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百十七話 ティータイム

 イフリートにいろいろ聞くまえに皆でお茶をすることになった。

 暑いし、いっぱいしゃべったから喉が渇いたのだ。


 今回はウンディーネに紅茶をいれてもらう。ここに来るまえエドモンド伯爵がくれた高級茶葉。

 容器からしていかにも高そうだ。そざいは鉄でハスの花と鳳凰が描かれている。

 そんなに高級なら飲まずに売ってやろうと考えたりもしたが、やめた。

 伯爵に売ったらいくらぐらいなのか聞いたら、すごく悲しそうな顔をしていたからだ。

 しかたがないから彼の好意といっしょに飲むとしよう。


 トプトプトプ。

 ウンディーネの紅茶を注ぐしぐさはとてもサマになる。なんというのか気品があるのだ。

 彼女なら高級茶葉のポテンシャルをぞんぶんに引き出してくれるだろう。

 ルディーのいれる薄っすいコーチャとは一味ちがうと思う。



「それにしても、ずいぶんと契約者がふえたよね、マスター」

「ああ、そうだな」


 紅茶をたしなみながら優雅に語る。

 いいね。なんとなく自分がエラくなったような気になる。

 俺の中身はたいして変わってないんだけどな。


 それにしても大所帯おおじょたいになった。

 精霊と妖精から始まり、悪霊、幽霊、リザードマン、人間、そして悪魔だ。

 せっそうなく契約してしまった結果だろう。精霊召喚士の「精霊」はどこへいった?


「それにしてもマスター、物じゃなくて約束事やくそくごとで契約することがおおいよね」


 たしかに。

 当初は金品でかいけつしようと農場の充実をはかっていたが、あんまり必要なくなってきたな。

 得っちゃ得だ。

 まあ、これはこれで自身の行動をしばられる結果につながりかねないから、良し悪しなんだけどな。


「みんなマスターにうまく丸め込まれるもんね。さすがヘリクツをこねさせたら世界一だね」

「ヘリクツじゃねえよ。さっきのなんか名推理だっただろうが」


 イフリートも舌をまいていただろがい。

 こまかな間違いはあったかもしれんが、大筋はあっていた。

 自分で言うのもなんだが、あの情報量でよくあそこまで絞り込めたもんだよ。


 ――まあ、名推理でもヘリクツでもどちらでもいいけどな。

 手段はあくまで手段だ。結果さえともなっていればいい。


 それにな、たぶんあのときどう答えていても結果は変わらなかったんじゃないかな。

 イフリートと初めて会ったとき、「ニンゲン。キサマみつかいではないのか?」と聞かれた。

 あれに対する答えですべては決まっていたんじゃないだろうか。


 やはりイフリートの望みは復権なのだ。

 自分と自分に従う精霊たちの。


 それには神に近しい者ではだめだ。

 神のことばを疑ってかかる者でなければいけないのだ。


「われらがあるじのことばには自由があるのです」


 自由?

 ウンディーネのことばに首をかしげる。

 契約でガッチリと縛っとるんだが……


既成概念きせいがいねんにとらわれない思想がそうさせるのでしょう」


 そうなの?

 そうかなー?

 これからオッパイとオシリの読み方を逆にするぞ! って言われても対応できんと思うんだけどな。

 まだまだ俺の頭は固いと思うよ。


 そうか! だから俺は柔らかさを求めてオッパイとオシリにかれるのか!!


「そういえばルディー、おまえオシリみたいなオッパイしてるよな」

「はあ?」


 オシリみたいなオッパイなのか、オッパイみたいなオシリなのか、判断がむずかしい。

 だが、やはりオッパイはオッパイであり、オシリはオシリであるべきなのだ。

 混同しても本質を見誤ってはいけない。

 それぞれ違う役割があるのだから……


「このひと自由なんじゃなくて、たんに人の話、聞いてないだけなんじゃないの?」


 そんなことねえよ。

 聞いたうえで、さらに一歩先を進んでいるのよ。

 フッ、天才とはなかなか理解されないものなのだ。


「あの~、すみません。話を続けさせてもらってよろしいでしょうか?」


 とウンディーネ。

 おお。すまんすまん。好きなだけオッパイについて語ってくれ。


「既成概念とは、そういうものだと世間に浸透した物事のとらえかたです。妖精、精霊といった枠組みもそうでしょう」


 ほうほう。

 たしかに、なにをもって精霊というのかあやふやな部分もあるもんな。

 イフリートなんか今は悪魔だし。

 なんとなく、みながそうだと思っている。精霊たちの分類がまさにそう。


「それを打ち破ったのが、われらが主なのです」


 う~ん、あんまりピンとこないな。

 俺が精霊召喚士にもかかわらず、あれやこれやと契約できる理由にはなってそうだけど。

 でも俺だけってことはないと思うんだよな。ひねくれもんつーのはいつの世も一定数いるものだから。


 納得していない俺の表情をさっしたのか、ウンディーネはさらに言う。


「もちろん、思想だけではだめです。召喚士としての資質、ちから、行動。すべてが合わさって初めて打ち破れるものなのですから」

「だが、言うほど簡単なものではないぞ」


 割って入ってきたのはイフリートだ。

 無口なようで、ここってところですべりこんできた。

 意外とウンディーネとの相性がいいのかな? 水と火で反発しそうだが。

 そういえばいつになくウンディーネの口数も多い気がする。

 ヒュー、ヒュー。

 激しく溶け合って蒸発しないでくれよ。


「精霊、妖精といった枠組みは神が決めたものだ。神とそのみつかいによって広められた概念でもある。それを打ち破るのは神からの支配の脱却に他ならない」


 おゥ! 神。

 また神。

 あんま関わりたくないんだよなー


「信じる信じないに関わらず、みな神からの支配をうけている。それを跳ねのける強い精神とちからが必要なのだ」


 なるほどなー。

 さまざまな条件がそろってこそ起こる現象みたいなもんか。

 となると、ウンディーネが饒舌じょうぜつになったのもそのへんが関係してるのかもしれない。


 あいつ、計算高いからなー。

 機が熟すのを待っていたのかもしれん。

 結局のところ、ウンディーネも神の支配に疑問をもっていた者のひとりなのかもな。


「さっ。盛り上がってるところ悪いが、イフリート。そろそろ門を維持する装置について教えてもらえるか?」


 とりあえず神がどーのは先送りだ。

 俺は敵対するつもりなんか、これっぽっちもないからな。――いまのところ。


 神がなにを考えているかはわからない。

 俺に注意をはらっているかすらも。

 いずれにしても門だ。

 魔界とをつなぐ門を破壊しているあいだはお目こぼしがあるだろ。

 あと六個あるんだ。それまでまだ時間はあるさ。



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