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不気味な転生  作者: ハイイ


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アモンドの手が千里の肩に置かれた。


「泣くのは終わりだ。立て」

低い声。だがいつもの刺のある調子に戻っている。


千里は動かない。


地面を見つめたまま、何度も現実を確かめるように。


「浮鉄……旅牙……」


声が次第に弱くなる。


「……嘘だろ」


首を振る。

「おかしい」


「……あそこまで強いなんて、思ってなかった」


息をひとつ落とす。


「人間の動きじゃない」


アモンドは唇を噛み、わずかな焦りが目に揺れる。

「私だって不甘だよ……でも、もう起きたことは仕方ない。さっさと行動しなきゃ!」


千里は深く息を吸い、かすれた声で言う。

「……十秒くれ」


アモンドは何も答えない。


七秒で、アモンドは背を向ける。


十秒。千里は立ち上がる。


彼は軍刀を拾い上げる。刃先には、暗く乾きかけた血が残っていた。軽く二度振り、無造作に鞘へ戻す。


千里は一歩踏み出す。だが、視界の端に入った光景に息を呑んだ。

――雇い主が、旅牙の遺体の傍らにしゃがみ込み、慣れた手つきで何かをしている。


刃が、迷いなく頸の関節へと入る。


「コキッ。」


骨が外れる音。


「な……何をしてるんだ……!」

千里は喉を詰まらせ、思わず叫んだ。怒りと、信じがたいという感情が声に滲む。


アモンドは即座に振り向き、両手を盾のように掲げて千里の視界を遮った。


「落ち着け、海辺千里」

その声は厳しい。

「旅牙は……まだ転生の可能性がある。頭は、記憶と“形”が最も残る部分なんだ」


千里の瞳が揺れ、体が硬直する。

理解したくない。だが理解してしまう。


これは冒涜ではない。

この世界のやり方だ。


歪んだ弔いだ。


「……頭おかしいだろ」

かすれた声で吐き出した。


言葉が終わるや否や、千里は羽明へ歩み寄り、その体を抱え上げた。動作は簡潔で、足取りも乱れない。まるでどんな重みも意に介していないかのように。


羽明は息を荒げ、顔色は白い。左目からは血が止まらない。


「……すい……ません……」


「黙れ」

千里は短く言い、歩みは一切乱れない。

「この言葉、もう聞き飽きたよ」


だが荷台に足をかけた瞬間、体勢を崩した。

そのまま後ろへ倒れかける。


「ちょっと、余計なことしないで!」


アモンドが横から腕を掴み、強引に引き戻す。声には苛立ちが混じっていた。

同時に羽明へ視線を投げ、眉を深く寄せる。


「早く、横にさせて」


千里は歯を食いしばり、体勢を立て直すと、羽明を荷台に寝かせた。そのまま適当な場所に腰を下ろし、黙り込む。


アモンドはしゃがみ込み、荷の中から取り出した応急用具を手に取る。


羽明の上着を切り裂き、傷口を処理し始めた。血を拭い取り、素早く薬を振りかけ、包帯を巻いていく。


千里は荷台の縁に座り、胸元から血がにじんで衣服を濡らしていた。アモンドは身を乗り出し、手際よく処置を終える。


「平気な顔して歩くから、本当に無事かと思ったわ」

低く吐き捨てるような声。不満がはっきり滲んでいる。


「そんなに重症なのか……俺、陶器じゃないんだし」


アモンドは顔を上げ、鋭い視線で彼を睨みつける。


「動くな! 本当に、もう動くな!」


言い終えると、彼女は荷台から飛び降り、足早に視界の外へ消えた。


浮鉄と旅牙の遺体は、彼らによって運ばれた。埋葬はされず、少し離れた場所に投げ置かれた。


沈黙の中、千里は理解する――ここで手を止めて弔う余裕はない。もし襲撃が再び来れば、すべてはそこで終わる。


馬が動かされ、土埃が舞う。車輪は再び回り出す。乱れた砕石と血の跡を越えて進む。


千里は目を横に向け、遠くをぼんやりと見た。あの遺体たちが告げるように、この道は一歩ごとに避けられぬ代償で満ちていた。


半日をかけて、ついに到着した。


——物器要塞。


要塞の周囲の山体は切り開かれていた。


自然に崩れたものではない。

整然と、暴力的に、長年かけて行われてきた「採掘」の痕だ。


山肌には無数の昇降装置や鉄橋、搬送用の軌道が張り巡らされ、薄い霧の中にぼんやりと浮かび上がっている。遠くからは、鈍い機械音が断続的に響いていた。


千里は体をやや横にし、胸の包帯にはうっすらと血が滲んでいる。呼吸は荒い。


「……やっと着いた」


入口には鉄甲の守衛が二人。槍を肩に預け、三台の荷車と隊列の全員を静かに見定めていた。


隊列は呼び止められた。


一人の検査官が歩み寄る。声は平坦だった。


「貨物、数量、出所」


雇い主はやや声をこわばらせながら、それを報告する。


検査官は頷き、手で合図した。


「開けろ」


箱が一つずつ開けられていく。


検査官は中身を確認し、照合し、頷く。


「問題ない」


一拍置き、視線が隊の人間へと移る。


「人員……損耗。二名、戦死」


問いはない。哀悼もない。

ただペンを走らせ、記録板に一本の線を引く。


まるで、一つの名前を世界から消すかのように。


隊列は通過を許された。


彼らが門をくぐると、すぐに「見られた」。

一人や二人ではない、たくさんの視線だ。


高所の鉄柵の縁、陰に立つ人影。道を歩く者が足を止める。荷役の者ですら、顔を上げた。


すべての視線が、一瞬だけ彼らに止まる。


そしてゆっくりと逸れた。


千里は低く呟く。

「……ここの人、みんな目つきがあんまり良くないな」


アモンドはすでに準備していたフードを被り、嗤った。

「リボルバーのおかげで、ここ最近出入りする有名人が多いのよ――例えば私とかね」


フードをさらに下げ、声を潜める。

「しかも私のファン層、ちょっと複雑で、崇拝する人もいれば、殺そうとする人もいるし、どうやって私がこんなに優秀なのか解剖して研究したい人までいるの」


周囲の視線がゆっくり逸れていくのを、彼女はチラリと確認。


「三番目のタイプが、一番嫌い」


目を細め、千里を睨む。


「だから、ここで私の本名なんて呼ぶんじゃないわ。」


千里は彼女を上下から眺め、フードに視線を留める。


「その格好、まるで借金取りから逃げてるみたいだな」


少し間を置き、頷くように考える。


「確かに、バレたら危ない」


アモンドの目尻がぴくりと動く。手を上げ、二度拳を虚しく振る。


「もう一言でも余計なこと言ったら、私の拳法の精妙さを思い知らせてやる」


雇主が一歩前に出て、金の薄い紙片を差し出す。実物とは思えないほど薄い。


アモンドの目が光り、手がすっと伸びる。自分の分を取り出す。


アモンドが指でつまむ。


眉がピクリと上がる。


下を向き、何度も数え直す。


そして顔を上げる。


笑う。

――あまりよろしくない笑み。


「……少なくない?」


雇主は無表情。


「ない」


アモンドは少し首を傾げ、目には戸惑いが浮かんでいた。


「確か前払い六百、到着時一千二、襲撃補償もあるはず。ほぼ全滅しかけたんだから、美味しい補償でしょ?」


雇主、ゆっくり視線を上げる。


「お前は『薬品』をこっそり矢に使った」平静に。「少量でも消耗だ」


アモンド、瞬時にブチギレ。

「それは戦術利用!盗んだわけじゃない!」


雇主は冷たく一瞥。

「荷物は特殊、量に関わらず問題だ」


さらに低く、続ける。

「そして、見ていないと思うな」


視線がアモンドの腰に向かう。

「死人から何か取ったな」


空気が止まる。


千里がゆっくりとアモンドを見つめる。


アモンド、表情固まる。


報酬をしまい、咳払い。

「えっと……リソース回収は、この世界の優良な伝統なの」


目線が一瞬さまよう。


「それに、彼らはもう……遺産を私が預かるのも、ある意味で延長?」


千里、無言。


アモンド、慌てて弁明。


「違うっ!取らなかったら他の奴が持ってくんだって!それなら私が持つ方がまだいいでしょ?それに無差別に取ったわけじゃない、ちゃんと選んで――」


言いかけて止まる。言えば言うほど自白に聞こえる。彼女は手を振る。


「もう!重要じゃない!」


振り返り、声の調子を切り替える。


「今、一番大事なのは?」


荷台を指す。


「……医療館はどこ?」

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