第八章 第二十八話 逆包囲の第一手――契約は刃よりも静かに
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商工会の包囲網は、確かに効いていた。
市場では価格が揺れ、
商工会に属さぬ店には嫌がらせが続き、
王城では「親衛兵団解体請願」が静かに回覧されている。
だが――
ネコルトは、焦らなかった。
***
親衛兵団詰所・作戦室。
「まず、守る」
ネコルトは短く言った。
机の上には、王都全域の地図。
赤い印が、嫌がらせの発生地点。
青い線が、親衛兵団の巡回ルートだった。
「巡回頻度を上げる」
「夜間も含めて、三交代制」
拳闘士の一人が驚く。
「そこまでやるんですか?」
「やります」
ネコルトは即答した。
「治安を守るのが、兵団の存在理由ですから」
ラグナが口を挟む。
「……結果的に、商工会の“主張”を潰すことになるな」
「ええ」
「治安が悪化していない以上、解体理由は崩れます」
***
次に、ネコルトは書類を一束、机に置いた。
「――これは?」
「被害報告書です」
ミーニャが答える。
「鍛冶工房、雑貨店、宿屋……商工会非加盟店ばかり」
ネコルトは頷いた。
「重要なのは、“誰がやったか”ではありません」
拳闘士たちが首を傾げる。
「“いつ、どこで、何が起きたか”」
「それだけで十分です」
***
同じ頃。
商工会本部では、不穏な噂が流れ始めていた。
「……最近、親衛兵団が巡回してる場所、商工会の倉庫ばかりじゃないか?」
「いや、正確には“その周辺”だ」
「偶然だろ」
「……本当に?」
そして、ある日。
冒険者ギルド残党の一人が、現行犯で拘束された。
「器物破損、脅迫、恐喝未遂」
「証人は三名。被害届も揃っています」
親衛兵団の名で、正式に王都警備隊へ引き渡される。
――合法だ。
完璧に。
***
次の一手は、市場だった。
ネコルトは、商工会に属さない職人と商人を、個別に呼び出す。
「契約です」
彼はそう言って、紙を差し出した。
内容は単純だった。
・一定期間、親衛兵団が巡回と護衛を行う
・市場価格の変動に対する最低保証
・仕入れ資金の短期融資
対価は――
商工会に属さないこと。
「……そんなこと、できるんですか?」
老商人が震える声で聞く。
「できます」
ネコルトは静かに答えた。
「私が“金融商”ですから」
商人たちは、ゆっくりと頷いた。
***
数日後。
王都の市場で、奇妙な現象が起き始める。
商工会加盟店の品が、じわじわと売れなくなった。
価格は高く、品質は同じ。
だが――
「こっちの店、最近安全なんだよ」
「夜も見回りが来るしな」
人は、安心に金を払う。
商工会は気づき始める。
「……流れが、変わっている」
***
最後に、ネコルトは王城へ向かった。
提出したのは、一枚の報告書。
『親衛兵団による治安維持活動実績』
・犯罪発生率の低下
・被害額の減少
・巡回区域の拡大
そして、最後の一文。
「解体請願の根拠とされた“治安悪化”は、現時点で確認されていない」
王女は、その文書を静かに読み終えた。
「……見事ね」
小さく微笑む。
「まだ、第一手です」
ネコルトは頭を下げた。
「ですが――」
***
同じ頃、商工会本部。
「おかしい……」
「合法的に締め上げているはずなのに……」
誰かが、呟いた。
「……逆に、包囲されていないか?」
その言葉に、部屋が静まり返る。
ネコルトの反撃は、
剣でも魔法でもない。
契約と記録と、数字。
静かで、逃げ場のない包囲が――
今、始まったばかりだった。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




