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日曜日、日射しは強かったが爽気のみちたおだやかな日和になった。昼前に家をでた佐伯弘貢は、おもわず空の澄明さに目を細めた。住宅街のむこうには積乱雲が屹立していて、夕方には強い雨が降るかもしれないなと感じる。昨日のとおり、まだまだ暑い日が続くらしい。再来週には持久走大会があるけれど、そのころまでこの気候でなければいいなとすこし心配になった。
駅前に待ちあわせの五分まえに着くと、ほどなくして暮木ミゾノもやってきた。トリコロールのボーダーシャツに、丈がながく裾のほうが水色に染められたカーディガンを羽織っている。ミニスカートをよく着ているが今日はミモレ丈のスカートで、歩くたびに折りめの揺れるさまが涼しげだった。一歩ごとにこつこつと鳴るサンダルであらわになった指先はきれいに爪がそろっていて全体がほのかに白い。
「どうかな?」
「ツツジみたいにかわいいよ」と佐伯弘貢は答えた。
ショッピングセンターへむかうバスに乗りこむ。昨日と同じくショッピングモールへむかう家族や若者でバスは混雑した。ひそひそとした会話も子どもが時々たてる笑い声も、休日の陽気に寄り添うようで耳に心地よかった。
暮木ミゾノは車窓を眺めている。時々佐伯弘貢の肩口に触れて、対向車のフロントガラスにかわいい人形がつるしてあったとか、自転車をこいでいたお婆さんが無表情ずぎたといったトピックスをもたらす。
一五分間はあっという間にすぎる。バス停に降りたとき、佐伯弘貢は角野潤の住む団地のほうを見ないように意識した。目をむけてしまうと、角野潤からもこちらのことが見えてしまうのではないかという気がした。
「あそこってさ」と暮木ミゾノがつぶやいた。彼女は歩きながら団地のほうを眺めていた。「いや、なんでもない」
言いさす暮木ミゾノにどうしたのかと聞いても、彼女はあいまいに微笑してなんでもないと繰り返すだけだった。
佐伯弘貢はもちろん暮木ミゾノが言わずにおいた言葉を聞きたかった。なぜ彼女が角野潤の暮らす団地に興味を示したのか。
ただたんに、バスのなかでもそうであったように、暮木ミゾノにとって興味を惹かれる要素があっただけなのかもしれない。そしてそれはたいしたことではないと彼女自身で判断したから言いさしたのかもしれない。
もしくは、角野潤があの団地に住んでいることを暮木ミゾノは知っているのだろうか。
そう考えることは短絡すぎた。あまりにも自分の範囲で考えすぎている。ことにつけ角野潤と結びつけてしまうことに辟易しながらも、佐伯弘貢はただの偶然であるとは判じえなかった。しかしそうおもうのも都合がいい。どちらに考えても仕方のない宙吊り状態だ。それはすこしばかり粘つく不安をもたらした。
「どこを見てまわろうか?」
赤になった横断歩道でたちどまると暮木ミゾノはそう言った。きっと彼女のなかではすでに訪れたい店舗は決まっているのだろうと判断し、ミゾがいきたいところならどこへでもいくよと佐伯弘貢は答える。
「うれしいこといってくれるね」
暮木ミゾノは佐伯弘貢の左腕に両手をまわした。気恥ずかしくありまた歩きづらくもなるが、佐伯弘貢は暮木ミゾノのしたいようにさせた。信号が青になる。サンダルでさらされた暮木ミゾノの足を踏まないよう注意して佐伯弘貢は歩きだす。




