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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~  作者: 和久井 透夏
第8章 みんな大好きなレーナさん♪
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#80 レーナ争奪ネフィー杯

「……とりあえず、ネフィーは私と審判でもしましょうか」

 結局、勝負をする事で話がまとまってしまったので、とりあえず色々と規格外なネフィーは私と一緒に審判でもやってもらう事にする。

 ネフィーの場合、最悪ネフィーが十分に手加減できずにネフィー砲を撃って大惨事になる可能性があるので、それだけは避けたい。


「審判? なにそれ?」

「勝負の進行とか、皆の勝負を見て、反則がないかとか、どっちが勝ちか微妙な時とかかにそれを判定するのよ」

「それ楽しい?」

「ええ、楽しいわ」

「じゃあネフィーもそれやるー!」


 私が楽しいと答えれば、元気にネフィーは審判をする事に了承した。

 審判が楽しいかどうかはわからないけど、ネフィーを楽しませ続けないとつまんないと言ってアンナリーザ達の勝負に飛び入り参戦しかねないので、注意が必要だ。


「じゃあネフィー、アン達には何で勝負してもらいましょうか?」

「うんっとねー、かけっこ!」

「という訳で、かけっこで勝負してね。あ、走る時は全員人間の姿で走ってね」


 ネフィーに尋ねてみれば、ネフィーは元気良く答える。

 かけっこなら特に怪我する事もないだろうし、問題ないだろう。

 ドラゴンの姿で飛び回られたり、獣人の姿で走られたりすると、流石にクリスが不利になりすぎるので、四人には人間の姿で走ってもらう事にする。


「レーナ? コレは決闘なのでは……」

「あらニコラス、あなたそんな事してアンに怪我でもさせたいの?」

「くっ……しかたありません……!」

 不満そうにニコラスは言ってきたけれど、アンナリーザを引き合いに出すと、思ったよりあっさりと引き下がる。


 ……ちょろい。


 そうして町中の大通りを利用して開かれた直線距離のそんなに長くない距離のかけっこは、クリス、ジャック、ニコラス、アンナリーザの順で決着が付いた。

 二位と大きく差をつけて一位に輝いたクリスは、流石A級冒険者の面目躍如というところだろうか。


「え、ジャックさんって元の姿、結構かっこよくない!?」

 と、クリスは人間に戻ったジャックの素顔を見て密かに驚いていたけれど、その結構かっこいい見た目を台無しにする奇行の数々で地元では全く女性とは無縁だったと教えると、妙に納得していた。


 ジャックは獣人になっている時は靴を履かない主義らしく、獣人から人間の姿になった時も、ズボンは履いていたが、裸足だった。


 ちなみにニコラスは、

「飛ぶ事さえ出来ればこんな距離……!」

 と、悔しがっていた。

 自力で飛べる分、人間の姿で走る習慣がそもそも無かったのが敗因のようだ。

 アンナリーザは獣人化できなければただの子供なのでこんなものだろう。


「皆はやーい! 次は何して遊ぶ?」

 これで勝負も付いた事だし、一段落でいいだろうと私が思っていると、アンナリーザが楽しそうに言ってきた。

「うーんとねー、じゃあ腕相撲は? この前遊びに来た人達がそれやって楽しそうに遊んでたよ!」

 そして、ネフィーも当たり前のように次の勝負を提案する。


 まだやるつもりなの!?


「よーし! 今度は負けないよ! 組み合わせはどうする? 始めに二人ずつやって勝った人同士でやるのがいいよね!」

「じゃあー、ニコとアン、クリスとジャック!」

 キャッキャとアンナリーザとネフィーは話を進めるけれど、腕相撲で一番不利になるのはアンだという事に気づいていないのだろうか。


 しかし、周りの人達もノリノリで、腕を乗せるための台としてたるを持ってくるし、アンナリーザ用に木箱の踏み台まで用意してくれた。

「よーし! 負けないよっ!」

「よ、よろしくおねがいします……」


 第一回戦、ノリノリのアンナリーザを前に、ニコラスは明らかに困惑している様子だった。

 まあ、やる前から既に勝敗は見えているけれど、せめてアンナリーザが満足するようにいい勝負を演じてあげて欲しいところではある。

 二人が樽の上で手を組むと、私に抱えられたネフィーが二人の手の上にそっと自分の枝を添える。


「位置についてー、よーい、どんっ!」

 かけっこの掛け声をそのまま使い、ネフィーは合図と共に枝を二人の手から離す。


「えいっ!」

 合図の後、アンナリーザはありったけの力を込めているようだけれど、予想通りニコラスの腕はびくともしない。


「…………」

「ふあっ!?」

 そして、ニコラスが少し腕を倒せば、あっさりとアンナリーザの腕は傾く。


「あっ、いたい! いたたた!」

 けれど、腕が段々と倒れていき、アンナリーザが悲鳴をあげた瞬間、ニコラスの腕は一気に反対側へと振り切れた。

 振り切れた勢いで、ニコラスの腕が倒れた側の樽のへりが一部へこむ。


「あー! 一瞬の隙を突かれてアンに一本取られてしまいました!」

 妙に大げさにニコラスが声をあげる。

 ……演技が致命的にヘタクソ過ぎる。


「え!? あれ? 私やりすぎちゃった!? ニコ大丈夫??」

 しかし、当のアンナリーザはあっさり騙されてしまったようで、急にオロオロしだす。

「ゴメンね、ニコ。すぐに回復魔法かけてあげるからねっ」

 そういってアンナリーザは樽に打ち付けたニコラスの左手を両手で掴んだ。


「ヒール!」

 アンナリーザがそう唱えれば、淡い光がニコラスの左手を包む。

「大丈夫? もう痛くない?」

「はい! アンのおかげですっかり良くなりました!」

「良かった~」


 心配そうな顔でアンナリーザが尋ねれば、ニコラスは満面の笑みで頷き、安心したようにアンナリーザも笑う。

 ……本人達が満足そうでなによりである。


「君は、確かクリス君といったか……」

「クリスでいいですよ」

「では俺の事もジャックと呼んでくれ。先程は随分素早い走りを披露していたようだが、君は冒険者かなにかか?」

「ええ、剣士をしていまして、一応A級です」

「そうか。よし、次の勝負、俺は棄権しよう」


 一方、ジャックとクリスは既に話し合いで勝負がついていた。

 確かにA級冒険者の剣士の握力と腕力を前にしては、魔術師なんてひとたまりも無いだろう。

 しかし、ジャックが棄権を宣言した直後、周囲からはブーイングが飛ぶ。


「男気を見せろー!」

「そこは勝負しろよ!」

「男としてのプライドは無いのかー!」

 皆、完全に面白がっている。


「そこまで言うのなら、誰でもいい、俺の代わりに彼と勝負して見事勝ってみせて貰おうじゃないか、剣士として日々剣をふるい、A級まで上り詰めた彼とな!」

 そして、ジャックはジャックでなんか言い出した。


「そういう問題じゃねえよ!」

「なんでお前が偉そうなんだよ!」

「きたねえぞジャック!」

「第一そんなの認められるかよ!」

 どうも、話しぶりからして野次を飛ばしているのはジャックの知り合いらしい。


「ふはははは! なんとでも言うがいい腰抜けどもめ!」

 対してジャックもなぜか得意気に彼等を煽り返す。


「ネフィー、ジャックの代わりに他の人がクリスと勝負するのはアリかしら?」

「いいよ! じゃあ、ジャックの代わりにクリスと勝負する人ー!」

 私が尋ねてみれば、ネフィーは元気良く右側の枝をわさわさと振って挑戦者を募る。

 もう勝負とは名ばかりのぐだぐだ感だ。


 やはりというべきか、辺りはしんと静まり返る。

「では、わたくしが立候補させていただいてもよろしいでしょうか?」

 少しの間を置いて、先程クリスと目が合った娘さんがニコニコしながら手をあげていた。


「ええ、もちろん」

 私は笑顔で頷く。

 多分クリスのファンの女の子で、最初から勝つつもりはない、クリスとの握手目的の女の子だろう。

 とりあえず、怪我はさせないようにね、とクリスに目配せをしようとした時、私は首を傾げた。

 クリスが手をあげた娘さんを見て、なぜか冷や汗をかいていたからだ。

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