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百二十五話 サモナイト商会

「ねー、マスターこれからどうするの?」


 シャコシャコと歯をみがいてたらルディーに質問された。

 ガラガラペッしてから質問に答える。


「う~ん、そうだな。パンに自家製のハチミツをつけて食べようと思ってる」

「いや、そういうことじゃないよ。これからの展望だよ。どこの門を閉めるとか、どの都市を発展させるとか」


 わかってるよ。ちょっとボケただけじゃん。


「しかも、なんで歯をみがいた後に食べるのよ。歯みがきは食後でしょ」

「え? そうなの」


「そうだよ。せっかく磨いたのにまた汚してどうすんの?」

 

 たしかに。

 だが、冒険者は朝イチに磨くやつ多かったけどな。

 メシ食ったらすぐ出発みたいな。

 それだけ粗野(そや)なやつが多かったってことか。

 上級商人の俺はちゃんと食後に磨くとしよう。


 あれからしばらくして、俺は商会を設立した。サモナイト商会だ。

 本部をオプタールに置き、ほかの都市や村に支部をつくる。

 組織の形はピラミッド型。商会長の俺を頂点に、幹部を何人か、その下にA班B班といった感じで広がっていく。

 足りない人員は補充した。各方面から引っこ抜いたり、もともとあった商会なんかを吸収して。

 結果、グロブス、パラライカ地方全域の流通を支配することとなった。


 とはいえ流通のすべてを独占しているわけではない。

 競争がなければ物事は停滞する。他の商人に圧をかけたりはしないし、あつかう品目を制限したりしてうまく全体にいきわたるようにバランスをとっている。


 また、みなが使いやすいように道路も整備しておいた。

 曲がりくねった道はまっすぐに。デコボコ道はたいらに。すれ違いやすいように道は幅広に。

 もちろん、精霊たちの力を借りた。じゃまな岩は埋めたり砕く。

 木が密集しているところはドライアドの力で木自身で動いてもらったりした。

 ズドーンと森をつっきる木のトンネルとかはなかなか壮観だ。とくに枝をちょっと細工してハート型トンネルにした区画など冒険者女子にバカうけだった。


「失礼します」


 コンコンと扉がノックされて誰かが入ってきた。

 年のころは二十台前半、ピッタリとしたズボンに白のエリつきシャツ、紺の上着をムチリとはおる。

 ベリンダだ。ベリンダ・クロイツフェルト。最近雇った人材だ。


「報告があります」


 彼女の仕事は俺の脳ミソでは覚えきれないコマゴマしたものを記録したり、下からあがってくる情報を取りまとめて俺に知らせることだ。

 けっこう助かっている。最近やることが多すぎて一人では把握できなくなっているのだ。


「なんだ?」

「会長、まずは服をお召しください」


 そうだった。昨日俺は素っ裸で寝たのだった。

 あたらしく作った執務室などという立派な部屋にテンションがあがり、開放感を得たくて生まれたての姿に戻ったのだ。

 今は一糸まとわぬオールヌード。紳士としてこれはよくないだろう。

 いそいそと靴下をはく。


「それでどうした?」

「会長、まずはパンツをはいてください」


 そうなの? 俺はまず靴下からだが。それからシャツ、パンツと続く。

 これも冒険者だったころのなごりだ。

 足元をすくわれるという言葉があるように、戦いに身をおくものは足元が重要なのだ。

 ふんばりのきくような足場を選ぶという意味もあれば、地の利をいかして戦いを有利にすすめる意味もある。

 だからまず靴下。

 でもブーツはまだ履かない。おパンツを履くとき、汚れてしまうからだ!


「ペンで突き刺しますよ」


 ヒエッ!

 それはやめてつかーさい。

 あわてて服を着る。


 彼女はこのように物怖じしない。それが雇った理由でもあるのだが。

 ベリンダ・クロイツフェルト。その名の通りクロイツフェルト家とかいうどっかの貴族の令嬢だ。

 オプタールの領主、エドモンド伯爵に「なんかいい人材な~い?」って聞いたら紹介してくれたのだ。

 なんでも彼女は、自分の能力を確かめたいとか言って外の世界に飛びだしたらしい。

 数年つとめた官職をやめ、商人に転身。帳簿やなんやらをコネコネしてたところを俺が引っこ抜いた形だ。

 この仕事、サモナイト商会においてはけっこう重要なポジションだ。さまざまな情報が集まってくるから。

 とうぜん裏切ったら死刑。そこに温情はない。

 彼女も了承の上だ。申し訳ないがそこはスパっと割り切らせてもらう。


「これでいいか?」


 仕立ての良いシャツに仕立ての良いズボン。

 羽根のついたオシャレな帽子をナナメにかぶる。ザ・豪商だ。

 これで文句はなかろう。


「……まあ、いいでしょう。では続けさせていただきます。C班より魔石が届きました」


 お~。来たか。これで復興にはずみがつく。

 この魔石は魔界で採掘されたものだ。こやつをオーデルンの特産品とする。


 そう! オーデルン。

 悪魔どもに破壊されてしまった都市オーデルンを再建したのだ。

 フルパワー土魔法と精霊たちを投入し、施設と民家をモリッっとつくる。そこにちょっとずつ希望者を移民させている形だ。

 家と仕事がタダでもらえる。まちろん、三食まかない付きだ。

 希望者はそれなりの数になった。しかし、生産物がなにもない。田や畑はもちろんのこと、加工に使う機器も壊されてしまったからだ。

 のちのち補充してはいくが、道具も職人もそんな簡単にはそろわない。

 なのでなにかの産業で、まずは支えてやる必要がある。

 そこで魔石だ。

 街の中にある穴ぼっこから魔石が出るという筋書きだ。

 もちろん俺がテキトーに掘った穴だ。そこに魔界からとれた魔石を埋めていく。

 それを採掘者が掘りおこすのだ。

 いささかまどろっこしいが、しょーがない。これも復興のため。経済をうまくまわすためなのだ。


「よし、さっそく他の国に売りにいこう。今はなにより現金が欲しい」


 経済がまわるのはいいが、やりとりに使う貨幣が不足している。

 金、銀といった鉱物も採掘していく予定だが、さしあたっての金貨銀貨銅貨をサクッと手にいれてしまおう。


「わかりました。人員、馬車、ともに手配しておきます。会長は行き先の選定をお願いします」


 行き先ねえ。ここからだと北か西かってところだけど、どっちでもいいな。

 どのみち今回は俺が出る。

 道もまだ整備してないし、魔物も減らしていない。ついでに扉を設置したいしな。こくたんの扉。

 販路をもっともっと拡大してやるんだ。


「それと、エドモンド伯爵さまより火急(かきゅう)のお知らせがあります」

「火急? 急いでる感じ?」


 伯爵はせっかちだからな。ほんとうに緊急かどうか怪しいもんだ。

 こないだも早馬をとばしてきて、俺の像をつくったからぜひ見てくれって言ってきやがった。

 いや、いらねえよつったら、もうたくさん作っただと。

 あのオッサンなに考えてんだ。つまんねえことに金つかってんじゃねえよ。


「ええ、使者の方はかなりあわてているようでした。なんでも魔女をとらえたとのこと」


 魔女?


 

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