第八章 第二十七話 静かな包囲、合法という名の刃
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親衛兵団が発足したという事実は、王都の空気を確実に変えた。
だがそれは、歓声ではなく――
警戒として、だ。
***
商工会本部。
重厚な机を囲み、数名の大商人たちが顔を揃えていた。
かつて冒険者ギルドを裏から支え、王国の流通を牛耳ってきた者たちだ。
「……親衛兵団、だと?」
低く唸る声。
発言したのは、商工会の重鎮、ブラカス派の商人だった。
「王女が勝手に兵を持つなど、前例がない」
「しかも、師団長が――あの商人だ」
別の男が舌打ちする。
「ネコルト。魔王領で暴れ回り、商工会に属さぬ職人や商店を潤わせている張本人だ」
室内に、苛立ちが満ちる。
「放置すれば、市場は完全に持っていかれる」
「冒険者ギルド残党も、もう我々の言うことを聞かなくなり始めている」
ブラカス派の男が、静かに言った。
「ならば――正面から叩くな」
全員の視線が集まる。
「合法的に、締め上げろ」
***
数日後。
王都の掲示板に、ひとつの文書が張り出された。
『親衛兵団 解体請願書』
名義は、商工会所属の複数商人。
理由は整っていた。
・正規軍制に基づかない武装集団
・賞金首および元犯罪者を含む構成
・治安悪化の懸念
・財政負担の不透明さ
どれも、もっともらしい。
街の空気が、ざわつき始める。
***
一方その頃。
王都郊外の鍛冶工房では、別の“圧力”が始まっていた。
「注文を、打ち切る?」
若い鍛冶師が、信じられないという顔で問い返す。
「商工会に属さないなら、仕方ない」
言い放ったのは、冒険者ギルド残党の斡旋役だった。
「市場価格を壊されちゃ困るんでね」
その夜。
工房の壁に、落書きがされた。
倉庫の扉が壊され、材料が盗まれる。
――警告だ。
同じことが、各地で起き始めていた。
***
親衛兵団詰所。
「巡回の回数を増やします」
ネコルトは即断した。
ラグナが腕を組む。
「露骨だな。治安悪化を“証拠”にする気か」
「ええ」
「解体請願を正当化するための、下準備です」
ミーニャが地図に印をつけていく。
「嫌がらせの発生地点、ほぼ一致してる」
「冒険者ギルド残党が仲介役ね」
クリフが歯を鳴らす。
「正面から来いってんだ……」
「それはしないでしょう」
ネコルトは静かに言った。
「彼らは“殴られた”記録が欲しいんです」
拳闘士たちが頷く。
「だから――殴らせません」
「巡回で抑え、証拠を集める」
***
王城では、別の火種がくすぶっていた。
国王の執務室。
「王女が、勝手に兵を持ったと聞く」
国王は不機嫌そうに言った。
「陛下の許可は得ています」
皇太子は即座に答える。
「……ですよね?」
国王は一瞬、言葉に詰まった。
「大臣はどう思っている」
「第二王子殿下は?」
皇太子は、視線を逸らす。
「……あまり、良くは」
その頃、別室では。
「王女殿下は、邪魔だ」
大臣が言い切った。
「第三勢力など、認めれば国が割れる」
第二王子は、拳を握る。
「姉上は……俺を信用していない」
「当然です」
大臣は微笑んだ。
「だからこそ、こちらも動く」
王国は、静かに――
だが確実に、二つに割れ始めていた。
***
親衛兵団詰所の屋上。
ネコルトは、王都を見下ろしていた。
(……仕掛けてきたな)
合法。
正論。
民意。
すべてが、刃になる。
だが――
「来るなら、受けて立ちます」
彼は、小さく呟いた。
商工会の包囲網は、確かに狭まっている。
しかし同時に、
彼らは自分たちの首を、少しずつ絞め始めていることに――
まだ、気づいていなかった。
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そちらもよろしかったらご一読ください。




