百二十七話 悪いのは誰?
本日三話目 ご注意を
「リズじゃん」
はりつけにされているのは、俺を追い出したパーティーメンバーのリズだ。
アイツなんで、あんなところにいるんだ?
「主はこころを痛めておいでである」
「おお! おいたわしや」
演説をつづける伯爵。
コイツはコイツで一体なにをしているんだ?
「民に問う。われらの心はどこにある!」
「主のそばにあります!」
「われらが祈るべきは誰だ!」
「主でございます!」
「われらが――」
クツの裏で伯爵の頭をスコーンとたたいた。
「なにしてんの? オメー」
一瞬固まる伯爵。群衆はシンと静まり返る。
「おお! われらが主よ」
だが、伯爵は俺の存在に気づくと、再起動。膝をつき、首をたれる。
おお! じゃねえよ。おまえなにしてくれちゃってんの。
「エドモンド、これはどういうことか?」
いま一度問う。返答によっては俺も考えねばならない。
家族を失った悲しみは理解するが、無関係の者を火あぶりにするのはいただけない。
そんな畜生を野放しにはできない。
「は! 主のご命令どおり、リズなるものをとらえて痛めつけております」
「は?」
伯爵の言葉におどろく。
いやいや。そんな命令、ワシしとらんがな。
伯爵がウソを?
いや、この熱狂的な信者が、信仰対象にウソをつくとも思えない。
どういうことだ?
「ね、マスターあのときのことじゃない?」
あのとき?
耳もとでささやくルディー。だが、俺は首をかしげるばかり。
「身に覚えがないんやが……」
「ほら! 男爵が来たときのために網をはっておこうって」
リール・ド・コモン男爵だな。
それは覚えている。やつには恨みがあるからな。たしかに伯爵に頼んだ。
しかし、リズにはそこまでの恨みはない。
う~ん、ちょっと記憶にない。
そのときの会話を思い出してみるか……
~~~~~~~
「伯爵、ちょっと頼みがあるんやが」
「は! なんなりとお申し付けを」
たしか、こんな感じの会話だったはずだ。
「スタートスの街って知ってる?」
「は! 存じております」
さすが貴族だなって思ったよ。
交通網は整備されていないけど、しっかりと周囲の情勢を調査しとるんやなと。
「そこにね、リール・ド・コモン男爵ってのがいて」
「はい。より強い権力をにぎるため、いろいろ画策している人物だと聞いております」
「すごいな。よく知ってるね」
「はは! おほめ頂き、光栄でございます!」
「でね、そいつが使者なりなんなりよこして来たら教えて欲しいんだ」
「かしこまりました。して、その男爵どのは信者でありますか?」
「それがさー、信者どころか俺、そいつにひどい目にあわされたんだよね」
「なんと! まさか偉大なる主に……」
「そうそう。だからさ、仮に本人ないし、執事のセバスチャンってやつが来たらつかまえてほしいんだ」
「リール・ド・コモン男爵、セバスチャン……許せぬ」
このあたりか?
あの男爵たしか「よい。生きてさえいれば腕がもげようが足がちぎれようが、かまわん。どうせしばり首じゃ」とか言いやがったんだよな。
だから、ちょっとぐらいやり返しておこうと思ったんだ。
「テキトーに痛めつけてもいいよ。その後俺に引き渡してね。でも殺さないでね」
「承知いたしました! わが命にかえましても……」
それから、ひざまずく伯爵に背を向けて立ち去ろうとして……
――あ、そういやこのあと付け加えたんだった。男爵のことだ、俺の顔をしっているやつを偵察に駆りだすかもしれない。そうなると可能性が高いのはパーティーメンバーじゃねえかなと思って。
「あ! 伯爵。ついでにね、ドローナ、ジェイク、リズ、それともうひとり。こいつらが街にきたら俺に教えてほしいんだ。頼んだよ」
「は! かならずや!! ……リール・ド・コモン男爵、セバスチャン、ドローナ、ジェイク、リズ……」
……これか!
このつけ足したのがくっついたんか!!
oh~