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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~  作者: 和久井 透夏
第9章 破滅の歌が聞こえてくるよ♪
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#93 挙式予定

「いいところに来たわね、レーナ。式は次の満月の日、つまり二十三日後に決めたわ!」

 町に帰ってアンナリーザ達を一旦家で留守番させ、一人で母の事務所を訪ねた私への母の第一声がコレである。


 ルナーン教の暦では、二十八日周期の月の満ち欠けを一月としてそれを十三回繰り返したものが一年となり、この暦はルナーン教を国教としている帝国が世界統一を果たして以降、ルナーン教を信仰する地域以外でも広く使われている。


「初めてのモフモフ教に則った結婚式ですから、それなりの事をする必要があると思うんです。教会はネフィーにやってもらうとして、せっかくだから司祭役もネフィーにやってもらうのはどうでしょう?」

「え、昨日の今日で随分と話が進んでない……?」

 ニコニコと話を進める母とコレットさんに私はそう言わずにはいられなかった。


「あったり前じゃない! ずっと心配していたレーナがやっと結婚するって言うんだから。それにモフモフ教や獣人化の事業の事もあるし、あんまり質素な式じゃ格好が付かないでしょ?」

「急なスケジュールかとも思いますが、先日の虫の一件で事件解決に大きく貢献したレーナさんに注目が集まっている今こそ、モフモフ教の教えを広める大きなチャンスと言えるでしょう」


 どうやら母もコレットさんもすっかりやる気のようだ。

 けれど、結婚式の準備は普通は数ヶ月、かかる時は一年以上かけてやるものなのに、そんな急にできるものなのだろうか。


「大丈夫ですレーナさん。プランが出来上がれば、魔力と資金力のゴリ押しで何とかできます! その為にネフィーには結婚式会場の準備や魔力生産の為に頑張ってもらうことになると思いますが……」

 自信ありげにコレットさんは言う。


「ところでレーナ、お色直しは十回位でいいかしら? 私としてはもう少し入れたい気もするけれど、タイムスケジュール的にそれ以上だと何日かに分ける必要がありそうなのよね」

「いや、別に最初のドレス一着でいいじゃない……そんなに着替える必要なんて無いわよ。準備だって大変だろうし……」


 なんだかかなり盛り上がっている様子の母に釘をさすように私は言う。

 それに、そう慌しく動いていたら、ハンナさんへの警戒が疎かになってしまう。

「なに言ってるのよ、盛大な式にするんだから最低でも五回は着替えてもらうし、今までの通常の結婚式の形に囚われない新たなウエディングプランと素敵な演出をいっぱい考えてるんだから!」


「え……」

 想像以上にやる気だった母の発言に思わず私は絶句する。

 この辺ではよく結婚式は親のもの、なんて言われているけれど、その言葉の意味をまさかこの歳になって理解する日がこようとは。


「ふふふ、場所はこの前町の外れに作られたネフィー記念公園で話は付いているわ。関係各所にお知らせの手紙も送ったし、大まかなプランはもういくつか立てているの」

 少女のように目をキラキラと輝かせながら母は言う。


 私としては、もう既に関係各所に連絡してしまっているという事の方が恐ろしい。

 こうなってしまうと、各所からカンパ金が送られてくるし、皆それに合わせてスケジュール調整をしだすので、今更式を延期なんて言えなくなってくるのだ。


「任せておきなさい、母さんが最高の式を挙げさせてあげるわ!」

 そういえば、妹のリアの結婚式もお色直しを七回して、町中を巻き込んだ盛大なものを挙げていたなあ、と私は思うと共に、状況的に私の場合はその程度では済まないであろう事を察知して私は血の気が引いた。


 当初の結婚式を挙げる目的を考えると願ったり叶ったりなのだけれど、ハンナさんの事を考えると、被害の拡大しか予想できない。

 結局、細かい事は決まったら伝えるから全部任せろと笑顔で言い切る母とコレットさんにそれ以上は何も言えなかった。




「……という訳で、結婚式はこのタージリルの町全体を巻き込んだ盛大なものになる事が決まったの……つまり、対策は町全体に必要よ。あと二十三日でね」

「さすがに二十三日は無茶すぎない……?」


 家に帰って報告すれば、クリスが引きつった顔で聞いてくる。

 もっともな意見であるし、私もそう思う。


「だが、手がかりが全く無い訳でも無い。細かい原理はわからないが、ニコラスの時間を止める魔法は重力操作魔法が使われていた事は確かだ。それが時間操作のためなのか、時間停止した状態を維持するために使われていただけなのかはわからないがな」

 一方、ジャックからは頼もしい意見が聞こえてくる。


「とりあえずその情報があるのと無いのとでは大きく変わるわ。もし時間操作の要が重力操作魔法だと確定すれば、その魔法の発動をピンポイントで阻害する術式を町中に展開すればいいだけだもの……アンナリーザとネフィーは?」

 さっきから妙に静かだと思っていたら、アンナリーザとネフィーがいない。


「二人なら結婚式を祝うための作戦会議をするそうで、二階の部屋に行ってしまいました。内緒の会議なので夕食まで大人は立ち入り禁止だそうです」

「……気持ちは嬉しいけれど、アンナリーザの場合何をするかわからないし、私達には内緒でも式の運営をする母さんとコレットさんには事前に話を通すように後で言っておいた方がいいわね……」

 ニコラスの言葉を聞いて私がため息をついていると、玄関のドアがノックされる音が聞えた。


「誰か来たみたい。僕が出てくるよ」

 そう言ってクリスは立ち上がって玄関へと向かう。


「重力操作は、物質の中に存在する物体の重さを決定するオフィーリア粒子の運動量、つまりエネルギーを操作する事で物を軽くしたり、逆に重くしているのだよな」

「ええ、そうね」


 ジャックの言葉に私は頷く。

 近代魔術の母と呼ばれ、魔術学院の名前にもなっているオフィーリアは生前多くの発見をし、後の魔術の発展に大きく貢献し、彼女が発見した粒子にはその名がつけられている。


「そして、重力操作魔法は転移魔法が発達する以前の運搬用技術として重宝されていたが、重さを軽くすればする程、生鮮食品の傷みが早いと言われていた話は知っているか?」

 そこまできて、私はハッとする。


「もしかして、重力操作で重さを軽くしていた物の時間が早くなっていた……?」

「その可能性はある」

 ジャックが静かに頷く。


「もしそうだとすると、重力操作魔法こそ時間操作魔法の要だから、重力操作魔法を封じる術式を展開すれば……!」

「少なくとも時間操作魔法を発動させる事はできなくなるな」

 この仮説が正しければ、これは世紀の大発見だと私とジャックが静かにテンションを上げていると、ガタリと背後から椅子の倒れる音がした。


「時間操作魔法を封じられるという、今の話は確かなのですか!?」

 声のした方を振り向けば、リッカ嬢がものすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。


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