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アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~  作者: 和久井 透夏
第10章 幸せなら耳生やそう♪
102/104

#102 決着

 それは、一瞬の出来事だった。

「それでは皆様、ご機嫌よう」

 ハンナさんがそう弾んだ声で私達に言い放った瞬間、彼女の頭上に突然大量の花びらが舞いちり、その直後、ハンナさんは地面に叩きつけられた。


 突然ドラゴンの姿のハンナさんが先程の石以上の衝撃で私の目の前に落ちてきて、私もその衝撃にしりもちをついてしまう。


「じゃじゃーん! 今から私達でママとクリスとニコにお祝いのショーをするよ!」

 ロッドの上に仁王立ちしたアンナリーザが自信満々に宣言する。

 周囲にはそれぞれのロッドに跨ったダリアちゃんとデボラちゃん二人の母親であるリアや、グリフォンやヒポグリフに乗ったエリック君とその両親であるテオバルトやローレッタがこちらを見て驚いている。


「おいアン! なんかドラゴンが地面に叩きつけられてるぞ!?」

「え? うわああああ!! ニコ!? なんで!?!?」

 エリック君とアンをはじめとした面々が血相を変えて降りてくる。


「アン! 私はここです!」

「ニコ! あれ? じゃあこのドラゴンは?」

 アンナリーザがニコラスの声に振り返った時、ハンナさんがむくりと身体を起こす。


「アン! 下がって!」

 咄嗟に私は重力操作魔法でハンナさんの身体を押さえつける。

 ハンナさんの身体は再び地面に叩きつけられる。


「ふあっ!」

「アン! 大丈夫ですか!」

 ニコラスは衝撃でしりもちをつくアンナリーザのもとに駆けつけると、アンを抱き上げてネフィーの元へと走って戻る。


 それを見てホッとしつつ、私はある事に気づいた。

 時間操作魔法の要は重力操作魔法にあり、ジャックの話では更にその魔法を成立させるには、複数の複雑な魔法を同時に発動させるかなり高度な技術や桁外れの魔力が必要なのだ。


 そして、今、ハンナさんは先程、時間操作魔法を使おうとしていたのに、今は私の重力操作魔法に大人しく押さえつけられている。


 さっきハンナさんがいきなり地面に叩きつけられた時、アンナリーザ達はただ大人数で彼女のすぐ後ろに転移魔法を使って現れただけだ。

 つまり、周囲から何らかの魔法の干渉があると、うまく発動させられないのだろう。


「リア、テオバルト、ローレッタ、今すぐこのドラゴンを最大出力の重力魔法で押さえつけて! 少しの間でいい! このままだと全員殺される!」

 私はできるだけかいつまんでリアやアッシュベリー夫妻に事情を説明する。

 三人とも魔術学院の卒業生なので、重力操作魔法は習得しているはずだ。


「よくわからないが、緊急事態のようだな!」

 テオバルトは、私の話を聞くなりすぐに重力操作魔法を発動してハンナさんを押さえつける。


「そのようですわね!」

「後でちゃんと説明してよねっお姉ちゃん!」

 それに続くようにローレッタとリアも重力操作魔法を発動させる。


「ネフィー! 魔力を分けてちょうだい!」

 次に私はネフィーに声をかける。

 ハンナさんを押さえつけるのに魔力を使い過ぎた。


「レーナ! でもさっきネフィー砲撃ったからあんまり残ってないよー!」

 ネフィーがそう答えた瞬間、再びネフィーの頭上に光の輪が現れる。

「なんだか考えがあるんでしょ、私達も協力するわ!」

 母がネフィーの窓から顔を出して言い、他の人達も私を見て頷く。


「わかんないけど私もお手伝いする!」

 ジャックに保護されてネフィーの所まで避難して来たアンナリーザも手をあげた。


「おばさま! 私も!」

「私もやる~」

「俺だけ何もしないなんて、かっこ悪いからな!」

 アンナリーザに続いて、ダリアちゃんとデボラちゃん、エリック君も声をあげる。


「皆……ありがとう」

「レーナ、これにつかまって、魔力流すから」

 私がお礼を言えば、ネフィーが私に一本の根を差し出す。


「お願いね」

 私がネフィーの根に触れれば、ネフィーから大量の魔力が流れ込んでくる。


「レーナ! まだか!」

「もう少し頑張って!」

 私はテオバルト達にそう返しながら三人がかりの拘束を今にも押し返そうとしているハンナさんを囲むように術式を展開する。


 十日前、ジャックに頼んで一緒に術式を解析して、再構成し、無詠唱でも発動できるように練習した魔法。

 以前、虫達が攻めて来た時、町全体に張り巡らされていた魔力を強制的に全て放出させる魔法だ。


「これでっ終わりよ!」

 私がその魔法を発動させれば、ハンナさんの周囲を囲むように魔法陣が現れ、彼女の魔力を強制的に放出させていく。


「――――――――!」

 泣き声とも悲鳴ともつかない声を上げてハンナさんはもがく。

 しばらくして、ハンナさんの魔力を全て放出させ終わると、私は狩猟用の拘束魔法で彼女を拘束する。


「これでやっと話し合いができますね、ハンナさん」

「……まさか複数相手とはいえ、私が人間に負けるなんて、思ってもみなかったわ。もうさっさと殺してちょうだい」

 私が声をかければ、唸るようにハンナさんが答える。


「嫌ですよ。大体、私はあなたと話し合いがしたいんです……そういえば、ジャックは?」

 彼女を殺すなんて、そんなもったいない事する訳ない。

 時間操作魔法やその他の古代魔法についても、彼女には聞きたい事がたくさんある。

 そして、私はこの時やっと、今回の一番の功労者の存在を思い出した。


「え、ジャック? 見てないけど……」

「そういえばいないな」

「そもそも、あいつは今日くるのか?」

 ネフィーの中からぞろぞろ出てきた参列者の人達が口々に言う。


「……ごめんなさい、ちょっとジャックを連れてくるから、しばらくここをお願い」

「お願いって、レーナ!?」

 とりあえず、魔力放出魔法も拘束魔法も、既に私がいなくても勝手に機能するので、クリス達に後を任せて私は転移魔法でジャックを迎えに行く事にする。

 クリスが何か言っていたような気はするけど、話は後だ。


「やっぱり寝てたわね……」

 魔法学院の地下にある研究施設の仮眠室を覗けば、いびきをかきながら幸せそうに眠る狼男の姿を見つけ、私は大きなため息を吐く。


「……なんだ、もう朝か? 例のドラゴンとの対決も、いよいよ今日か」

「今日だけど、もう終わったわよ。いいからちょっと来てちょうだい」


 私が軽くジャックの身体をゆすれば、目を覚ましたジャックが身体を起こしながら言うけれど、その段階はもう過ぎている。


「待たせたわね」

「お、お帰り……」

 寝起きのジャックをそのまま引き連れて転移魔法で戻れば、クリスがポカンとした顔で出迎える。


「紹介します。ハンナさん、こちら、私の持ち帰った時間操作魔法の情報から今回の対策を考案したジャックです。見ての通りの獣人ですが、元は人間で、獣人化魔法も元々は彼が一人で考案したものです」

 早速、私はハンナさんにジャックを紹介する。


「直接会うのは初めてだったな。時間操作魔法については調べれば調べる程に格の違いを思い知らされたが、おかげでとても有意義な成果が得られたよ」


「……そう、つまり、私はあなたに負けたのね。今の魔法の程度と倫理感では放っておいても後百年以上、種族変更魔法が開発される事もなかったはずだったのに」

 ジャックを前にしたハンナさんは静かに、しみじみと話した。


「今回、私はジャックに協力をお願いするにあたり、一つ条件を出されました。それは、ハンナさんを打ち負かしたら殺さず、また、必要以上の危害も加えずにジャックと引き合わせる事です」

 私が説明すれば、ハンナさんやその場にいる全員の視線がジャックに集まる。


「俺を、あんたの弟子にして欲しい」

 ジャックはハンナさんをまっすぐ見つめて言った。

 まあ、そうくるだろうなあ、と私は思っていた。

 今の時代には失われてしまった古代魔法と時間操作魔法の数々、それはそう簡単に失われていい代物ではない。

 正直、私だって弟子にして欲しい。


「生憎、弟子は取ってないわ。弟子を取ってもすぐに私より先に死んでしまうもの」

 気だるそうに地面に横たわりながらハンナさんが言う。


「なら、先に俺の寿命を延ばす方法を一緒に研究してもらえないだろうか」

「……種族変更魔法が成立しているのなら、成人しててもあと二百年は生きるはずよ」

 しかし、なおもジャックが食い下がれば、ハンナさんがぼそりと呟く。


「それだけあれば、俺の寿命をあんたに近づける事も可能だろう。元々、遺伝子操作は俺の専門だ」

 自信満々にジャックは言う。


「随分、自信満々なのね。まあ、短い寿命でここまで私を追い詰めたのだから、一応その才能を認めてあげない事もないけれど……どうしてもというのなら、一つ提案があるわ」

「なんだ?」

「私は弟子は取らないけど、伴侶なら、話は別よ」

 今までずっと節目がちだったハンナさんが、まっすぐジャックを見る。


「そうか、なら、俺も一つ条件を出してもいいだろうか」

「なにかしら?」

「獣人化してみる気はないか?」

「……は?」


 ハンナさんは不思議そうに首を傾げた。

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