百三十四話 細かい話
「商会長。行ってまいります!」
「うん、気をつけてね」
商隊の一団を送り出す。
率いるのは赤毛の元冒険者シリカだ(五十九話に登場)。おしりがおっきくてソバカスがあってとってもチャーミングな女の子。
年は若いが、サモナイト商会の幹部である。これから大事な商談をまとめてきてもらうのだ。
商談とは魔石の販売だ。
北へと馬車を走らせ、ウスロー国で貨幣を手にいれてもらう。
まあまあの大役だ。
本当は俺がでるつもりだったが、そうもいかなくなった。
スタートスの街が落ちる前に門を閉じねばならない。獲物をしゃぶりつくした悪魔がこちらに流れてきては困るからだ。
まあ、補佐に元商人をつけてある。交渉はなんとかなるだろう。
それに戦力も申し分ない。
馬車を動かすレイスをはじめ、たなびく商会の旗にはグリゴリの悪魔がひそむ。
積み荷に混ざるのは銀の偶像だ。商品と見せかけて悪魔シェディムが宿る。また、燭台やランプといった調度品も同様だ。それぞれクランプス、ジニーが潜んでいる。
彼らは外敵はもとより、荷を盗もうとしたふらち者にも襲いかかる。行きと帰りで、商隊メンバーの中身が入れ変わっているみたいなことにならないように注意してもらいたい。
そうそう、積み荷の中には開けてはいけない木箱もある。
よく見ると、木箱の隙間からこちらをのぞく目があるので分かるはずだ。馬車からおろさぬよう気をつけてもらいたい。
もし、彼らと目があっても、気づかないフリをするのがマナーだ。
見るのは好きだが、見られるのは嫌いらしいからな。
ではそろそろ行きますか。
俺とルディーは扉を開いて農場へ。そしてまた、すぐそばの扉を開く。
スタートスの街にほど近い森のなかへとでた。
うん、あのときと変わらないな。
……と思ったのも束の間、ニョロリと伸びる目と目が合った。
バタン。
扉を閉める。
「いたね」
「うん、いたね」
リズが言っていたとおり、街の周囲に悪魔がいた。
ここらを狙っているのは間違いなさそう。
問題はどの段階かってことだな。
これから恐怖をあおっていくのか、攻め滅ぼすのか、あるいはもう滅ぼされたか。
ちょいと偵察していくか。
ふたたび扉を開くと、ピョンと空へと飛び上がる。
あるていど上昇したところで周囲をキョロキョロ。
あれ?
思ったほど悪魔が多くないな。
オプタールのように取り囲まれている感じでもない。
なんとなくそこらをウロついている雰囲気だ。
これはもう滅ぼされたか? そう思い街を見るも、町人と兵士のような人影がいくつも確認できた。
よかった、滅ぼされてはいないようだ。
しかし……。
けっこう街は飢えてそうだ。町人の足取りはおぼつかなく、視線は虚空をさまよう。
髪もボサボサで、服も見るからにみすぼらしい。
封鎖されて食料が入ってこないのだろう。
これはちょっと気の毒だな。
う~ん、どうすっかなあ。
と、悩んでいるとルディーが語りかけてくる。
「さすがにちょっとかわいそうだね。いくら自分を追い出した街だからって」
だな。男爵なんかは別にどうでもいいが、多くの町人は知らない話だしな。
冒険者、兵士はちょっと微妙だが、賞金首を追うこと自体はおかしなことではないし。
「支援する?」
う~ん。支援するのは全然かまわないんだが、そんときゃ男爵の粛清もセットでやりたい。
そうしないとヤツも助けることになるからな。
しかし、男爵に手を出すと帝国がでてくる可能性があるしなあ。
このスタートスは帝国領に属している。爵位を皇帝からたまわり、あくまで皇帝の臣下という形で統治しているにすぎない。
だから男爵にケンカを売ると、皇帝にもケンカを売ることになる。
逆にパラライカ、グロブスなどのここより西の地方は、完全なる自治で成り立っている。
みずから考え、統治する。
誰かの指図は受けないかわりに助けてももらえないってワケだな。
だが、まったく上がいないかっていうとそうでもない。
爵位なんかが面白いんだが、オットー子爵に聞いた話によると、爵位をさずける機構みたいなのが存在するそうだ。
功績や、貢献度、その他を吟味し与える。
貢献度。要は金だ。
早い話が金で爵位を買うってこった。
だから爵位そのもので力関係は決まらない。
ただ、経済力がある都市ほど貢献度という名のワイロが多くなるので、だいたい爵位どおりの力関係に落ち着くそうだ。
いろいろあるもんだなあ。冒険者時代はそんなこと考えもしなかったよ。
「なあ、ルディー」
「なあに?」
「ちょっとイヤガラセ思いついたんだけど街に潜入しに行かね?」
「行く~♪」
パラライカ、グロブスなど西側地方は戦国時代のイメージです。
朝廷が官位をさずけるみたいな。
このへんは作者はまったく知識がないので、あんまり突っ込まれても答えられません。
すまんな。