百八話 なんかみつけた
「はえ~。でっけえな」
遠目でもわかるドラゴンのおおきさ。
まるで山だ。牙と爪の一本でさえ、たぶん俺よりおおきい。
そして、背中に生えてるのはコウモリに似た翼だ。あの巨体で飛ぶのだろうか?
とても体重をささえきれるとは思えないが。
「すご-い。熱くないのかな?」
ルディーもなにやら感心している。
なにせドラゴンはマグマにどっぷり浸かっているのだ。
熱に強いなんてもんじゃないだろう。こりゃ戦うとなったら炎の魔法ではムリそうだな。
「ドラゴンにとっちゃいい湯加減なんじゃね? 背中でも流してやれよ」
「じょうだんでしょ!? お風呂みたいに言わないで。あんなおおきな背中流してたら日が暮れちゃう」
「おおきさの問題かよ」
「ふふふ」
などとキャッキャッしていると、ドラゴンと目があったような気がした。
爬虫類とくゆうの、無機質な瞳をこちらにむけてくる。
「メッチャみてない?」
とルディー。
う~ん、どうだろう?
けっこう距離があるけどなー。
ドラゴンはデカイから俺らからはバッチリみえるけど、むこうからじゃコメツブみたいなもんだし。
すると、ドラゴンの瞳孔がキュ~ンとしぼられていった。
「うん、見てるね」
「やっぱり?」
ドラゴンはザブンとマグマに身をひたした。
波紋をのこし姿を完全にけす。
「もぐったね」
「潜ったな」
やがて、ひとつの波が発生する。それはグングンとこちらに近づいてくる。
「こっちきてるね」
「きてるな」
完全にロックオンされたようだ。
敵としてみられたか、エサとしてみられたかはわからんが。
「どうすんの? マスター勝てる?」
んー、そうだな。たぶん勝てる。
なんとなく分かるんだよね。力の差が。
あの見てくれだ。そうとう強いんだろうけどさ。
そうこうしているうちに、波は近くまできた。
津波のように、島のへりをうちつける。
ザバリ。
ドラゴンがマグマから顔をだした。
つぎに翼をつかって、島へと器用によじ登ってくる。
へ~、翼ってああやって使うんだな。
飛ぶためだけじゃないんだ。
完全にすがたをみせたドラゴン。
大木のような四本足で、ずっしりと大地をふみしめている。
「イカツー。ゴリゴリじゃん」
まさに岩でできたトカゲといった感じだ。
いびつに隆起した肌は、火成岩のようにゴツゴツとしている。
しかも、マグマによる高温のためか、まだら模様の赤褐色だ。
これ剣とか通らんだろうな。
とても人間が立ち向かえるシロモノじゃない。
矢だってどうかんがえても刺さりそうにないし。
ドラゴンが口をひらいた。
あたまをうしろにそらし、胸をふくらませていく。
あ、ブレスか。
オロバスみたいに火をふく感じか。
ゴオオと炎がふきだされた。
それはすさまじい高熱とともに渦をまき、こちらにせまってくる。
「ちょ!」
「凍れ」
ドラゴンにむかって手をかざす。
水魔法だ。つららをつくる要領で温度をさげる。
ピシリ、ピシリと炎が凍っていく。
みるみるうちに炎の根元まで到達すると、いとも簡単にドラゴンのからだまで凍てつかせた。
おお!
炎って凍るんだな。なんかできそうな気がしてたけど、そのとおりになった。
ドラゴンもカッチンコッチンだ。
おおきな氷のオブジェ、いっちょあがりってか。
「うわ~、スゴッ。完全に凍っちゃったよ」
ドラゴンはビクリとも動かない。
死んだかどうかはわからないが、身動きはとれなさそうだ。
フッ、楽勝だったな。
どうやら俺は、強くなりすぎてしまったようだ。
「あ!」
ギクッ。
ルディーのことばにいっしゅん飛び上がった。
なに?
やっぱ倒してなかったてやつ? それとも新手?
「ねえ、あそこに見えるのってもしかして……」
ルディーが指さすのはドラゴンの腹だ。
動いているようすもないし、新手でもない。
ふ~、ビビらせやがって。
そういうのやめろよなー。
いつも苦戦させられるから身にしみついてるのよ。
なになに。
ドラゴンの腹をのぞきこむ。
「お! こいつは……」
ドラゴンの腹で光るのは石の結晶。
岩のような皮膚にうまる魔石の輝きだった。