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百十話 イフリート

 コウモリの羽とヤギのツノをもった、燃えさかる人影。

 伝え聞くイフリートの姿そのままだ。


「すさまじいちからだな、ニンゲン。いまだかつてこれほどのちからを持った者は見たことがない」


 炎に揺らめきながらイフリートは語りかけてくる。

 このイフリートってやつは、精霊のなかでも最上位に位置している。

 精霊召喚士、あこがれのマトってやつだ。


 だが、じっさいに契約できたものはいない。すくなくとも俺は聞いたことがない。

 そういやイフリートは悪魔だと言うやつもいたな。

 あまりに契約が困難だからそんな話がでてくるのかと思っていたが、なるほど、ここにいるならあながち間違いではなさそうだ。


「イフリートか?」

「いかにも」


 いちおう確認しておく。

 じつは違いましたなんてややこしいパターンはごめんだ。


「おまえは精霊なのか?」


 ここも重要だ。

 精霊だったら契約できる。だめもとでもチャレンジしておきたい。


「ふむ? キサマは精霊召喚士なのだな。なるほど、われとの契約をのぞんでいるのか」


 イフリートはルディーとウンディーネをみてからそう言った。

 うん、そう。

 話がはやくて助かる。


「そうだ、できれば契約したい。むちゃな要求でなければ受け入れる準備はある」


 まあ、じっさいは交渉して値切ったり、別のものに置き換えたりするんだけどね。

 錬金術師じゃねえんだから、ないものを求められてもどうしようもないしな。


「フッ、頼もしいな。だが、われは悪魔だ。それでも契約をのぞむか?」


 悪魔か。

 そりゃ話がすこしかわってくるな。

 なにせ悪魔をふうじこめにここへきたんだから。


 ――しかし、イフリートが悪魔。誰も契約できなかったワケだ。

 悪魔はここから出られない。出られなければ出会えないし、出会えなければ契約もクソもない。

 精霊の最高位だと言い伝えられているのは、わずかな時間ひらいた結界のすきまをすり抜けたヤツがいたのだろう。

 その姿をみて勘違いしたってところか。


「ムリだな。悪魔ってのは人間をたべるんだろう? しかも恐怖や怒り、ねたみなどといった負のエネルギーを好むそうじゃないか。さすがにそんなやつらとは契約できん」

「フッ、ずいぶんな言いようだな。まあ、否定はしない。ほとんどの悪魔はキサマの言ったような性質をもっている」


「ほとんど? では、ちがうものもいるってことか?」

「むろんだ。すべてがすべて、おなじ趣味と思考もっているわけではない」


 それもそうか。

 ひとそれぞれちがうように、悪魔にだって個体差があるだろう。

 だが、サガというものがある。

 ひとに避けられないサガがあるように、悪魔にだって避けられないサガがあるはずだ。


「ほんとうか? ひとの恐怖をアオるのが悪魔のそんざい理由じゃないのか?」

「違う! そうではない。すくなくともわれは人の感情など欲しない。われは火の化身。すべてのエネルギーは火より得ている」


 ……まあ、たしかに。

 ここには人間はこない。人間だけがエサだと飢えちゃうもんね。

 ふ~む。だったら契約しても問題ないか。毒をもって毒をせいすとも言うしな……


「よし、いいだろうイフリート。おまえののぞみを言え! できるかぎりの便宜べんぎをはかろう」

「ちょっとまって!」


 が、それまで黙っていたルディーが、くちをはさんできた。


「どうした?」

「ほんとうに契約するの? あいては悪魔よ、ヤバくない?」


 しぶい顔のルディー。

 まあ、あたりまえっちゃあたりまえやね。

 ダンダリオンやオロバスやら、さんざんヤバイやつらをみてきてるからな。


 だからさ……


「そこは契約しだいだな。だからルディーには穴がないようにしっかり聞いてもらいたいんだ。で、おかしなとこがあったら指摘してほしい」


 悪魔だろうがなんだろうが、契約でしばれるのならむしろ安全だ。

 すでにリザードマンや人間と契約してるしな。

 それに悪魔がくわわったところでいまさらでしかない。

 ウンディーネもよく聞いておけよ。ひとりじゃムリでも、三人いればほとんどの穴をふさげるはずだ。


 だが、ルディーはまだしぶっている。

 

「う~ん……でもさ、どこまでオッケイなの? たましいとか要求されてもわたさないでしょ」


 あたりまえじゃん。たましいなんぞわたしてたまるかいな。


「俺は商人だ。自分のからだを売るつもりはない」


 からだが売りの冒険者じゃないんだ。

 そういうのはもう卒業したのだ。


「絶対? あいてがどうしてもほしいって言ったら?」

「そんときゃコイツのたましいをべつのイフリートのところへもっていくだけだ。ほしがるものがわかれば、つぎの交渉にいかせるからな」

 

 死刑ですよ、そんなやつ。

 そんなもんにいつまでもつきあっているヒマはない。

 まあ、イフリートにたましいなんてものがあるのかはしらんが。


「フハハハ、そうきたかニンゲン。おもしろいではないか」


 イフリートは笑いだした。

 どうやら気にいられたようだ。


「ニンゲン、ひとつ聞きたい。キサマみつかいではないのか?」


 みつかい? いや? ちゃいますけど。

 むしろまちがえられてメイワクしてますけど。


「俺を使いっぱしり呼ばわりしてほしくないね。俺はオレだ。みつかいなんぞクソくらえだ!」


 言ってしまった。

 ついにぶちまけてしまった。

 だってしょうがねえじゃん。神かなんだかしらねえが、たすけてもらうどころか苦労しかかけられてないしー。


「ますますおもしろい! 気に入ったぞ、ニンゲン。では、われの要求だが――」




 こうして契約へ進むこととなった。

 神罰がちょっと怖いが、気にしないでおこう。

 どうしようもないことを心配してもしょうがないしな。


 契約の流れだってそうだ。

 俺が契約したがっていたはずが、いつのまにやらイフリートが契約したがっていたことになっていたのも、気にする必要などないのだ!!

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] いいぞ~!…たとえ悪魔でも、平和交渉出来る悪魔なら味方に引き入れてもいいでしょう!これまで厄介者だった敵を味方に引き入れるだけでも、強くなれる!…これで悪魔狩りもはかどる!…厄介者は手元に…
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