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出入り口近くにあったシュークリーム専門店でカスタードシュークリームを購入し、食べながらモール内を散策する。暮木ミゾノはシュークリームにかぶりつき、破れ目からこぼれたクリームを口の端につける。あふれだしたクリームをあわてて舐めとるのを横目に、佐伯弘貢はポケットティッシュをとりだした。クリームがついていると伝えて、きょとんとした表情の暮木ミゾノの頬をティッシュで拭う。暮木ミゾノはありがとうと笑った。
暮木ミゾノが毎回チェックする店舗は決まっていた。今回も同じ店を同じ順番にまわっていった。アパレルショップがおおい。客層が十代とは限らない店舗もいくつかある。若者向けの店舗だけを見ればいいのではないか。ほしいものは必然的にそういった店舗にあつまっているのではないか、と佐伯弘貢はかつて疑問におもって聞いたことがある。暮木ミゾノが言うには、同年代よりもちょっと上の人たちのファッションを参考にしているから、年齢層が異なる店もチェックしたい。
二〇代を客層とした店で、これどうかなと言って紺色のレースのカーディガンを手にとり身体にあてる。佐伯弘貢は大人女子っぽいと答えてみたが、それじゃあ違うなと暮木ミゾノは商品を戻した。
昼になってどこかで食事を摂ることにした。なにが食べたいかと問えばラーメンが食べたいという返事だった。
レストラン街にラーメン店は一店舗あった。表の通路に用意された長椅子まで待つ人でうまっていたが、暮木ミゾノは気にする様子もなく長椅子の終わりにならんだ。
待つあいだ、暮木ミゾノは見てまわった店で得た感触を話して聞かせた。佐伯弘貢は彼女が見せていた、たのしげでときに真剣になる表情をおもい返しながら話を聞いた。
暮木ミゾノは一つひとつの店で彼女にとって魅力的なアイテムを見つけたようだった。その発見を偶然見つけた人懐っこい野良ネコのことを話すように語った。話を聞くうちに、彼女の言うものを自分が身に着けたり部屋においてみたりしたくなってくるからふしぎだった。とはいえスカートを穿くことはないだろう。
暮木ミゾノはいくつもの魅力的な出会いを語ったが、ひとつとして購入しなかった。手をしきりに動かして説明する彼女の、その手がまさに空っぽであることが、佐伯弘貢にはどことなくものさびしい。暮木ミゾノはなにか自分のなかにある特定の感情を意識して抑えているようだ、と佐伯弘貢には時々感じられる。
「そろそろ髪を切ろうとおもうんだ」
のびてきた前髪の端をいじって暮木ミゾノはいう。そのしぐさはミレニアム問題をまえにして答えがわかりかけている天才数学者のようだと佐伯弘貢はおもった。そのころには次に呼ばれる順番になっていた。
「ツグはどんな髪型が好き?」
「ミゾは今のままで充分すてきだよ。でも、そうだね。ミゾのポニーテールは見てみたいな」
「それじゃあカットにいけないじゃない」
ふたりの順番がきて、むかいあうテーブル席にとおされる。それぞれ違う種類のラーメンを頼んで互いに味見をすることにした。
「食べたらさ、あの店いってもいい?」と暮木ミゾノが聞いた。彼女が気に入ったブレスレットのある生活雑貨の店だと佐伯弘貢にはすぐにわかる。もちろんだと答える。




