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百三十五話 策をろうす

 方位と距離を定めると、地面に穴を掘る。

 トンネルだ。こいつで街のなかへと侵入するのだ。


 ホジホジ、ホジホジ。

 大人ふたりが並んで通れるぐらいの大きさにした。強化された土魔法で、面白いぐらいに掘り進んでいく。


 このへんかな? ポコリンチョ。

 地面から顔を出す。

 ビンゴ!

 街はずれの、木とかが生い茂って目立ちにくい場所に出た。


 よしよし。まずは街の様子を見て回ろう。

 兵士の士気、民の飢えなど確認しておきたいことがいくつもある。


 木々を抜けて街の中心へと向かう。

 が、そのとき、バリバリとなにかをはがす音が聞こえた。


 なんすか?

 音のする方へ向かうと、少年がひとり木の皮をはいでいる。


「あれ、なにしてるんだろう?」


 と、ルディー。


「虫を探してるんじゃないかな。幼虫なんかがよく木を食ってるから」


 しかし少年は、はがした樹皮にかじりつく。


「わっ! 皮たべたよ」


 そっちかよ。まあ食べられないことはないが、栄養なんかほとんどないけどな。

 そんぐらい飢えてるんだろう。


「なんか、かわいそうだね」

「だな」


 ちょうどよい。現地に溶け込むために彼の衣装を借りるとしよう。


「少年!」

「……」


 呼びかけるも少年は、生気のない瞳でこちらをぼんやりと見返すだけだ。

 その体は、骨が浮き出るほど、やせ細っている。

 すぐに食べ物をあげたいところだが、ここはガマン。

 商人らしく交渉をはじめる。


「少年! その古くなった服と、この肌ざわり抜群の新しいシャツを交換してもらえないかな? 礼はするから」

「……」


 あれ? 反応がイマイチだな。


「俺、言い方悪かった?」

「う~ん……」


 表現には気をつかったんだけどな。高圧的にならないように。

 やっぱ食いもんか。

 腹減ってるときに肌触りとかどうでもいいもんな。

 マンゴーあたりを前面に押し出していくか。

 

「少年、このマンゴーと――」

「!!」


 少年はすさまじい勢いで駆けてくると、俺の手からマンゴーをむしり取った。


「なんと素早い」

「まだ言い終わってないのにね」


 裸にさせないようにとか余計なことを考えたのが悪かったようだ。

 ガリガリ、もちゃもちゃと、少年はむさぼるようにマンゴーを(しょく)していく。


「よっぽど腹減ってたんだなあ」

「だねえ」


 少年はペロリとマンゴーひとつを食べきった。

 そして、手についた汁をベロベロなめると、最後に服で手をぬぐう。


「こらこら、服で拭くな。さっさと脱いでよこしなさい」


 しかし、少年はキョトンとした顔でこちらを見る。


「いや、だからね。服をちょうだいよ。マンゴーもう一個あげるからさ」

「!!」


 すさまじい速度で服を脱ぐ少年。

 そのまま俺に放り投げると、すぐさまマンゴーをうばいとる。


殺伐(さつばつ)としてんな」

「油断してると盗られちゃうんだろうね」


 腹の中に入ったものはさすがに盗られないもんな。

 この丸めた服は取り返せる可能性もあるし、代替えもきく。


「マスターその服着るの?」

「うん。目立たないように変装する」


「げ! 小さくて入らねえ」

「当たり前でしょ。マスター何年冒険者やってたのよ」


 華奢に見えても元冒険者、魔法職でも肉体労働にはかわりない。

 というかそもそも背丈からちがう。


「少年! もっと大きいサイズはないか? 食い物ならまだあるぞ!」


 そんなグダグダな交渉の末、俺にピッタリサイズのボロッチイ服とずきん、街の情報などを入手することができた。


 ふ~む。

 少年の話によると街が閉鎖されてから食料は配給制になったようだ。

 しかし、それもすぐにとどこおり、奪い合いに発展する。

 兵士は最初いさかいを止めていたものの、軍の物資がつきるとともに奪う側へまわったんだと。


 ありゃりゃ。

 けっこう最終局面だな。

 となると街が悪魔に完全包囲されていないのも不自然だ。調査する必要がありそうだのう。


「マスター、どうするの? イヤガラセ続行?」

「もちろん。イヤガラセしつつ時間を稼ぐのが俺のプランだ」


「あー、わたしなんとなく分かっちゃったかも」

「さすがルディーだ。こっからガンガンいくぞ」


「ラジャー!!」



――――――



 やってきました市場前。とうぜん店などどこもやっていない。


閑散(かんさん)としてますねえー」

「ますね~」


 穴をホリホリ、トンネルをつくる。


「ここがAポイント」

「Aポイント」


 そこらにあった木の板で穴をふさぐ。カモフラージュだ。


 じゃ、次。

 闇市でにぎわっていた広場へとむかう。

 とうぜんここもやっていない。

 打ち捨てられた木箱や屋台の残骸などが残っていて、なかなかに風情のあるたたずまいだ。


「わー、ネズミすらいない」

「すでに胃の中だろうな」


 ここが俺の商売人としての原点だと思うと、悲しい気分がしなくもない。

 まあ、最後に賑わってもらおうじゃないか。


「ここがBポイント」

「Bポイント」


 もちろん、トンネルホリホリ、出口を板でふさぐ。


「つぎは住宅街だ!」

「ふふふふ」


 こうしてGポイントまでつくった。

 もちろん、すべてのトンネルは地下でつながっている。

 これで仕込みはだいたい終わったな。あとは人材の確保だ。


「マスター、つぎはどこ?」

「地下牢だ」


「地下牢?」

「うむ。コサック氏がどうなったか確認する」


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