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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~  作者: 和久井 透夏
第9章 破滅の歌が聞こえてくるよ♪
91/104

#91 大発見

「前に封印されてた時は偶然、赤灯竜の若者が放った火球が当たって封印が壊されたって聞いたけれど、この様子を見ると、原因は火の温度ではなくその時の衝撃だったんでしょうね」

 言いながら私は氷もどきを観察し、ある事に気づく。


「光の関係で見えにくかったけど、よく見ると氷もどきそのものにも魔法陣が刻まれてるわね……これは、重力操作……?」

光の反射する位置からキラキラと浮かび上がるその魔法陣に私は首を傾げる。


「氷や他所から引っ張ってきた重さをまとめて一点に集中させるものだな」

 そう言いながらジャックは風による切断魔法を使って氷の一部を切り取る。

「それなりの大きさにカットしたが、ほとんど重みはない。おそらくあのドラゴンの周辺にこの重みがまとめて奪われているのだろう……つまり、重みこそが時間操作の鍵なのか……」


「重力操作魔法によってニコラスの周辺に集められた重みは、更にまた別の重力操作魔法によってその影響を内側に織り込む事によって、外部への影響を最小限に抑えながら更に内への重量を強化している……氷もどきも周りの囲むものは限りなく透明なのに、ニコラス周辺だけ周りに何も遮るものが無いのにその部分だけ影のように暗いのも気になるわ」


 私とジャックが氷もどきのまわりを回って調べながらああでもないこうでもないと言っていると、しびれを切らしたようにアンナリーザが声をあげた。

「もうっ! なんでもいいから早くニコを助けてよ!」

 今にも泣きそうな声でアンナリーザが言う。


「レーナ、今日は天気いいからネフィー砲いっぱいできるよ!」

 アンナリーザの様子を見たネフィーが、焦ったように申告してくる。

「そろそろアンとネフィーが限界みたいだし、ニコを助けてあげてくれないかな」

 アンナリーザとネフィーをあやしながらクリスに言われ、仕方なく私達はニコラスの救出にうつる事にした。


「とりあえず、前回ニコラスの封印を解いた火球を再現してみましょうか」

 いいながら私が左手を突き出し自分の身体がすっぽり入る位の火球を作って放ってみる。


 ドォン! という派手な音を立ててニコラスを覆う氷はニコラスのいる場所も含めて半分以上が砕け散った。

「熱には強いみたいだけれど、案外衝撃には脆いのね……でもさっき土魔法を使った時は頑丈そうだったし、熱で脆くなるような性質だったのかしら?」


 思ったより勢い良く砕け散った氷もどきに私は首を傾げる。

 少しずつ削っていって様子を見たかったのに、我ながら惜しい事をしてしまった。


 先程の勢いで吹き飛ばされたニコラスを地面に落ちる寸前、浮遊魔法で受け止め、ゆっくりと地面に下す。

「ニコー!」

 気を失っているらしいニコラスのもとに、アンナリーザが飛行魔法でかけつける。


「今治してあげるからねっ! ヒール!」

 私が駆けつけると、ちょうどアンナリーザがニコラスの怪我を治療している所だった。

 先程の火球によるもの以外に外傷は無いか調べたかったのだけれど、今それを言うとさすがにクリス辺りに怒られそうなので言わない。


「……アン? それに、そこにいるのはレーナにクリスですか……?」

 アンナリーザの治療が終わる頃、ニコラスが目を覚ました。

 まだぼんやりした様子だけれど、顔を覗き込んでくる私達が誰かは判っているようだ。


「ネフィーもいるよー!」

 様子を見守っていたネフィーが存在を主張するようにニコラスに飛びつく。

「俺もいる」

 そして、茶化すようにジャックもニコラスの顔を覗き込む。


「私は一体……そうだ、大変ですレーナ! ハンナが!」

 だんだんと意識がはっきりしてきたらしいニコラスが慌てた様子で私に言う。

 焦った様子のニコラスの胸ポケットから昨日渡したお守りの一つを取り出す。

 まあ、何があったかは直接見せてもらうとしよう。


 コイン型の目玉の模様が描かれたシークレットアイという魔法道具だ。

「この魔法道具は魔力を込めておけば、半日分のこの眼に映った映像や拾った音声を記録しておく事が出来るの。直接触れた布一枚くらいなら透過して見られる優れものよ」


「そんなアイテムがあるの?」

「一度限りの使い捨てなうえ、魔術道具職人が手作業で作ってるから高いし、中々手に入らないのよね……」

 珍しそうにシークレットアイを覗き込むクリスに、私は答える。

 確かに貴重な物だけれど、時間操作魔法が使われる瞬間を収められたのならば、全く惜しいとは感じない。


「これ……まだ記録が続いてる。どんなにもっても昨日のうちには込めた魔力がきれるはずなのに」

 つまり、これは止められていたのはニコラスの体感時間ではなく、本当に時間そのものであるという事の証明になる。

 私は期待に胸を膨らませながらシークレットアイの記録を停止させ、少し前の記録を再生してみる。


『ええ、私がハンナよ。なんだ、ちゃんとわかってたのね』

 そう言うと、エルフの姿をしたミニアさんがニコラスと同じ黒い髪の、若い女性の姿に変る。

 その姿はどことなくニコラスに雰囲気が似ている。


『そう、あのレーナとかいう人間と結婚するの。結婚、結婚ね……可愛いニコの晴れ舞台はもちろん祝福するわ……でも、今回はダメ。あの女は危険すぎるもの』


 ニコラスの結婚報告を聞くと、ミニアさん改めハンナさんは、優しく微笑んだ次の瞬間に何かの魔法を放ち、ニコラスはその場に倒れた。

 周りの様子を見るに、この場所は工房だろうか。


『それにしてもあの女、本当にしぶといわ……今度こそ、家族や親しい人間もろとも根絶やしにしないと。あんな人間が出てくるなんて思わなかったけど、生まれてくる時代と種族を間違えたわね』

 言いながらハンナさんは側の壁に手を付きながら倒れたニコラスに手をかざした。


 その瞬間、ハンナさんの触れた壁が光り、私はその壁自体が巨大な魔法石であることに気づく。

 そこで一端映像は途切れ、すぐに爆発に吹き飛ばされる光景と、遠くでニコラスを呼ぶアンナリーザの声が聞えた。


「レーナ、なぜだかわかりませんが、ハンナはレーナを始末するつもりです!」

 深刻そうな顔でニコラスが言う。


「……どういうことかしら」

「どういう、とは?」

 私が呟けば、ニコラスが怪訝そうな顔で私を見る。


「ハンナさんは一旦ニコラスを気絶させた後、巨大な魔法石を使って何かしている。この時点でシークレットアイの記録が途切れる事から、この時に時間停止魔法を使ったのよね。時間を巻き戻す魔法はその場で簡単に使えたのに、時間停止魔法はそれなりの準備が必要という事よね……」


「レーナ?」

 何を言っているんだろうとでも言いたげにニコラスが私を見ているけれど、それどころじゃない。

 私は今起こった出来事をを整理する事に忙しい。


「それに、ニコラスを閉じ込めていた氷もどきに刻まれていた重力操作魔法……アレが時間停止、もしくはその状態を維持するのに必要なのでしょうけれど……」

 言いながら、私は足元のある物に気づく。


「こ、これ!」

「ど、どうしたの!?」

 声をあげる私に驚いたようにクリスが聞いてくる。


「さっきニコラスを閉じ込めていた氷もどきの破片、これはニコラスの側にあったもののはずだけれど、封印を解いたらこんなに透明になっているわ! ニコラスの周りの氷だけ影が差したように黒かったのに! やっぱりコレは材質の問題ではなく、状態の問題なんだわ!」


 これは大発見である。

「ジャック、これから忙しくなるわよ……!」

 私は振り向いて、今、同じ情報を共有していたであろうジャックに言う。


「……一応聞くが、何でそんなに忙しくなるんだ?」

「決まってるじゃない! 時間操作魔法よ!」

「結婚準備は!?」

 なぜか苦い顔をして尋ねてくるジャックに答えれば、後ろでクリスの悲鳴が聞こえた。

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