百十五話 目には目を
スフィンクスの問いかけのつづきが始まった。
「では、つぎの三人のうち最も背が高いのは? 1、天の子ナーサティヤ。2、馬をもつものダスラ。3、聖仙ブリグとプローマーの子、チヤヴァナ。――以上です」
しらねえ~~~~~
チャなんだよ。
名前すら覚えられねえよ。
ちらりとウンディーネをみる。
しかし、彼女はわかりませんと首をふる。
そりゃそうだ。
念のためルディーもみた。
くさったナスみたいな顔をしていた。
こんなもん解けるわけがない。
スフィンクスは、ハナからここを通すつもりなどなかったのだろう。
クソが!
――だが、もう関係ない。
キサマがインチキをした時点で、俺の勝ちが決定したのだ!!
「1番!」
テキトーに答える。
正解でも不正解でも、もはやどうでもいい。
「1番、天の子ナーサティヤですね?」
「1番!!」
スフィンクスが確認してくるが、よけいなことは言わない。
返すのは番号だけだ。
「不正解」
スフィンクスは、ニヤリと笑う。
勝利を確信した、なんともいやらしい笑み。
「ナーサティヤ、ダスラ、チヤヴァナは、いずれも姿はまったく同じ。よってもっとも背が高いものは――」
「ではなくぅ~」
「!?」
ここで、すかさず割り込む。
そっちが問題をつけ足すなら、こっちも答えをつけ足してやるまでだ!!
「答えは1、2、3すべてだ! なぜならみな同じ身長だからだ!!」
「な!? 正解を聞いてからの回答? そんなものは認め――」
「しるか! 答えを最後まで聞かんヤツがわるいんじゃい!!!!」
俺は言い終わったなんて言ってないもんね~
かってに勘違いしたのはそっちだもんね~
しかし、スフィンクスは納得していないようす。
巨大な口をひらくと、牙をむく。
「認めない。不正解だ。よってニンゲン、きさまを丸呑みにしてやるぅ」
ふん、正体をあらわしたか。
まったく。往生際がわるい。
「うるせえ! おまえはこれでも喰らってろ!!!」
手のひらから紫電をはなつ。
が、それはスフィンクスに襲いかかる直前できえさってしまう。
「ムダだ。わが障壁にはいかなる魔法も効きはしない」
んなもん関係あるか!
出力ア~ップ!!
さらに紫電をはしらせる。
その数は十本、二十本と増え続け、やがては通路をうめつくすほどの巨大なうねりとなる。
まだまだ。
さらに魔力をこめてやる。
もうあたりは、目を開けてられないほどのイナビカリだ。
「こっ、これは! 障壁が――」
パアン!!
乾いた音がひびいた。
その後、なにかを吹き飛ばすような轟音も。
「うわ~。すごっ」
目の前にはなにもなくなっていた。
先ほどまで立ちふさがっていたスフィンクスはおろか、その先にあるとびらや壁さえも。
「ハッ! ずいぶん見通しがよくなったじゃねえか」
地面を見る。
スフィンクスのツメのカケラが一本、のこっていた。
戦利品としてもっていくか。
知恵くらべに勝ったあかしとして装飾品にでもしよう。
なんか魔力がこもってそうだしな。
「マスター、圧勝だったね」
まあな。知恵で勝ち、ちからでも勝つ。
これを圧勝といわずなにをいう。
「まさか、おなじ手で返すとは思いませんでした」
とウンディーネ。
「ふふん。秘儀、あとだし回答。このワザの前には、いかなる問題もかなわないのだ」
「マスター、それ負けるときのやつだから」
うん、そうだね。
いま目の前でみたもんな。
「はははは」
「フフフ」
さあ、王とやらに会いにいくか。
友好的ならよし、敵対するならサクっとシメて、イフリートと契約しちまおう。
んでもって、装置とやらの場所をゲロってもらうか。
――――――
とびらがあった場所をこえてすすむ。
歩くのはボロボロになった絨毯の上だ。焼けてコゲた表面が電撃のすさまじさを物語っている。
「誰もいないね~」
「いないねえ~」
先にあったのは、おおきな部屋。
壁際には金のツボや彫像、額入りの絵まである。
たしかに王の間っぽい。
悪魔がこんなもん集めてどうすんだろ? って疑問はわくが。
しかし、肝心の王のすがたがない。
部屋には間仕切りなどなく、隠れられそうなところはないのだが。
しかも、奥の壁は俺の電撃によりポッカリと穴があいている。そこから差し込むマグマの明かりが、じゅうぶんな光源として機能している。
まさかツボのなかに隠れてないよな。
おそるおそるのぞき込む。
「わっ!」
とつぜん、ルディーが背後でおおきな声をだした。
「おい! やめろや! ビックリすんだろうが!」
マジでビビった。つまんねえコトすんじゃねえよ。
「おもしろ~い。マスター、ビクンって飛び跳ねてたよ」
「よ~し、そこを動くな。ナイフ投げのマトにしてやる」
そんな感じでワーワー言ってると、ウンディーネがなにかをみつけたようで、集まるようにうながしてきた。
なになに。
「これを見てください」
彼女が指さすのは絨毯の上。焼けこげた木の棒がある。
「なんだそれ?」
「コゲくさ~い」
みるからにみすぼらしい棒だ。
売ってもヤサイのヘタも買えなさそう。
「イスの足ではありませんか?」
あー、言われてみれば、たしかに。
いぜんは座面もヒジかけもあり、りっぱな外観をしてたのかもな。
俺の電撃でふっとばしてしまったのか。ちょうど電撃は絨毯の上を通過していったからな。
「あ!」
「ん?」
なんですか、ルディーさん。その「あ!」ってのキライなんですけど。
「もしかして、このイスって……」
「そうだ。そこにあったのは玉座だ」
いきなりイフリートが会話に入ってきた。城に入ってから沈黙をつらぬいてきた彼だったが、ここへきて初めて口をひらいたのだ。
「玉座ってあれだよな、王が座るイスだろ?」
「いかにも」
ふーん、そうなんだ。王座か……あ!
もしかして、俺の電撃で王ごとふきとばしちまったのか?
じゃあ、王に会えたらっていうイフリートの条件は……