↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/2

第1話 俺は冒険者

冒険者「俺」登場

「俺はすき家で皿洗いするD級冒険者だ」

 俺は今、冒険者ギルドの依頼をこなしている。依頼内容は、こうだ。

『2029年7月16日すき家〇〇店での接客及びバックヤード:ランクD』

 俺は冒険者。己の腕っぷしひとつで稼ぐ冒険者なのだ。

 依頼を完遂できるか、できないか――それだけが俺の価値。だから俺は一生懸命に皿を洗い、笑顔で接客をこなす。

「いらしゃせー!ありゃーしたー!」

「牛丼大盛、卵つきです。ご注文に誤りはありませんでしょうか。では、ごゆっくりどうぞ。」

 ホールに戻る途中で空いた丼とコップを下げ、そのまま洗い場へ戻り、洗い物との戦いを始める。無駄のない動き、笑顔。今の俺は完璧にすき家の従業員――いや、正社員にも負けていない。そう、ランクに見合った依頼をコツコツとこなし、俺はいずれS級冒険者に至るのだ。


 ちょっと前、俺が小学生か中坊だった頃だろうか。『タイミー』という仕組みが世の中に現れ、時代の寵児となった。

 しかし、しばらくして、企業とタイミーさんとのミスマッチが増えたらしい。能力と企業の求める人材とのギャップとかなんとか......。

 そこに忽然と現れたのが、「冒険者ギルド日本」だった。企業の求める人材をランク分けし、スキルに見合った仕事をパーティで解決していく。

 その名も冒険者。S級ともなれば、弁護士や医者も足元に及ばない成功報酬を手に入れることも可能な職業だ。

 俺はそんな冒険者の一人であり、成り上がりを目指す男なのだ。

 アニメのように剣や魔法でバッタバッタと敵を薙ぎ払うような派手さはないけれど、自分の腕一つでどこまで行けるか試したい。


 水しぶきが顔に当たる。ふと隣を見ると、丼を何個も重ねて持ち、腕を激しく上下に動かしているおっさんがいた。「シンクが......気持ち悪いんだよ......」ブツブツと呟きながら、丼についた水気を振り飛ばしている。俺よりだいぶ年上の男だ。

「先輩、そんなに振り回さなくたって食洗機があるじゃないですか。軽く洗って入れちゃえばいいですよ」俺は疑問に思ったことを素直に口にした。

「あー。汚れも落とさず食洗に入れると時間かかるだろ。汚れた水気も切れば、より綺麗になる」

「すんません、社員さんだったんですか。綺麗に越したことはないですよね、勉強になります!」

「いや、俺、タイミーだよ」

「え!?」

「タイミーさんだよ、俺」

「え!?なんで?じゃーさっさと食洗機に入れちゃえばいいじゃないですか?」

「その方が気持ちいいじゃん。それだけ」

「あーそうっすね」

 なんか、妙に納得してしまった。


 今日一日が終わった。俺としては獅子奮迅の働きをしたと思う。一方、先輩はというと終始洗い場担当だった。まあ俺がホールを回していたから問題ないのだが......相変わらずブンブンと丼を振り回していらっしゃった。

 一日の終わり、店長からねぎらいの言葉があった。

「今日一日お世話になりました。また機会があればよろしくお願いしますね」

 俺は調子よく答えた。

「初めてでしたが、皆さんが丁寧に教えてくださり、適切なアドバイスのおかげでこなすことができました。今日の主役は俺ではなく、皆さんです!」無難かつ満点の返答だ。

 しかし、先輩はペコッと頭を下げて、言い放った。

「あの、社員さんをはじめ、もう少しテキパキできないんすか」

 俺はあんぐりと口を開けた。

「あ…、それなら頭だけペコペコ下げて黙っていた方がよかったよ」

 心の中で突っ込みつつ、俺はギルドの受付のおねえちゃんの言葉を思い出していた。

『いい?依頼は人。人は礼儀に始まり礼儀に終わるのよ!』

 更衣室で一緒になった。

 制服を脱ぎ、私服に着替える。ふと目を先輩に向けると、

 その胸元で、見まごうことなきギルドの記章が左右に揺れていた。

「あ、先輩もギルドなんすか?俺もギルドなんすよ!」俺はネックレス状のギルド章を手で持ち上げてみせた。

「あー......、捨てられなくてな」呟くように言い残し、先輩はドアを開けて出て行った。

 ??......ハッ!そういえば、受付のおねえさんが言っていたっけ。

 『伝説のパーティにもいたのよ~。ま、よく言えば伝説の......コミュ障??ギルド設立時、いずれS級になるって言われてたパーティでさ。不愛想で返事もしないし、黙っていればいいものをクライアントに文句を言って干された人がねー。結局パーティも険悪になって解散。他の人たちはうまく次のパーティに入れたけど、その人はね......わかるでしょ?コミュニケーションは第一だからね!君はへらへらしてるから大丈夫だと思うけど』

 おねえさんの呆れ顔と、さっきの先輩の動作が脳内で完璧にリンクした。

「あー!この人だ!絶対そうだ!」俺は確信した。

 すき家での依頼は無事に完遂し、「ぜひまた来てほしい」という高評価も得られた。しかし、例の先輩とはそれっきりだった。

 ネームプレートの名前は「タイミー」としか書かれておらず、本名も知らない。

 ギルドのおねえさんに詳しく問いただす気も起きないまま、俺はすき家の店舗違いの依頼をこなしつつ、数週間が過ぎていった。


ギルド1

「すき家の依頼ではなく、もう少しランク上の依頼を受けたい」と俺は、受付のおねえさんにそれを相談した。

「そうねー。いいわよ」

 と、受付から出てきて、そのまま、カツカツとヒールを鳴らしながら、受付前の飲み屋(そう、冒険者ギルドには飲み屋(アニメのビアホールそのもの))に入っていき、依頼を達成したであろう大いに盛り上がっているパーティに声をかけた。

「この子、Dランクで、今すき家の皿洗い5件こなしたんだけど、次、何がいいと思う」

 おねえさんに一番近い人は、ジョッキを掲げながら、「はーい。そのまま同じでいいと思いまーす」と叫んでた。

「次」

 グダっとしてた隣の席の人がガバっと顔を上げ、

「先生、俺はBIGになりまーす」

 と言った瞬間、机に突っ伏した。

 おねえさんは、

「いいわねー、期待してるわ。次。」と言った。

 この中では一番貫禄のある人が、

「うーん。すき家ってマニュアルだろー。次はマニュアルないとことかいいじゃねー」

 と、一番まともな助言をしてくれた。多分この人がリーダーだ。

「おお、いいね。採用。で、なんかある」

 おねえさんは指を指しながら答えた。

 リーダーぽい人は続けて、

「じゃー、個人経営とかはー」

 最後の人が、

「おお、個人経営って言ったら、あそこでてたじゃん。蕎麦屋」

と言いつつ、俺に指さしながら言った。

「ああ、あれね、わかったわ。ありがとう」

 机に突っ伏してる人以外が「どういたしましてー」と皆上機嫌に、ジョッキを掲げながら返していた。

 気持ちのいい奴らだ。あの時、いずれ、俺もこんなパーティででっかいことするんだと震え、思わず「俺もこのパーティに入れてください」って頭下げたら、「いいよー」なんて軽く言ってくれたっけ。まあ、あれから一度も声かかってないから、多分もう忘れられてるんだろうけど。それでも、こうやって蕎麦屋の話を勧めてくれるってことは、ちゃんと覚えててくれたんだろうな。という経緯で、例のすき家の近所の蕎麦屋の厨房&ホールの依頼を受けた。


蕎麦屋

 その蕎麦屋は、昭和何年だかの創業で、今が3代目か4代目 ざっと100年ってとこの老舗蕎麦屋だ。

 で、老舗だが、ここ最近の人手不足の煽りを受け、ギルドに助っ人要請だ。


 依頼当日、これからはいる人間がドア側、迎い入れる方が店側って感じで、自己紹介があった。

 俺の隣にはあの先輩がいた。

 若旦那とおぼしきおっさんが、

「じゃー今日から1週間皆さんと一緒に働く2名です」

「じゃー、こちらから自己紹介をお願いしま。」

「タイミーから来ました。よろしくお願いします」ボソボソとあいさつ。

「あー、私は冒険者ギルドから来ました。これまで飲食をあれこれ経験してきましたが、このような老舗のお蕎麦屋さんは初めてです。わからず、皆様にご迷惑をおかけするとは思いますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」と俺は無難に挨拶し、深々と頭を下げた。

 ここの従業員は、厨房担当は若旦那、ホールが若女将とパートのミカさん、なんでも屋の俺ら助っ人の2名の計5名。

 なんでも、暑くなるこの時期は、昼間の客が増えるのと、若女将は、学校が休みで子供面倒を見なくてはならないため、お休みされることが多くなること、厨房の仕事は暑く、無理すると倒れるってことで、盆までの2週間、2名助っ人となったらしい。

 ま、タイミーとギルドに依頼出した手前、1名ずつってのが落としどころかなと思ってみたり......

 さすがはギルド、D級とは言え、タイミーより時給は良い。が、手数料とかもろもろ引かれるものも多く、手取りはほぼ一緒となっている。ギルドも商売上手だこと。


 店内を見回すと、どこにでもあるような蕎麦屋のたたずまい。

 机と椅子のみで座敷はなく、4人掛けで、8卓 MAX32人は入る店で、割かし大きい。

 昼時は手ごろな定食なども取りそろえており、オフィスビルと住宅街、マンションの間の通りにあるので、昼はサラリーマンが、夜は仕事帰りのサラリーマンと家族連れって感じの店だ。


 俺らの仕事割は、まー、自然に決まったというか、先輩がさも当然というように厨房に行ってしまわれたので、ミカさんと俺がホールとなった。


お昼。

 暑い時期だ。蕎麦屋では、ざる、盛り、ぶっかけ、温もりが飛ぶように出る。

 若旦那が麵を茹で、水にさらし、ザルに上げる。先輩がザルを受け取り、ざるそばのザルや盛用の皿に手際よく盛っていく。

 最初は量りながらだったのが、2,3日で掴んだ感覚で盛っていく。すごい。

 盛ったあとは、注文に合わせ、海苔を載せたり、とろろをかけたりしている。早い。

 ホールと言えば、あいさつ、注文と水出し、伝票書いて、厨房に指示、出てきたものを間違えなくお客さんにだし、会計、後片づけ。右側が俺、左側がミカさんって感じでぐるぐる回してる。

 4人席なので、合間合間で、「相席いいですか?」と先客に声掛けをしてるのが、ちょっとノイズ。断られることはないのだが、蕎麦すすってる最中に声掛けるのは、口から蕎麦たらしながら頷かれる状況だと、何とも申し訳がない。でも、なんとか回してる。


夜

 お昼とは打って変わり、のんびりムード。

 時々、ビールだの酎ハイだののお替りと、追加の卵焼きとか、天ぷらとかが出る。

 家族客もぼちぼち居て、子供用の椅子だの、お椀だの出すくらいでそんなお昼ほどではない。


 先輩も、若旦那から料理の手ほどきを受け、満更でもない様子。俺も、賄の卵焼きとかやらせてもらい成長を感じている。


 それぞれの仕事に慣れた頃、先輩が時々ホールをのれん脇から覗いてるのに気が付いた。

「なにか?」と聞くと。

「なんか気持ち悪いんだよな」

「なにが?」

「ほら、客が迷ってる」

「いらっしゃいませー」と声出ししながら、入口を見ると、確かに、お客さんがキョロキョロしてる。

 ミカさんに案内され、「相席いいですか?」とのミカさんの声とともに、軽く会釈をして、静々と席に着く。

「そりゃー空いてる席行きたいからでしょ」俺が言うと。

「お前はそうなの?俺は一人の席がいいよ」

「え!」と声を出すのと同時にミカさんから「ちょっと」と声がかかる。

「すいません。ご注文は」といいつつ、コップと伝票をもって、客のところに駆けつけた。


「先輩。さっきの話ですが」とお昼の慌ただしさがひと段落付いた時、先輩に声をかけた。

「ああ。俺は一人席が好きだな。あと、店側としてもだ」

「店側?」

「そう、お前らホールにしてもだ。いちいち、「相席いいですか?」なんて声掛けて、無駄だ」

「あー。俺もそれは思ってました。あと、俺も一人席が好きですよ」

「何が好きだって?」

 若旦那が話に入ってきた。

「いや、先輩がですね。お客さんの要望としては一人席がいるんじゃないかって話なんですよ。ね、先輩」

「そう、俺は一人席が好きだ」

「先輩、そうじゃなくて、お客さんの話ですよー。あと、店側がなんでしたっけ」

「ああ、「相席いいですか」ってのも無駄だし、すき家みたいにカウンター席作れば、すぐに一人席になるし、客数同じになら、カウンター席の方が、店、広く使えますよ」

「カウンターねー 面白いけど、お金がねー。これまでどおりお客さんに相席お願いするしかないんじゃないかなー」

「あ、若旦那、4人席を壁に引っ付けるってのはどうです?」

「そりゃ金はかからないねー。でも、席が半分になっちゃうんだけど......」

「あー そうですよねー。」

「この席がこうでー、ブツブツ......」

「え、先輩いい案あるんですかー。」と同時に、お客が来た。「いりゃしゃーませー」

 お店の日常に戻った。


 夜の営業も終え、帰り支度を始めた頃、先輩が若旦那に

「倉庫に客席ありましたよね」

「え!何?」

「だから、壁に席引っ付ける話で、客数が減るって言ってたじゃないですか。あれ、この間取りなら、もう4卓増やせます。」

「それなら、24人客が入ります。昼間だって、みてたら32あるけど、せいぜい22・3人ってとこですよね。24人ならいいでしょ」

 若旦那は目が泳いでる。何の話か頭をぐるぐる回転させているようだ。

「若旦那―。カウンターにするってやつの代案ですよ。4人席を壁に引っ付けるってやつの。

 先輩がなんか面白いこと考えたようですよ。ちょっと聞いてみてくださいよ」

 とすかさず、合いの手を入れた。

「あー、あのことね。」やっと得心したようだ。

「4卓も入る?」

 先輩が早速机を壁に寄せ始めた。

「お疲れ様でしたー。お先です」とミカさん。

「お疲れ様でしたー。」と言いつつ。我々は残って、部屋の模様替えに入っていた。

「で、机をぴったりつければ、ほら、ちょうど2卓づつ、左右で4卓はいります」

「なるほどねー」

「じゃー倉庫から取ってきますね」と俺、善は急げだ。

 若旦那があたふたしてたが、そんなのしらねー 聞こえねー

 先輩と二人で机をだして、雑巾がけして、店に出せるようにした。

「用意できましたが、やっちゃいます」って俺が言うと、

「うんうん。いいよ やっちゃって」との返事

「じゃー先輩と」、椅子をどかしながら、壁に引っ付けていく。

「あ、若旦那、動かしたところの雑巾がけ頼みます」

 皆で、テキパキとやってみたのだが、終わったのは日付が替わってた。

「なかなか、いいじゃないですかねぇ。ねぇ若旦那」

「そうだねー、ちゃんと入ったねー」

「うん。真ん中に通路ができて、導線が気持ちいい。気持ちいいぞ」

 なにがそんなに気持ちいいんだかわからないが。先輩も満足そうだ。

「ちょっと、座ってみて」と若旦那。はいよって具合に俺が座る。

「先輩も隣座って」先輩はなんだよーって感じで渋々座る。

「うーん。配膳平気かなー。 お客さんに当たらないかな」

「そうかー。すき家とかは前から配膳ですもんねー。「後ろから失礼します」で何とかなりますよ」

「お断りするのはいいんだけどさ。うちってアツモノじゃない。こぼしでもしたら、ねー」

「え。今から戻すんですか」

「いや、そうじゃーないけどねー。ちょっと心配、心配だなー」

「大丈夫っすよ。声掛けして、ゆっくりお出しすれば平気ですよ。それに今は夏ですぜ」

「ミカさんにも説明しなくちゃーなー」


次の朝

 ミカさん、第一声、

「いいじゃん」ニコニコされておられる。

「でも、若旦那が、配膳、後ろから大丈夫かって気にしてるんですけど」

「え。大丈夫でしょ。ま、気を付けましょ」とあっさり。


 皆がそろってから、若旦那から、

「えー 皆さんからの意見を反映して......(省略)......」改めて、模様替えの趣旨が話された。


お昼

 常連客さんは「ギョ」とはするが、慣れたもので、案内もないまま、自分の好きな席へ

3名お連れさんがいる方は、「あいにく、席はなれちゃうんですけど大丈夫ですか」と聞き、

配膳は、「後ろから失礼しますね」と一言いえば、体をよじって、下手すると、膳を受け取ってくれたりもする。

 グループに喫煙者がいる場合は、更に良い。

 喫煙者がタバコを咥えながら「先出てるぞ」と言って席を立つ。残った連れは「あ、はい。」と返事をするが、気にする様子もなく、スマホに視線を落としたまま、蕎麦をすすっている。

 前なら、みんな揃うまで席を立たなかったはずで、回転率が良い気がする。


夜

 サラリーマンが、仲間との3から4人の飲みは。皆壁に向かって飲んでる。隣同士で会話が弾んでいるようで、ま、カウンターと変わらない。

 家族連れは、小さいお子さん連れには、子供が2人いても、常に横に付いていられるので好評だ。ただ、後ろが広いので、走り出したら困りものだ。

 多数のサラリーマン1人飲みの方々には、個室をあしらったかのようで、酌が進んだ気がする。


店

 店の、特にホール担当には、素晴らしく好評で、ミカさんなんかは、「楽―!」を連発されていた。

 当然、厨房は関係ない。

 席を減じたせいで、売り上げが落ちるかと思われたが、意外にも、初日は前日以上の売り上げをたたき出した。

 コンビニのポスレジでもあれば、客が何人来たか、正確に分かったのだろうが、ここにあるのは金額しか分からない旧式のレジだ。個人商店の弱みだな。ただ、若旦那もなんとなく手応えを感じているようだった。さすが、先輩、効率厨。

 しかし、先輩は別のところで気持ちの悪さを感じているようだが......


 良い状況で、迎えた4日目の昼の慌ただしさを過ぎた頃、ご隠居が現れた。

 ガラっと入口を開けた瞬間、「なんだー これはー」と大声

 数人のお客さんを含め、全員で入口を見やる。

 何人かは、蕎麦をすすっているせいで、口から蕎麦をたらしながら、振り返っている。

「てめー 何考えてんだー」と、厨房に

 暖簾から顔を出した若旦那の胸倉をつかみ上げた。

 ミカさんが、

「ご隠居。みっともないから」

 と止めに入り、俺たちはご隠居さんだと知った。

 はっとしたご隠居。手を放しつつ、若旦那を押し込み気味にそのまま厨房へ。更に、その奥まで押し出していった。


 気を利かしたミカさんが、

「どうも、お騒がせしました。すみません」

 とお客さんへ謝ると、俺らも深々頭を下げた。お客の何人かは、「だろうね」って顔をしてる。


 さらに、ミカさん。やばいと思ったのか、入口の「営業中」の木札をひっくり返して、「準備中」にしていた。さすが。


 客が引いて、暫くたったが、まだ、奥から出てこない。

 時々、ご隠居の「なにおー」とか「俺が大事にしてきたー」とか「初代に申し訳ねー」とかは聞こえてきたが、若旦那の声は聞こえてこなかった。

「お前の考えでやったのかー」と聞こえてきたときは、「ドキリ」としたが、そのあと、

「なにが、ここの責任者は私だーだ。まだ、譲ったわけじゃーねー」の言葉に、ちょっと若旦那を見直した。


 それから、暫くして、片目を腫らした若旦那と息の荒いご隠居がホールに出てきた。

 俺は、サーっと、冷たい麦茶を2つだした。

 ご隠居はクィっと開け、一言「おい」と若旦那に向け顎でしゃくった。

「えー。カウンター席の試験はこれで終わりにします。申し訳ありませんが、夜の営業からは以前の形に戻しますので、皆さん協力して、元に戻してください。お願いします」

と若旦那は頭を下げた。

 頭を上げ、「じゃーやりましょう」の掛け声で、全員、のろのろと動き出した。

 BGMにご隠居のありがたい講和として、「この由緒ある蕎麦屋の歴史、ここにありどれだけ住民に愛されてきたか、4人席の意義、家族の会話の大切さ、これからもこの蕎麦屋がこの場所で営業する意義」等々が語られた。

 その中で、テレビが見れないとあったが、大体、背中向きの人はみえないじゃんと心の中で突っ込みを入れた。


 夜の営業に間に合った。以前の通りといえばそうだが、ご隠居は厨房にでんと座り、若旦那を監視しているようで、こちらもなんか重苦しかった。

 ご隠居も帰り、ミカさんも帰り、俺たち3人になった。

 その時、若旦那がポソリと口を開いた。

「すまなかったねー。折角考えてくれたのにねー。

 最初は、俺もね、えーー!と思ったんだよ。でも、やってみるとさ、いい感じじゃない。

 厨房から見ててもさ、なんか、活気ってんじゃないんだけど、そうだなー、スムーズって感じで人と蕎麦が流れてくのがいいなーっておもったんだよねー。

 親父に反論して、殴られちゃったけど、まー、「俺が死んでからにしてくれ」って言われたらねー。なんも言えないよねー。ごめんねー。でも、楽しかったよ。ありがとねー」

 俺は、その「ありがとねー」を聞いた途端、

 あー、俺も、俺も楽しかった。確かに楽しかったんだ。と言う思いが溢れてきた。

 そうだ、この蕎麦屋の人々と、面白いことをし、楽しい時間を過ごしたんだ。

 それから、申し訳ないやら、悔しいやら、情けないやらで目頭が熱くなり、不覚にも涙を流してしまった。

「ずびまぜーん」鼻を鳴らしながら、謝ってしまった。

「え。どうしたの、泣かないでよ。謝らなくていいから。ね。 こっちこそ悪かったんだからねー。......ちょっとー、先輩なぐさめてあげてよー」

 恥ずかしい。先輩に背中をトントンされてしまった。


 そんなこともあり、先輩は、その後、「気持ち悪い」も言わなくなり、俺も黙々と仕事をこなした。

 俺も、以前のように、「相席いいですか」と聞きながらである。

 なんか割り切れない気持ちもあり、俺はやったんだって気持ちと、世の中ってそうだなっていう達観もある複雑な気持ちを持った依頼だった。


ギルド2

「おねえさん。次なんかいいのない」

 蕎麦屋の依頼達成でもらった金で、趣味の食べ歩きを豪勢にした結果、あれから数日で、依頼を求め、俺は、受付のカウンターに身を預けながら、聞いた。

「そうねー。前、蕎麦屋だっけ。お疲れ様。どうだった」

「そうっすね。確かに、マニュアルのない「ザ・家族経営」って感じでした。

 で、机の配置とかいじっちゃって、最後は怒られちゃいました。

 でも、なかなか、効率的に回せて、楽しめましたよ」

「フーン、そう、机の配置替えちゃったか。ま、楽しめたのなら、よかったわ。

 でも、配置替えたってことは、そこの業務は分かったってことだよね。

 どう言う仕組みとか、その工程もわかるからイロイロ工夫できるってことだよね」

「まーそうっすね」なんか嫌な予感がした。

「じゃー、君はこれの製造過程とか知ってる?」おねえさんは、個包の飴ちゃんの端をもち、ブラブラさせながら言った。

「え、工場で作るんでしょ」

「正解。でも、その製造工程とか知ってる?」

「いやー、知らないっす」

「知ってると、知ってないじゃ大きいよね。そこで、知らない君に、こんな依頼があります。」

 依頼書を俺の前にスッと出してきた。

「これ、弁当のラインじゃないですか。あまり、いいうわさ聞きませんけど」

「あら意外、君はうわさなんか気にしない子だと思ってたのになー。

 自分の目しか信じない冒険者と思ってたのは私の勘違いかなー」

 ニヤニヤしながらおねえさん。

 やられた。工場。特に食品のラインって、本当にいい噂はきかない。「臭いがー」とか、「永遠に終わらねー」とか…

 しかし、途中まで話に乗ってしまった以上、断り難い。あー、やられた。

「そうですね。知らないですましちゃいけないし、噂ではなく、自分の目のみを信じるのが冒険者ですよね。受けさせていただきます」

 笑顔で言ったつもりだが、多分、顔は引きつってたと思う。

「えらい。さすが、私の目に狂いはなかったわ。応募する人が少なくて困ってたの。ほんと助かるわー。じゃーよろしくーねー」

 おねえさんは、満面の笑顔で、依頼書をピラピラと振りながら、早速、依頼受け入れの事務を始めた。


弁当工場

 弁当工場の朝は、始業10分前の朝礼から始まる。

「えー朝礼を始めます」

 白衣に身を包んで、禿げてんのかわからない工場長から、さらに、

「今日から仕事を一緒にする方をご紹介します。では、こちらからお願いします」

 俺は、3番目の挨拶だ。

「はい。冒険者ギルドからまいりました。今日から短い間ですが、がんばります。ご迷惑をおかけすると思いますが、温かい目で見てください。よろしくお願いします」

「ありがとうございました。皆さん仲良くしてあげてくださいね」

「あ、それと、今週のどこかで、うちの改善のためコンサルの方が視察にいらっしゃる予定です。皆さん、通常通りの仕事で構いませんので」

 深々と頭を下げ、上げた瞬間、「あれはっ」と感じた。白衣を身にまとって、顔は分からないが、先輩だ。間違いない。

 眠そうに、窓の方をみてた。「話聞けよ」と思ってしまった。


 業務が始まった。ヒジキの置いていく作業だ。

 冷えてるヒジキを「計量分配機械」通称「小分け君」に1トレイ分入れる。

 また、別の口にアルミ箔の器をこれも大量に入れ、スタンバイOKだ。

 スイッチONすると、出口から器にのったヒジキがちょうど22g出てくる塩梅だ。

 その器を、ごはんと唐揚げの乗った弁当の所定の位置に置いていく。

 ここで、新井さんのレクチャーが終わり、ふと、となりを見ると、先輩だった。

 俺も先輩も弁当の副菜、ヒジキ担当となった。

先輩は両手に2つずつ、計4つの器をつまみ、流れてくる弁当に次々と置いていく。

その技を真似てみたが、あっさりこぼしてしまい、大人しく1個ずつ運ぶことにした。


 作業中は、先輩としゃべる時間もなく、黙々とヒジキ器を弁当にひたすら置いていく。

 醤油のにおいはきつかったが、しばらくすると鼻が馬鹿になってきて、気にならなくなった。

 噂と実態は違うというが、本当だな。

 弁当そのものを作る工程が終わり、昼休みとなった。


 昼休み、飯も慌ただしく食べ終わり、一息ついた時、白衣を脱いだ先輩と再会する。

 「先輩、おひさっす。先輩もここなんですね」

「ああ、そうだ」

「先輩、ヒジキ長いんですか?」

「まーな」

「なんで22gって中途半端なんですか」

「知らねー」 愛想悪いのはいつも通りだ。

 よく聞けば、2日ほど先輩なだけだった。知らないはずだ。

「ここどうっすか?」俺は本題を切り出した。

 給料か、臭いか、長時間勤務か、どんな不満がでるんだろ。ちょっと期待した。

「気持ち悪い」

「え?」

「なんで、ひじき、器に入れんだ? 直接弁当に入れたらいいだろ。な?」

「なって言われても、どういうことっすか?」

 言い終わると同時に、昼休みの終わりのベルがなった。


 昼からは、明日の分のおかずの仕込みが始まる。

 ヒジキの工程は、新井さんが大きい釜で煮るのだ。

 材料をヒジキ、ニンジン、油揚げ、枝豆だ。

 ヒジキは前の晩から戻してあるらしい。それを丁寧に洗ってごみなどを落とす。

 で、どこかで切ってきてあるニンジンを大きな釜に入れ炒める。

 そこに、先ほどのヒジキ投入。

 炒まってきたら、出汁、醤油、味醂をいれ、最後に油揚げを炒めて完成だ。

 でも、量が半端ない。ま、弁当に入れるのだからそりゃそうなる。

 新井さんは、次の副菜の調理にこの場を離れる。

 ここから辺が俺らの仕事、完成したブツを巨大なトレイに入れ、冷やす。

時間内の作業だから、扇風機を当てつつ、均等に入れていく。

時間ギリギリまで冷やし、後は冷蔵庫へ、明日の分だ。

 ここまでやり、後片づけもしたら、だいたい17:00

 初日が終わった。ヘトヘトだ。

 途中途中で休憩が入ったが、立ち仕事で、足腰が痛む。

 俺は、伸びをしつつ、先輩を見やった。

 先輩は足に来てるのか、屈伸をしている。

 ぞろぞろと、ラインの皆さんが並んで、更衣室に向かっているのを見て、俺も先輩もそれに続いた。


 更衣室で、白衣を脱ぎ、シャワーを浴び、私服に着替え、工場脇の通用扉から出た。

 先輩は既に缶コーヒーを飲んでいる。

 俺も、自販機からエナドリを選び、先輩の横で腰を下ろした。

 エナドリをグビグビと飲み、フッとため息をついてから、おもむろに、

「そういえば先輩、気持ち悪いって、なんなんですか?」

と聞いた。

「は?」

と先輩、頭が回っていないのか、自分が言ったことを忘れているようだ。

 一口コーヒーを飲んで、

「ああ、あれか」

と思い出したようだ。

「フーっ」

と鼻息も荒く、

「だってさ、ヒジキの容器いるか。そのまま弁当に入れたらよくないか」

とまくし立てた。

「ヒジキの容器って、摘まんでた奴ですか。あれないと摘まめないじゃないですか」

「だ・か・ら、直接、弁当に機械から落とせばいいだろ。容器に受けなくてもな」

「あー、なるほど」

「だろー。無駄なんだよ容器」

 ちょっとどや顔な先輩。

「でも、ライン入れ替えるんですか。左側に弁当でしょ、ヒジキ右側じゃないですか」

「そりゃー......、そうだな。うん。入れ替えればいいんだ」

「弁当のベルコンで流れるのって、結構、位置バラバラでしたよ」

「そうだな。バラバラだな。うん。まー何とかなる」

「へーなんとかなるんすか。あと、ヒジキを落とすって言っても、機械が落とすのってどこから落ちてるんですかね」

「そりゃー見てみりゃわかるだろ」

「なるほどー。じゃーあれは、これは......」と、回らない頭で出てくる思いを次々に聞いていった。

「まだ、あんのかよ」言うと同時に、「ガシャーン」先輩が空き缶をゴミ箱にたたきつける音で「ハッ」とした。

 先輩の方を向くと、もうあんなところを歩いている。

「先輩、待ってくださいよ」俺は、立ち上がり、追いかけながら言っていた。


「あ、先輩おはよーっす」

 先輩は振り返りながら、軽く会釈を返してきただけだった。

 まだ、機嫌が悪いようだ。あの帰り、いくら話しかけても、ブツブツ言ってるだけで、無視され続けた。なんだかなー。


 しかも、先輩の行動は、朝から変だった。

 ヒジキを弁当に入れるときも、なんと今日は片手で3個もち、計6個をつまんで、サッと素早く入れ、空いた時間で、「小分け君」のヒジキが出てくるところをのぞき込んでる。

 タイマーで測っているかのように、6個の弁当が流れ、次の1個が作業スペースから出る間際、サッと頭を上げ、例の6個摘まみで、弁当に入れ、スッと「小分け君」をのぞき込んでいる。

 かと思うと、弁当の流れてくるタイミングを、指さし確認か、タクトでも振るかのように、どうやら計っている。

 極めつけは、もう少しで午前の弁当の時間が終わる頃、俺に入れるのを任せて、工場中をキョロキョロ歩いて回るという暴挙にもでた。挙句、通路の角で工場長に連れられた白衣の一団とぶつかりかけ、それを見た班長がすっ飛んできて、こっぴどく怒られていた。ざまーみろ。

 昼休みも、飯もそこそこに、ブツブツ言いながら、手をぐるぐる回し、あちこちグルグル歩き回るのには辟易した。当然、話もしていない。

 先輩の奇怪な行動は、昼からのヒジキ製造工程では鳴りを収めたが、ブツブツ言うのは健在だった。

 やっと、そんな変な一日も終わり、あー今日は先輩ほっといてさっさと帰ろうと思い、通用扉を開け、工場の外に出た瞬間。先輩に「ちょっと来い」と手を掴まれ、昨日話をした自販機のあるところに連行された。


 先輩は、俺の前に仁王立ちになり、俺に指をさしながら「昨日の質問に答えてやろう。」と自慢げに口を開いた。

「昨日の質問?」

「お前、言っただろ。これでもかって位の質問を」

「あー 容器が要らないだのって言うやつっす?」

「そうだよ。なんでも質問しろ」

「ひょっとして、朝からなんかしてたの。このためですか」

「そうだよ。ほら質問しろ」勝ち誇った顔だ。なんか悔しい。

「え。今はいいっすよ。腹減ったし」

「なんだと」鬼の形相に変わった。

「うそうそ。えーっと そうそう ラインをどうするんです?弁当とヒジキの?」

「あれはな、弁当のラインだけにして、その上に「小分け君」を設置するんだよ。だから、

入れ替えるんじゃなくて、1本で済むって寸法だ。

 そう。今のところから、「小分け君」を左に125cm、上に15cm動かせばいいんだよ。それでちょうど弁当のラインに乗る。

 だから、入れ替えるんじゃなくて1本に集約できるんだよ。

 1本になるとな、人の導線も変わるぞ。ものすごく動きやすくなる。

「小分け君」にヒジキ入れる作業も、台車で運べるようになってだな、なんと一人でもで

きるようになるんだよ」

「え。「小分け君」弁当のラインに乗せちゃうんですか。

 しかも、15cmって、ヒジキ落としたら、飛びちっちゃうんじゃないですか。」

「馬鹿か。15cmの筒かませばいいだけだろ。そんなの。」

「あー。じゃーライン1本にして、台車とおるんすか。今は、重いトレイ2人で運んでますけど」

「だから、ラインの幅が80cmだろ、その脇のスペースが13.5cmずつあると107cmだ。

 80cmの台車は難なく通るだろ」

「ひょっとして、先輩見えてます。ライン」

「イメージだけどな」

「うーん。おれはダメです。イメージできねー。

 ちょっと待っててください。書くもの取ってくるんで」

 と、俺は小走りに通用扉まで行き、ドアノブに手をかけた。「ラッキー。まだ空いてる」

 事務室まで行き、まだ、作業している社員さん達の目を盗んで、チョークをちょろまかした。

 当然、色付黄色、青、赤もだ。

 足早に、先輩のところへ行き、

「広いとこ行きましょー」

と駐車場に向かった。

 駐車場はここで働く人数分は確保してあるのだろうか。広い。外灯もある。

 まだ、何台かの車があるが、ほぼ空きの状態だ。

 俺たちは、トコトコと駐車場の奥まで歩いて行った。俺はおもむろに、端っこの方に白いチョークでガガーッと線を引いた。

「これが壁としたら、どこにラインが入るんですか」

「お前の左足の辺までロッカーがあるから、左足から107cmのところにラインが来る。」

 俺は、左足から1mくらいのところに、赤チョークを置きながら、

「ここらへんですか」と聞いた。

「違うよ。ここだ」

 先輩は、ぞんざいに靴の先で示した。

「ここが107cmですか」指示通りの場所に赤チョークで線を入れた。

「そうだ。そこから80cmのとこ、そうだな、ここがラインの幅だ」

 アスファルトを靴の先でこすった。俺は、指示どおり、赤チョークで線を入れた。

「で、これで言うと、どの辺に「小分け君」が乗るんですか」

「ああ、ここだ」

 迷いなく、手を広げながら四角を作っている。

「ここですか」と青チョークの先をアスファルトに置く。

「違う。もう、5cm右だ。」細かいと思いつつ。

「ここでいいですか」と5cmと思えるところに手を動かした。

「よし、いいぞ。そこからここまでと、そこからこっちまでが機械の大きさだ」

「で、ここに乗せるとして、何cm上げるんでしたっけ」

「15—」

 俺は、15と書き込んだ。

「なんか俺にもラインが見えてきたよーな気がしますよ」

 アスファルトに広がった赤と青の線を見つめながら、俺は呟いた。

「じゃー真っすぐ線引けよ」

「それは俺が不器用なだけです。で、先輩、どうやって上げるんですか」

「知らん。ザっと850kgだ。いざとなれば人力でもあがるだろ」

「そうですねー」乱暴だなーと思いつつ返事をした。

「で、どの位置からヒジキが落ちてくるんです?」

「ここだ。ラインの左側から32.5cmのとこだ」先輩は指さした。

「え。真ん中じゃないんですか」そう真ん中は40cmのところだ。

「馬鹿か、そこだと飯の上にかかるだろ。ヒジキでなく、そぼろならいいけどな」

「弁当の位置って固定できますっけ」

「そこは、弁当が中心に来るように「ハの字」の奴ラインに入れればいい」

「でも、来る間隔があるじゃないですか。弁当ぴったりくっつけて流すんですか」

「それも考えたが、なんかあった時、ラインから弁当が脱線するからな。弁当の間隔は30.5cmにするのがいい。「小分け君」のスピードならぴったりの位置に落ちる」

「え。俺30.5cmに並べられんすよ」

「ベルコンに線引いとけばいいんだよ」

「なるほどー。」と言いつつ、30.5と書いて、弁当の形に四角を書いた。

 あらかたラインの線を書き終わり、思いついて聞いてみた。

「先輩、ヒジキって汁気あるじゃないですか。現に小分けした器には汁残ってるし、うちの弁当の容器って仕切りがないタイプだから、ごはんとかに汁移っちゃいませんか」

「ま、一番良いのは弁当容器を仕切りある奴に変えるのがいいんだけどな。今のままの容器で言うなら、汁を出さないってことだな」

「だから、どうすんですか。そのための小分けの器でしょ」

「あー。だから、炒めた後、粉末の調味料掛けたらいいんだよ。これは仕切りある容器でも、同じだな。仕切りあってもひっくり返したら汁垂れちゃうからな」

「えー。味変わっちゃって、まずくならないですか」

「お前、どんだけヒジキ好きなんだよ?唐揚げ弁当をヒジキで選ぶのか?」

「そういうわけじゃないっすが......。 新井さんが......」

「馬鹿、それこそ新井さんの腕の見せ所だろ。粉末で同じ味出すかってな」

「なるほど。あ、あと、バットでなく、ザルで冷やすのもありですね。汁切れるから」

「おお、それいいな。採用」

 2人して笑った。採用されたので、粉・ザルと書いた。

 先輩とあーだこーだとやりながら、弁当とヒジキのラインが完成した。

「できましたねー。先輩」

と問いかけたが、先輩は無言。

「どうしたっすか。どこかへんすか」

「いや。ヒジキはこんなもんだと思う。よくできたよ。ただ、他が気になってさ」

「他って、あ、昼休み前、班長に怒られた奴ですか」

「そうだよ」

「で、唐揚げですか」

「唐揚げは、今でもラインじゃなく、人力だろ。米と同じでさ」

「あー。じゃマカロニサラダ?」

「それと、漬物もだ」

「漬物も「小分け君」でしたっけ?」

「いや、漬物は人力だが、なんか自動化できないかなっと」

「なんかあります?」

「「小分け君」がもう一台あればなー」

「じゃ、ある前提で書いちゃいますか」

「おお、やってみるかー」

「おら、ワクワクすっぞ。」

「お前は悟空か」

「先輩、おもろいですね」

「そうだな」

 我々は、駐車場いっぱい使って、実物大のラインを描き出した。

 マカロニサラダは「小分け君」使っているため、ヒジキと基本一緒。違うのは、弁当の位置だ。それは、「小分け君」をヒジキのより、3cmずらせば良いと2人で議論しながら決定した。そこには、ヒ+3と書き込んだ。

 漬物は苦労した。弁当容器の隅だ。あーだこーだ議論の末、ヒ+1-5とした。

 最後に、先輩は欲を出して、ご飯も自動化したいと言ってきた。

「自動飯盛り機ってのがあるから、できるできる」と言うので、ラインの人力の飯盛りのところに、自動飯盛り機と書いた。形は適当となった。先輩は不満気だったが実物をみてないので、やむを得ない。

 さすがの先輩も、唐揚げの自動化には手を出さなかった。理由を聞くと、できないことはないが、ここでは狭すぎるとのこと。納得だ。

 全体像が完成し、中心に立ってグルグル回りながら全体を見回した。

「あそこからご飯が容器に入れられて、次に、唐揚げ、んで、俺らのヒジキを通って......

 俺らの? もう俺らいらないじゃん。自動化したら、摘まんで入れる作業ないじゃん」

 とフッと思い付き、先輩にそれとなく聞いてきた。

「ここまで自動化したら、俺らの仕事なくなりますねー」

「別にいいだろ、時給の高い仕事行けば、適材適所だよ」

「まー、俺たちはそれでいいんですが、他のパートさんたちは?」

「ま、そうだな。ザっと8割はいらないな。要るのはおかず作る人と、唐揚げ入れる人、あとメンテくらいだろーな」

「えー。そんなに要らないんですか。仕事なくなっちゃうじゃないですか。

 うわ、パートさん達それ聞いたら、「合理化反対、機械化反対」デモ起きますよ」

「知らねーよ。だいたい、会社潰れたら元も子もないだろ」

「え、この会社苦しんですか?」

「昨日、コンサル入るって言ってただろ。苦しくないところにこねーよ」

「ああ、そんなこと言ってたわ。場長」

 俺たちは、満足と世知辛さを胸に駐車場を後にした。


冒険者パーティ「朝霧」登場

「本日は、お忙しい中、当工場までご足労いただき誠にありがとうございます」

 製造部長がそう言って、頭を下げた。一呼吸おいて、工場長も頭を下げた。

「いえいえ、こちらこそ、急な調査の申し入れを受けていただきありがとうございます」

 冒険者ギルド所属のS級冒険者パーティ「朝霧」のリーダーは頭を下げながら笑顔で返答した。

 1週間前の今日、新井食品株式会社はこの「朝霧」に個別依頼を出したのだ。

 依頼内容は3つ。1つ目は財務改善。2つ目は生産性の向上。3つ目は労働環境の見直しと言うことになっている。

 それ程大きくない食品工場の会社から言えば、要は工場のラインの改善がメインとなり、それに伴うキャッシュフローと労働者の首切りだ。

 朝霧の構成メンバーは10人。リーダーの他、税理士、社労士などの士業取得者とその道のエキスパート9人で構成されるパーティだ。

 得意分野は会社の運営に関すること等多岐にわたり、その依頼ごとに構成メンバーを選び、依頼をこなすスタイルだ。

 この依頼の外にも、4件ほど抱え、年間では大小あわせて100件はくだらない。

 支部の中でも飛ぶ鳥を落とすほどの勢いのあるパーティだ。

 今回の依頼には、リーダー以下、財務担当、製造工程担当の3人で受けることとなった。

「ご依頼を受け、すぐにでも工場に来れればよかったのですが......」

「いえいえ、そちらの準備、それから本社でのすり合わせとあったのです。今日が最速でしょう。お気になさらず」

 依頼の受理とそれに伴う契約書の作成、ギルドとの事務処理、パーティ内での打ち合わせと方向性の議論、それに併せてメンバーの人選。最速の部類だろう。

「そういっていただくと助かります」笑顔のリーダーは返した。

「先週、本社で依頼内容のすり合わせをしたところですが、ここには工場長さんがいらっしゃるので、依頼内容の確認をさせていただきますね。

 依頼内容は御社の当工場のお弁当の製造ラインの改修についてとそれに伴う資金繰り、できれば補助金の利用も検討と、改修後の職員さんへの通知、連絡方法等についてのアドバイスでよろしいですか」

「はい。問題ありません」

 工場長が申し訳なさそうにお辞儀をした。

「はい。ありがとうございます。これからの作業の確認ですが、今日、明日と工場のラインの調査というか下見をさせていただき、その後、改修について何案かを出させていただき、まず、ラインの製造の改善方法を選んでいただき、その金額の資金繰りや補助金の検討をした後、最後に職員さん皆様への通知なりのアドバイスということでよろしいですか」

「はい。それでお願いします」

 今度は、部長が言い、2人が同時に頭を下げた。

「では、早速、ラインの方を見せていただきますか。最初なので、申し訳ないのですが、案内をお願いしてもよろしいですか。その後は我々で寸法等計りながら見てまいります。

 職員さんについては大丈夫ですか。」

「はい。昨日、朝礼で視察がある旨に伝えてます」と工場長

「ありがとうございます。では大丈夫ですね。じゃー行きましょうか」

 これを合図に、全員立ち上がり、会議室を出て行った。


 工場長以下副場長、各班長を含め総勢9名が白衣に着替え、工場の視察が開始された。

 ラインは、ヒジキ、マカロニサラダ、漬物、ご飯、唐揚げの順で詰められていくが、「朝霧」要望で人手が多いご飯から回っていく予定だ。

 ご飯。職員4人がご飯を弁当容器に詰め、ベルコンに置いていく、置かれた端からゴマが振られ、カリカリ梅が中央に乗せられていくこれらは各1名だ。

 ご飯の詰め込みをしている横で、ボソリと製造工程担当がリーダーに呟いた。ただ「飯盛り、スズキ工機」とのみ周囲には聞き取れるだけだった。

 次の見学先に行く。

 メインのおかずにはこだわりがあるようで、最後に詰める方式をとっており、今はひたすら唐揚げを揚げていた。

 と言うわけで、次はヒジキとなる。

 ここは人力ではなく、半自動化されており、ヒジキの入った小さい容器を弁当に詰めていく作業のみが人力だ。汁気のあるヒジキなら、小容器にいれるのはやむを得ないのだろう。

 ここでの人数は2名と聞いているが、1名でやっていた。

 製造担当は、すかさず「1名なんですか」と工場長に聞いた。

 工場長は、「班長」と一言、班長は「え、えーっと 2名なんですが。トイレですかね」と回答していた。

 次の見学先はマカロニサラダ。

 そこで、ちょっとしたハプニングがあった。

 製造工程担当者が工場長と議論を交わしている最中、ラインの方からスーッと人が移動してくる。あわやと言う時、ヒジキ班長が、「君はここで何をしてるんですか。まだ、勤務時間ですよ」と激高し、そいつの肩を掴んで、工場の隅に連れて行った。

 工場長が「申し訳ありません。彼、タイミーさんなんで」と言い訳をしているあいだ中、まだ、ガミガミとヒジキ班長の声が響いた。

 最後に、メインおかずのところで、リーダーは工場長に向かって聞いた。

「今日は唐揚げですが、メインは他になにがあるんですか」

 すかさず、メインおかず班長が、「主に、とんかつ、ハンバーグ、白身魚のフライ、炒め物ですと、回鍋肉、肉みそ炒め、今の季節では、豚しゃぶってのもあります」

 それを受け、製造工程担当が「それらの献立はどのようにきめるのですか」とすかさず質問。

 工場長はモジモジしながら、「ええっと、月初めの班長会議で同じようなおかずが重ならないように決めてます」と答えた。

 製造工程担当は、じっと工場長に目線を合わせて「そのエビデンスえーっと、根拠はありますか」

 工場長は班長を振り返り、「どうなの?」とアイコンタクト。

 班長はしどろもどろしながら「特に」と答えるのが精いっぱいだ。

「え。データとかないのですか。ただ、重ならないだけですか?」

「えーまー」と工場長。

 すかさず、リーダーが、

「長年の経験則からの判断はデータを凌駕しますし、事実、これだけの実績を出しているのですから、何も問題ありませんよ。な」

 と製造工程担当に目配せした。

 製造工程担当は「ああ、そうです。すいません。生意気いってしまって」と、ペコリと頭を下げた。

 ただ、リーダーと製造工程担当はその直後からボソボソとやり取りをしていた。

 昼休み前に視察は終わった。

「どうもありがとうございました。皆さんの説明で工場のラインについて、詳しく知ることができました、午後からは、現場での測量、検討については我々で行いますので、皆さんは通常業務に戻られてください。もし質問が出ましたら逐次質問をしますので、その点はご了承ください。よろしくお願いします」

「朝霧の皆様はお昼は?」

「先程の会議室をお借りできればと考えております。よろしいですか」

「どうぞ、お使いください」


昼休み、会議室

「ざっと、見て回ったが、どう?」リーダーが問う。

「ごはん、メイン今日は唐揚げでしたが、これらが最後というのにはちょっと想定外でしたが、まー全体から言えば想定範囲ですね」と製造工程担当。

「なら、昨日話していたプランで問題ない?」

「移転、この場での改築・新設、この場で改修の3案で、この場での改修をメインってやつですか?」

「そうだ」

「いいんじゃないですか。概ねは。ただ、メインのおかずの自動化となると、少し狭いですね」

「じゃーどうする。案はあるのか?」

「えー、まー、ごはん・メインを最後にってこだわりがあるんなら好都合ですよ。ラインを2階建てにするんです」

「2階建て?」

「そうです。サブのヒジキ、サラダの軽いものを2階で詰めて、1階に下ろしてから、ご飯、メインを詰めてくんです」

「ほほー。いい案だな。で、いくらだ」

 財務担当がすかさず「1階だろうが2階だろうが、入れる機器は増えない。せいぜいベルコンが伸びるくらいだから、ま、昨日の概算と同じで2億って感じですかね。」と答えた。

「何人切れる?」

 それには製造工程担当が、即座に「8割、うまくいけば9割カットですね」

「じゃー、何年でペイ?」

「パートとすれば、今ここに30名ですから、9割カットで4000万、5年ですかね。」と財務担当。

「いい数字だ。着工、完成は」

 今度は製造工程担当が、「売り上げが落ちる2月をまたぐ形にするのが無難で、1~3月の3か月が最も売り上げに響かないと思います」と回答した。

「いいね。金目はどう?」

「補助金はあるのはありますが、1~3月と固定すると、難しいですね。まーここ業績は悪くないので、メインバンクは出すでしょう」

「いいね。5年でペイ。融資もOK。良い依頼だ」リーダーは満足げだった。


 午後からの3人での調査は、昼休みの検証となるもののため、既存の機械の動き・現状の導線より、高さ、調理場の広さ、全体ラインが収まるかを主眼に行われ、入れる新規機械の大きさなど、メーカーに聞くこともあったため、当初予定より早く終わった。

「こちらでも検討することもあり、少し早くなりましたが、明日再度調査を行うということでよろしくお願いします」

 と工場長達に挨拶をし、初日を終わりにした。


 次の日の早朝

「こんなに早く出ないといけないんですか」

「何を言ってる。工場が始まる前から見ないと、工場の現状が見えないだろ」

「まー、そうですけどね」

 眠い目をこすりながら、メンバーの中で一番若い製造工程担当は、工場の駐車場に車を入れる。駐車場の一番奥に車を停め、3人が車を降りた。

 3人全員がギョっとした。

 駐車場いっぱいに色とりどりの線が広がっている。

「なんだこれは?チョークか?」リーダーが呟く。

「チョークですね。」財務担当がアスファルトに指を添わしながら答える。

「単なるいたずらでしょ」と製造工程担当

「規則性はありますね」と財務担当

 リーダーは、駐車場を見渡しながら、何かを探しているようだ。

「あ、あそこがスタートのようだ」と指さした場所に足早に歩き、残り2人も跡を追った。

 白、赤、青のチョークで線や四角が書いてある。

 よく見ると、粉・ザル、30.5、15と横に書いてある。

 悪戯ではなく、何かの意図があるようだ。

 製造工程担当が、「こっちにもかいてありますよ。 えーっと「ヒ+3」ですね」

「ヒ+3?」

「あ、こっちにはヒ+1-5ですね。」と財務担当

 製造工程担当がおもむろに言った。「なんか工場みたいですねー」

 ハッとしたリーダはしばらく無言で押し黙っている。

 暫くして、「これって、工場の配置じゃないのか」とボソリと呟いた。

「あ、こっちには「自動飯盛り機」って書いてありますよ」と財務担当。

 リーダーはそこにも足早に行き、ぐるりと全体を見回し言った。「これは工場だ。しかも改善案じゃないのか?」

「まさか!そんな訳ないじゃないですか。だって、工場のラインは2ラインですよ」

「だから、改善案だよ。ラインが1つになってる。ここのご飯は人力だろ。ちょーどそこに自動飯盛り機と書いてある」

 そこに車が入ってこようとしていた。リーダーは、「写真撮っといてくれ」と言い残し、車が駐車場に入るのを停めるべく、その車に向かっていった。

 財務担当がスマホで写真を撮り始めている横で、製造工程担当は、ブツブツ言いながら、地面に書かれている線について考え込んでいるようだった。


 車は工場長だった。

 リーダーは、工場長に職員が多く車での間、駐車場を開けてもらうよう交渉し、ラインの最初と思われる所に来ていた。

「白が壁、ラインが赤、青はなんだろうな?」

 リーダーがそう言う横では、その横で財務担当は無言で、写真をいろんな角度、ある時はペットボトルを横にして、撮ってる。

「大きさから言って、自動計量分配機械じゃーないですかね」と製造工程担当。

「青の中の白い四角は?」

「弁当容器かと」

「真ん中じゃないな。ズレてる」

「うーん」と製造工程担当は髪を搔きむしった。

「あ、副菜って中心より上にあるじゃないですか。それでは」

「なるほど」

「大きさ的にはどうだ」

「実物大ですね。間違いない」

「書かれている数値は?」

「うーん。ちょっとわからないですね。他を見ればわかるかも」

 とリーダーと製造工程担当は次の四角に移動した。


「ここは2番目ですかね」白の線、赤い線が続いており、2人が目を落としているところには青い四角がかいてある。

「ここにはヒ+3か。この工場のラインの順はどうだっけ?」リーダーは問うた。

「えー」と、製造工程担当は、昨日の工場長の説明を聞いて書いたメモ帖を出しながら、答えた。

「ラインの最初から言うと、ヒジキ、マカロニサラダ、漬物の順です。その後にご飯、メインですね」

「じゃー、ここは2番目のマカロニサラダか。となると、この「ヒ」はヒジキってことか?」

「なるほど、ヒジキの自動計量分配機より3cmどっちかによるってことですかね」

 と言いつつ、製造工程担当は、今度は鞄を開き、工場長の説明時に配られた弁当のカタログを探し出し、そのチラシの弁当の中身をじっと見ながら、

「チラシからだから、正確には言えませんが、ヒジキより右に3cm位端に寄ってますね。マカロニの場所は」と答えた。

「じゃ、このヒ+3ってのは、マカロニサラダを落とす位置ってことか」

「そうなると思います」

「じゃー」とリーダーは口を右手で覆い、人差し指だけトントンと頬を叩き、記憶を探るように、「次は漬物で、ヒ+1-5は、ヒジキより右に1、下に5cmってことか」と言った。

「そうですね、カタログでは、ご飯の部分の上にある漬物の位置が底に当たると思います」

 カタログを見ながら答えた。

「30.5と15は?」

「弁当容器の話ではないような。うーん。わからないですね」

「そうか」とリーダーは言ったきり黙ってしまった。

「写真撮り終えました」と財務担当。「これなんなんですか」と付け加えた。

 リーダーが冷静に答えた。

「どうやらラインの改善方法を実物大で書いてあるようなんだ」

「へーそうなんですか。でも、お前の2階建ての方法の方がいいんだろ」

 財務担当の問いかけに「ハッ」として、顔を上げながら、製造工程担当は、「当たり前だろ。」と憮然としながら答えた。

「じゃ、問題ないでしょ無視しても。容量無駄にしたよ」

とスマホの写真を消そうとした瞬間、

「写真は消すな」

とリーダーは財務担当の腕を掴んだ。

「消すな」

 今度は冷静にゆっくり言い、腕を放しつつ、

「今日の調査は、2階建ての最終チェックと、このチョークの検証をする」と言った。

「え、時間の無駄ですよ」と財務担当。

「俺の案と比べるってことですか」と製造工程担当。

 それに答えて「そんなに時間がかかるのか?比べる?そんなことないよ。あの謎の数値、わからないままだといやだろ。道楽だよ道楽」と製造工程担当に向きながら笑顔で言った。

「時間はそんなにかからないとは思いますが、道楽ですか。リーダーも酔狂ですね」ヤレヤレと言う顔で両手を肩まで上げて答えた。

「じゃー 今日もがんばろう」とリーダーは一言いい、それを合図に3人は工場の入口に向かっていった。


会議室

「今日の調査はヒジキから行い、2階にする上で必要な事項について、高さ、幅、長さを見ていく。

 また、チョーク案の30.5と15という数字の謎を解いていく。とします。皆いいかな」

「道楽っていうか趣味ですよね」

「私はどうしましょう?」と財務担当。

「一緒に回って、写真とるとかアシスタントをしてもらえるかな?」

「OKです」

「じゃ、俺は謎解きで」不満げな製造工程担当。

「当然、2階建て用の試算もよろしく」笑顔で返すリーダー。

 打ち合わせを終え、工場内へ向かった。


 工場内(ヒジキ)

「えーと、2階建てにしても高さに問題はなさそうです」

「調理したヒジキをどうやって上に運ぶ?人力か?」

「機械も一新するので、どうとでもなりますよ。1階で入れて自動で上に上げるとか、2階に人力の方がスロープつけたり、人上がるなら強度も必要になるし、めんどいですよ。」

「なるほど。じゃー副菜の搬入口は調理場に近いところか、冷蔵庫のそばってことでいいのか」

「ここでは、副菜前日に作ってから、冷やした後に、次の日詰めるって工程ですので、冷蔵庫。まー調理場と冷蔵庫そんなに離れてないんでそこらならOKでしょう。

 問題と言えば、機械の重さですかね。重さによって柱の太さが変わってきますよ」

「その機械類はめぼしあるのか」

「今のやつの最新式を導入でいいじゃないですか。重いが早いって感じです。同系統だと社員教育もいらなくなるでしょう」

「了解。2階部分の他の副菜も同じでいいのか」

「漬物は量も少ないし、軽量のやつが確かあったはずなんで、それで」

「そうか。じゃー同系統の機械で揃えると。なにかあるか」

「同系統って、そんな詰める機械・メーカーで作業手順変わるんですか。似たようなもんなら、一番安いやつでいいじゃないです?メンテあるから同じ会社のがいいのはわかりますけど」

と財務担当。

「そこは、算盤はじいてからでいいだろ。たちまち、ここにわかりやすい形ということでな」

「要検討と」と財務担当らしく小まめにメモ書きしていた。

「で、趣味の話で悪いんだが。わかったか」

「30.5はまだですが、15は多分ですが、目星はつきましたよ」

「さすがだな。なんだ」

「ここみてくださいよ。既存の計量仕分け機の高さ。弁当のベルコンとヒジキのベルコン同じ高さでしょ」

「そうだな」

「で、弁当のベルコンと同じ高さにして、弁当の容器にヒジキを落とそうとすると高さが足らないんですよ。この機種は小容器に入れたまま排出口から出てくるじゃないですか。

 だから、そんなにヒジキを落とす高さがないんですよ。わかります?」

「つまり、1レーンにするには、この機械に下駄履かせないとってことか」

「ご名答。多分そうです。

 事実、マカロニにも、漬物にも30.5と15に当たるものはなかったですしね」

「あー、なるほど、確かにヒ+3とヒ+1-5だけだったな」

「あとは30.5だけですね。なんなんですかね」

 と、2人で悩んでるのを尻目に、しゃがみこんで機械を見ている財務担当が

「ヒジキって1秒ごとに落ちてくるんだなー。おもろー」

と呟いた。

 ハッとして、顔を見合わす2人、そして同時に、

「タイミングだ」と叫んだ。

「おい、1秒間にベルコン何センチ動く」と興奮するリーダー。

「ちょっと待ってくださいよ。まず、ヒジキが落ちる時間見ないと」あせる製造工程担当。

 ポカンっとしてる財務担当。

「落ちる間隔は正確には1.2秒。その間に動くベルコンの距離は30~31cm。その間って感じの30.5cm。絶妙ですね」

 さっきまで憮然としていた製造工程担当は興奮気味に言った。

 メモを見ながら財務担当は「じゃ、「粉・ザル」ってのは?」と聞いた。

「見てみろ」とリーダー。

「汁だよ。汁。醤油とか味醂とかの調味料を粉末にして、できたものをザルで冷やして、汁気を取るんだよ」弁当に指をさしながら答える製造工程担当。

「なんで?」と返す。

「あー、もう」とイライラしながら「汁気があったら、小容器内とご飯とかにヒジキの汁付くだろ」と説明。

「あーだからかー」うんうんと財務担当頷いている。納得したようだ。

「休憩にしよう」リーダーは言った。


休憩室

「チョーク案はかなりつくりこんでいるな」

「そうですね」

 製造工程担当は眉間にしわを寄せ、口が重そうだ。

 リーダーは静かに、

「設置に際しては、もう少し微調整はいるにしてもだ。ヒジキ、マカロニ、漬物と30.5cmの間隔で、この機械を書いてある通りに調整すれば、即自動化できるってことか」

「いや、でも、まだ、メインがないですよ。そーメインの自動化はできてないでしょ」

 と、製造工程担当。

「そうだな。じゃ質問を代えよう。2階案はいくらだっけ?」

「......2億」

「では、チョーク案は?」

「機械は、自動計量仕分け機1台、飯盛り機、胡麻振り機の3台として1800、いや1500万か、施工費等いれても2000行くか行かないか。です」

「次は、施工期間だが?」

「あー。俺のは3か月、チョークのは1週間あればできるんじゃないですか」

「ありがとう。人員削減は?」

「俺のが9割、チョークはメインの自動化がない分8割です」

「で。どうなんだ」

「フーっ」と息を吐いて落ち着きを取り戻しながら、

「チョークは良い案です」と静かに答えた。


「あの2人がヒジキ担当か」

「ヒジキの班長さんは関係ないんですか?」

「班長がチョーク案作ってたら言うだろ。それに......」

「それになんですか」

「......作れるようにはな......。」

「ああ、確かに」

 リーダーと財務担当はそう言いながら、2人を見ていた。

「昨日、帰るときはチョークなかったから、昨日の晩ですよねー。」

「そうだな」

「ちょっと、聞いてきますよ」と離れていく。

「おい」

「わかってますよ。探りですよ。探り」と、飄々と返事をしながら、離れていった。

 機械の設定がヒジキから始まり、ヒ+3とかとヒジキ中心に書かれていることから、まずは、ヒジキ担当だろうと当たりを付け、見に来たのだった。

「ま。外れていても関係者だろうな」と呟いた。

 フッとため息をつき、「ちょっと、きつい言い方だったかな」とポツリ。

 製造工程担当は、まだ、休憩室にいる。

 あの後、「お前は休んでいろ」と置いてきたのだ。

「とは言え、そろそろ帰る準備をしないとな」と独り言を言い、休憩室に向かった。


 更衣室で着替えを済ませ、待機場所としてくれた会議室に入ると財務担当がいた。

「警備員に聞いたら、昨日の夜遅くまで2人いたそうですよ。やはり、ヒジキ担当の2人だそうです。

 で、一人はタイミー、もう一人は我々と同じ冒険者だそうですって。ただしD級ですがね」

「ほほー。お手柄じゃん」と製造工程担当。

「で、どうします」

「仕事中に呼び出すわけにもいくまい。終わるまで待つさ」

「了解です。じゃー俺は3つの案のそれぞれの事業費の試算をしてますね」

「あー、よろしく頼む」

「俺は?」

「財務担当と一緒に試算してくれ、新工場建設もないわけじゃないからな。」

「わかりました」と返事をしたが、やはり声に張りはなかった。


「ちょっと、君」

 工場の通用扉を出たところで、リーダーは声を掛けた。

「俺っすか?」

「そうだ。君、冒険者なんだって?」

「ええ。D級です」

「おっと、自己紹介がまだだったね。私は「朝霧」ってパーティーでリーダーを務めさせてもらっている者なんだ。」次に「君に」を言いかけた時、声が被った。

「えー。「朝霧」ってS級のですか。すげー。普段、ギルド行っても居ないじゃないですか。

 初めてみた。あ、すいません。「お会いできた。」です。

 えー。S級ってどんな仕事するんですか。

 あ、おととい、場長がコンサルがなんとか言ってたな。コンサルっすか?

 すげー。え、ここ危ないんですか?」と最後だけ、小声になり、マシンガントークは終わった。

「うん。察しのとおりコンサルできたんだけど、ここは危なくないよ。で、君に聞きたいことがあるんだけど」

「おお、俺なんかでよければ、なんでも聞いてください」

「ありがとう。駐車場のチョークのことなんだけどね」

 彼の眼は見開かれ、「あ」と漏らした。

「すいません。消し忘れた。ああ、すいません。すぐ消してきます」

 と、振り返り、飛び出していきそうな勢いだ。

「ちょっと、待って。ちょっと、待つんだ」

 リーダーはとっさに腕を掴んでいた。

「怒っているわけでも、注意しに来たんでもない。落ち着いて」

「え。違うんですか。」彼は振り返りながら答えた。

「そうだよ。じゃあれは君が書いたんだ」

「ええ。書いたのは俺なんですが、考えたのは先輩です。

 先輩、すごいんですよ。「そら」で30.5cmだの15cmだの言いだしちゃうんですから、俺ついていけなくて、つい、チョークちょろまかして、書いちゃったんです。つい面白くなって、駐車場いっぱいに書いちゃったんですが、あー。消すのわすれたー」

「そうかー。書いちゃったのか。書いちゃうよなー」

「あ、リーダーさんもわかります。書いちゃいますよねー」

「で、その先輩さんはどこ?」

「えーっと」と辺りをキョロキョロして、15mほど先の男性を指さしながら、

「せんぱーい。S級のリーダーさんが聞きたいことあるそーですよー」と大声で叫んでいた。

 リーダーは、彼に「ありがとう」と言い、小走りにその「先輩」に近づいて行った。

「君が先輩かい。私は「朝霧」というパーティのリーダーをやらしてもらっている者だ」

 言いながら、右手をさし出した。

 しかし、先輩は軽く会釈で返した。

 出した右手をスーッと引っ込めながら、

「君が、駐車場でチョークの線を考えた人でいいのかな」

「ああ、あれか。俺たちが書いた線だけど、それがなにか」

「よくよく、見せてもらった。素晴らしいとしか言いようがない。

 あの線一つで、この工場のラインの改善案を作るとは、君は才能の塊だ」

「どうも」

「で、うちのパーティに入らないか。君の才能をうちで発揮して欲しい」

「あいつは?」と顎でしゃくった。

 少し振り返り、彼のことを言っていることを理解し、続けた。

「欲しいのは君だ」

 先輩の目が伏し目がちになりながら、

「荷が重いな」ボソっと呟いた。

 リーダーは次の言葉を待っているようだったが、先輩はもう用はないとばかりに振り返り歩き始めようとしていた。

「残念だ。

 ああー。君の案買い取らせくれないか」

「お好きに」とかすかに聞こえた。

 ジッと先輩の背中を見つめるリーダーの横をD級の彼が走り抜けていった。


「先輩。」

 俺は、呆然と立ち尽くす朝霧のリーダーの脇をすり抜け、先輩に追いつくと同時に声を掛けた。

「あの人、S級の「朝霧」てパーティのリーダーっすよ。ひょっとして、勧誘受けてたりして」

「ああ」

「まじですか。で、入るんですか」

「いや、断ったよ」

「まじでー!ま、先輩がいいなら良いんすけどね。......で、先輩。次、なにやりますか?」と、聞きながら、先輩の方に向くと、

 夕日に照らされた先輩の横顔はかすかに笑っていた。

1話完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。