、ここは城の中。囚人はともかく、看守や兵士みたいなのはいてもいいはずだが。
部屋をいくつかまわる。
ゴミや布の切れ端、樽の破片などが落ちていて非常にキチャナイ。掃除するやつはいないのだろうか。
お!
やがて詰め所らしきところ、イスにグデンと座る男をみつけた。
どうやら兵士のようだが、髪もヒゲも伸び放題、まったくやる気が感じられない。
「どうすんのマスター?」
どうすんべか? とりあえず話しかけてみっか。
こっちは不審者まるだしだが、相手も似たようなものである。
「あの~、すみません」
「……」
兵士はちらりとこちらを見るも、興味をなくしたのか、すぐうつむく。
あら~、無気力兵士だ。
だが、もう一回チャレンジ。
「ごめんください。二、三、お聞きしてもよいでしょうか?」
「……失せろ」
わ~、やさぐれてんなあ。
じゃあ、これでどうかな?
ポッケから取り出したるは、夕日のごとく熟れたオレンジ。
「食べる?」
――――――
やさぐれ君から得た情報によると、兵士の数が激減したのだそうだ。
配給がなくなったのもそうだが、大きな原因は略奪だ。
一部の者が、守るべき市民から食い物をうばいとったのだ。
それにより兵士の間で対立がおこる。
とうぜん略奪をよしとしない者は、領主である男爵にうったえた。
だが、男爵はそれを聞き入れなかった。
ないものはどこかから手にいれるしかないだろうと、突っぱねたのだ。
これで多くのものが去っていった。
残ったのは最初から略奪に参加していたもの、あとから加わったもの、そして、行く当てのない者だけだ。
もちろん、最初からこうだったわけではない。
街を閉鎖してすぐ、男爵は部隊を編成し、他の街へと助けを求めた。
しかし、誰も帰ってこなかったのだ。
「囚人は?」
やさぐれ君にたずねる。
兵士は自分の意思でやめられるが、囚人はそうはいかない。
出られるのは、刑を終えるか死んだときだけ。
牢はもぬけの殻だった。飢えで死んだにしてはキレイすぎる。
「ぜんぶ逃がしたよ。戦力としてな」
あーなるほど。
「部隊に組み込んだのか」
「そうだ。先発隊が帰ってこず、残った兵士では戦力が足らない。刑期をチャラにするかわりに後発部隊に入れた」
助けを求める第二陣だね。囚人の有効利用。
じゃあ、残念だけどコサックさんは死んでるか。
なにせ急造部隊。悪魔にとっちゃエサでしかない。
とはいえ確認はしとこうか。オバハンは除外ってこともありえるし。
「ちなみにコサック、ドローナって囚人はどうなったか分かる?」
「コサック? ああ、盗賊ギルドの銀のバラか」
「そうそう」
「脱獄した。とうの昔にな」
マジで!!
「仲間が手引きしたんだ。やつら城の中にまでも根を張ってやがった」
おお!
銀のバラやるな。じゃあ、とっくに街から抜け出してるか。
あいつら帝国の不穏分子だからな。
帝国に不満をもつものを吸収して着実に力をつけてるのだろう。
しかし、まいったな。
俺のプランではコサック、ドローナに手伝わせるつもりだったのに。
「あんたは逃げないのか?」
兵士にたずねる。
「行くあてなんかねえよ」
なんとも悲しい返事。まあ家族がいなきゃこんなもんか。
う~ん。しかし、これもなにかの縁かな。ちょっと演者に誘ってみるか。
「男爵に対する忠誠心はあるかい?」
あるようには見えないが念のため。
「ヘッ」
鼻で笑われてしまった。
もういろいろと諦めてんだろうなあ。
「じゃあ、ちょっと働かないか? 食い物、そして兵士としてのほこりを取り戻すために」