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百三話 召喚士、呼び名にとまどう

「しょうにんさま。こちらにおいででしたか。探しました。とつぜんで申し訳ないのですが、わが主君、エドモンドの目通りをお許しいただけないでしょうか?」


 騎士がなにやらかたりかけてくる。

 え~っと、なんつったけコイツ? レミなんとかだったか。


 領主に会えって?

 ヤダよ。古来より貴族とかかわるとロクなことがないんだ。

 男爵のときもそうだったしな。

 ウサンクサイ街の言い伝えなんぞより、こっちのほうがよっぽど真実ですよ。


 とはいえ、断るとそれはそれでメンドウだしな。みょうな逆恨みでもされちゃかなわない。

 ここは同意しつつも、いまはムリみたいな曖昧な返答をすべきだろう。

 手にしていたジョッキをテーブルにおくと、できるかぎりの笑顔で返答する。


「お会いできるのは光栄ですが、いかんせんいまは酒に酔っております。酒がぬけ、街があるていどおちついたころ、ご挨拶にうかがうことでどうでしょうか?」


 おちついたの認識なんてひとそれぞれだしな。なんなら十年後とかでもありっちゃありだ。

 こうやって先延ばしにしてウヤムヤにするのだ。


「おお! しょうにんさまはお酒をお召しになるのですね。エドモンドもよろこびます。なにせ、あるじは無類の酒好き。さぞかしお話も盛り上がるでしょう。店主! この店でいちばん高い酒をふたつたのむ!!」


 おい!

 おまえが俺の質問をウヤムヤにしてどうすんだよ!

 どうでしょうか? って聞いてるやろ。答えなさいよ。


 しかも酒ふたつて。

 君、なにしれっと自分も飲もうとしてんのよ。


「どうぞお気遣いなく。お酒はいまのままで十分でございます」


 とうぜん酒はことわる。

 せっかく兵士と仲良くなり始めてたのに、高い酒なんかのんだら台無しじゃんか。

 わかってないねチミィ。

 おなじテーブルにつき、おなじ酒をのむ、だからこそ本音を聞けたりするんだよ。


 エライやつにぶっちゃけた話できねえだろ?

 あと本人がエラくなくても関わりが深けりゃダメだぞ。

 間接的に耳に入るしな。

 だからオメーはとっとと帰れよ、な。


 イヤがっている雰囲気をやんわりとかもしだす。

 だが、騎士には届かないようだ。そんなのおかまいなしに話しかけてくる。


「いえいえ、そうはまいりません。安酒を頼んだとあらば、わたしが叱られてしまいます。それに、しょうにんさまには最大限のおもてなしをせよとの命をうけておりますので」


 叱られるって領主に?

 ん~、そう言われたら断りづらいなあ。


「わかりました。そういうことでしたら、ありがたくごちそうになります。ですが、それ以上はむようです。あと、しょうにんさまでなくサモナイトとお呼びください。エム・サモナイト。さまは不要です」


 さっきから気になってたんだよね。「しょうにんさま」って呼び方。

 それだけこちらに気をつかってくれてるってことなんだろうけどさ、ふつう商人に「さま」なんてつけないよね。騎士なんだからさあ。

 まわりに兵士や冒険者やらいっぱいいるからさ。あんまりへんな呼び方はしてほしくないんだよ。


「おお! それは失礼しました。サモナイト上人しょうにんさまですね。お心遣い感謝します。やはりわが見立てに狂いはなかったようです」

 

 いや、さまついたままやん。

 ――っていうか、いま、なんか呼び名に違和感が……


 そのとき、ふたたび酒場のとびらがひらいた。

 みれば高そうな服をきたオッサンが、お供らしきものをつれて突っ立ってる。


 あれ? もしかして……


「レミントン!」


 オッサンはそういうと、こちらにむかって歩いてきた。

 白髪交じりのグレーの髪に、ダークブルーのチュニックをみごとにきこなす。

 胸元についたアメジストのブローチがやけに目を引く。


 ワオ!

 貴族だ。超貴族。

 これ領主の伯爵じゃね?

 だって、まわりにいた冒険者からはどよめきがおこってるし、兵士と騎士はほぼ直角にあたま下げてるもん。


「この方が?」

「はい、エドモンドさま。相違そういございません」


 オッサンが問い、騎士がこたえた。

 エドモンド! ハイ、確定。オッサンは伯爵ぅ~


 マジかよー。

 さっき言ってた『目通りをお許し』ってそういうことかよ。

 俺が行くんじゃなくて、オマエがくるんかい。

 伯爵、フットワーク軽すぎだろ。


 う~ん。どうしたもんか。

 そう考えてると、オッサンはこちらをみて深くあたまをさげた。


「お初にお目にかかります、み使いさま。わが名はエドモンド・フォン・グロブスと申します」


 え!? いま、なんつった?

 み使いさま?

 み使いってあれか。神とともに悪魔を魔界に幽閉した、あのみ使いだよな。

 だれがみ使いやねん。まさか、騎士が言ってた上人ってそういうことなの?

 冗談じゃないよ。そんなもんに祭り上げられてたまるか。


「はい。はじめましてエム・サモナイトです。お会いできて光栄です伯爵さま。えっと、あの~、もうしわけないんですけど、み使いというのは誰のことなのでしょうか?」


 とりあえずわからんふりをする。

 メッチャこっちみて言ってたけど、まさか俺じゃないよね的なスタンスでのりきろう。


「あなたでございます」


 だが、伯爵はきっぱりと言い切った。

 いやいやいや。その自信はどこからくるのよ。


「わたしが? まさか!? わたしはしがない商人でございます。み使いさまなどではございません」


 こっちもきっぱりと言い切ってやった。

 よし。これでいい。

 あとはよけいなことは言わず、とにかく否定しつづければいい。

 

「み使いさまではない?」

「はい。ざんねんながら」


 伯爵の顔色がみるみるかわっていく。


「……どういうことだ? レミントン!!」


 伯爵はふりかえると、騎士にむかって大声をはりあげた。

 ヤメロや。なんか俺が悪いみたいじゃんか。


「ハッ! まちがいはございません。さきほどご報告したとおり、あの氷塊を落としたのはこの方でございます。わたくしはしかと、この目でみました」

「うむ」


 うん、そうだった。

 この騎士にはバッチリみられてたな。

 だが、問題ない。

 コヤツひとりがいったところで信憑性などたいしてないのだ。

 最悪、こいつのウソか勘違いで押し切ってしまえばよいのだ。


 だが、騎士はことばをつづける。


「それにつきましては、お嬢様も同様におっしゃっていたではありませんか」

「そうだな」


 クッ、あのときの女の子か。

 しまった。やはり伯爵の血縁者だったか。

 これは否定ばかりしてはいられないぞ。

 彼女がウソつきになっちまうからな。

 それはダメだ。子供の成長に悪影響をおよぼす。

 ここは氷塊をおとしたのはみとめつつも、み使いではないと伝えるしかないか。


 だが、騎士はさらにことばをかさねる。


「それに上人さまはこう申されていました。悪魔どもに審判をくだすと! これがみ使いさまである確固たる証拠でございます!!」


 グハッ。

 たしかに言った。

 言ったけども。

 それはことばのアヤやん。なんとなくカッコつけただけやん。


「なるほど。たしかにみ使いさまでなければでない言葉だな。しかし、ではなぜ、み使いさまは自分はみ使いではないとおっしゃられたのだ? ウソを申されたということか?」


 え~。

 んーっと。

 これどうしたらいいんだ?


「ハッ! わたしが思うに、なにか理由があるものかと存じます」

「なんじゃ、その理由というのは?」


「おそらくですが、民草たみくさ(※人民)と目線をあわせることで情報を得やすくしているのではないでしょうか?」

「ほう!」


「み使いと名乗れば、みな、かしこまります。それでは本音は聞けません。民とおなじものを食べ、おなじように生活してこそ真実がみえるとお考えになっているのではないでしょうか?」


 ふぁ~!!

 それ言う?

 言っちゃう?

 オメーさっきまでの行動とぜんぜんかみ合ってねーんだよ!

 わかっててやってんのか? なあ、おい!

 

「うむ! まったくもってそのとおりにちがいない。このエドモンド、み使いさまの深い考え、見抜けず顔から火がでる思いじゃ」


 伯爵はこちらに向きなおり、「申し訳ありませぬ」と頭をさげた。

 そしてさらに言葉をつづける。


「至急この酒場を封鎖せよ! かんこう令をしく!! 誰もそとにだすなよ」



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[気になる点] …騎士のせいで主人公の立場が、主人公の思うように上手くいかなくて、面白くないな…と思いました!
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