百二十六話 見覚えがある
魔女?
魔女ってアレだろ。つえを持ったシワクチャのババアだろ?
しらねえよ。そんなこと言われても。
「で、伯爵は俺にどうしろと?」
「至急来ていただきたいとのこと」
やだよ。なんで干からびたババアに会いに行かなきゃならんのだ。わしゃ商売で忙しいんだつーの。
「ん~、じゃあベリンダ。お前かわりに行ってきてよ。で、どんなだったか教えてくれ」
若くて美人だったら会ってやらないこともない。
あるいは有能な魔法がつかえるだとか。なにせ魔女だかんな。
「いえ、会長ご自身に御足労ねがいたいとのこと。なんでも会長が依頼していた件だとか」
俺が依頼?
いや、魔女なんぞ求めてないが。
「使者の方を待たせておりますので、行くにせよ行かないにせよ早めに判断ねがいます」
う~ん、そうね。
気分的には行きたくないんだが、あの伯爵って暴走しがちだからな。
ちょっと釘差す意味もふくめて会ってくるか。
「わかった。行こう」
「はい。使者は一階応接室でお待ちです。――それと会長」
なんだよ。まだあんのかよ。
「ロッコ氏がなにやらご相談があるとか」
ご相談?
つーかロッコって誰だっけ?
と、首をかしげていたら察したのかベリンダがつけ加えてきた。
「頭の、こうモジャっとした……」
あー、あいつか。料理がうまいやつだな。
そういやそんな名前だった。
「わかった。わかった。待たせておいてくれ。この件が片付いたら話を聞こう」
――――――
伯爵の使者に連れてこられたのは、城にほど近い広場。
コンモリ盛り上がった見晴らしがよさげな場所に、なにやら人だかりがある。
なんすか、あれは?
人だかりの中央には木で組み上げたはりつけ台があり、その下にたくさんの枯れ草や枝が敷きつめられている。
いた! 伯爵だ。
手にはたいまつを持ち、群衆になにやら叫んでいる。
「聞け民よ。覚えているか、われらが住む地に闇が落ちた日のことを」
演説?
なにやらヤバ目な雰囲気なんだが。
「闇の炎によってオーデルンは焼かれ、ガレキに埋もれた」
「おおおお」
伯爵がしゃべり、民衆が反応する。
「多くの命が奪われた。そして、闇の炎はこの街にもせまる」
「おぉぉぉ」
どうも俺が来た日の話のようだ。悪魔に取り囲まれていたあの日。
「家族を失った者も多かろう。われも息子を失った」
「おお、なんと痛ましい」
「民よ。そんな我らに光をあたえたもうたのは誰だ?」
「主でございます!」
「とりまく闇を、払いたもうたのは誰だ!?」
「主でございます!」
なんだろう。俺のことを崇め奉ってるようだが、なんか怖い。
「そんなわれらが光を、奪おうとした者がいる」
「なんと!」
「だれだ! だれだ!!」
「混沌の魔女だ。卑劣にもその魔女は、われらが主を罠にはめ、亡き者にしようとしたのだ!」
「ヒッ」
「まさか」
なんの話だ?
魔女が俺をワナにはめた?
どうも話がみえてこない。
「見よ! この醜悪な顔を。人の皮をかぶろうとも、その汚れた魂は消え去りはせぬ!」
「なんとおぞましい……」
「汚れた魂は浄化せねばならぬ!!」
「そうだ、そうだ」
メチャメチャぶっそうなこと言ってる。
アレ? なんか女のすすり泣く声みたいなのが聞こえるな。
群衆……からではなさそうだ。
もしかして、魔女か? まさか、あの木にはりつけになってんのか?
こっからじゃ角度が悪くてよく見えんな。
急いで見える位置まで移動する。
「浄化の炎だ。家族を失った悲しみ、こころざしなかばで命を絶たれた友への思い、そしてなにより、主への冒涜。それらすべてを炎によって洗い流すのだ!」
「うおおおー」
顔が見えた。女だ。
やはり木にはりつけにされているようで、鼻水をたらしながら泣いている。
「やだ……、わたじまだ、じにたくない」
女は絞りだすように声をだす。
あれが魔女?
どうもイメージした姿とちがうな。
というか、なんか見覚えがあるんですけど……。
――あれ、リズじゃね?