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技術系研究員 由比川のどかの日常  作者: 錬金術師まさ
コロンビヤード砲外伝
23/36

第10話.そして、再び宇宙(そら)へ


 帰還に不手際があったものの、レーダーのデータ確認と かなたから持ち帰られたフライトレコーダによって、私たちの挑戦は成功を認められた。

 これにより、ロケットによる大気圏突破が人類の新たな1ページとして加えられた。

 この顛末はニコラ・テスラによって映像化、ニパニパ動画にアップされると同時に、再生回数1000万を突破し、今なお増加中とのことだ。


 さお祭り騒ぎが終わったあと、アカ・アオコンビから成層圏での出来事が告げられました。

 何かあったことは薄々感づいてはいたのですが、事実は予想の斜め向こうをいっていたようです。

 信じ難い話でしたが、戻ってきた『かなた』の様子を見て納得しました。

 明らかにアカ・アオコンビに肩を並べるAIの進歩と、家事の斬年ぶりで信じる気になりました。


 何でパスタを茹でた筈なのにラーメンになっているんです?

 塩の代わりに重曹なんて、どこのギャグアニメですか。

 この辺りの家事の残念さは、パー子に間違いありません。


「...そうですか、パー子ですね。本人はどこに行ったんです。キリキリ出てきたらどうなんですか?」


 とっちめる方法を考えながら本人の所在を確認する。


「それがパーねえ。そのまま帰っちゃった」

「帰った?」


 盛り上がった心が急にしぼんで行きます。


「かなり残念がってたけど、自分が下手に現れると迷惑かかるかもしれないって言って」

「そう....」


 なんですか。

 わざわざ出てきたなら、少しぐらい顔見せてもバチは当たらないと思いますよ。


「のどか様、パー子姉さんを責めないでください。今回は諦めて欲しいとお願いしたのは私なんです。私が....」

「わかってるから大丈夫ですよ。あの時、パー子に顔を出されたらちょっと混乱したでしょうね」


 肩をすぼめてこの話は終了にします。

 とりあえずは、誰かさんの尻拭いをしないと。


「さてと、ではデバック大会といきますか...」


 超文明の落し子たる『イースの大いなる種族』の尖兵と新鋭ロボット学者の対決。

 ここだけ抜き取るとすごく厨二でかっこいいけど、やることは かなたちゃんの家事データの修正です。

 おぼえてらっしゃいよ。

 ため息をひとつついて、作業を開始した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「私、ヴェルナー様にお使えしようかと思うんです」


 家事に関する残念さがなくなって、我が家でお迎えと思っていた矢先、かなたから、そんな相談を受けた。


「どうしてですか?我が家に何か問題でも」


 内心の動揺を抑えて、つとめて冷静に聞き返す。

 口元が少し引きつってたかもしれない。


「いえ決してそんなことはないんです。ねーさん達は優しいし、のどか様も素敵な方です」


 なんとなく慰められた感じがあります。

 気を使わせてごめんね。


「ここは暖かくて楽しいところです。でも、空から戻ってきて心にぽっかり穴があいたように感じるのです。もう一度、宇宙(そら)に上がりたいのです」


 こちらに向ける真摯な目を見てわかりました。

 はるかちゃんは、初めから宇宙パイロットとして生まれています。 

 しかし...でもぉ...打算と愛情と欲望とよく分からないものの合間で揺れ動く私。

 額をすごい勢いで汗が流れていくのがわかります。


「...確かにあいつにもしっかりものの相棒が一人はついていないと、野垂れ死するタイプですからね。残念ですが嫁に出すことにしましょう」


 結局本人の意向を尊重します。

 可愛い子には旅をさせろと言いますし....


「まぁ、あいつに愛想をつかしたらいつでも戻ってきてOKですよ」


 ドアの向こうでガサゴソいっているのに気づいて、こっそり近づきいきなり開けるとアカ・アオコンビが転げ出てきた。

 バツが悪そうにしている二人に声をかける。


「じゃあ、送別会の準備をお願いします」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 わが社のロケット打ち上げプロジェクトも終了し、ヴェルナー帰国の日。

 最近我が家に居た眼鏡っ娘を紹介する。


「紹介するわ。この娘は『かなた』ちゃん。今日から貴方の相棒よ」

「ど、どんな事があっても頑張りますので、どうか連れて行ってください」


 深く深くお辞儀をするかなたとちょっと涙目の私をヴェルナーが交互に見る。


「あなたが良く手放す気になったね」

「私だって、あなたなんかに私の可愛い嫁を渡したくなんかないわよ。でも本人の意思を尊重してこうなったの」


 ふーんとか言って、ヴェルナーは かなたちゃんを見つめます。


「ま、いいか。今度は月に行くロケットを打ち上げようと思っているんだ。パイロットの経験者がいたほうが心強いわ。宜しくね。かなた」

「お願いします。マイマスター」


 花が綻ぶような笑顔を浮かべる かなたを見て、私は自分の選択が間違いなかったことを確信しました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 時が流れたある日。

 とうとう、その日がやってきました。


 史上初の月面ロケットが超巨大コロンビヤード砲に装填されています。

 全長1000mにも及ぶ砲身が目指すのは、人類未踏の地はるかな月世界。

 のどか様とお別れし、ヴェルナー様にお使えすることになってから夢見ていた宇宙(そら)への帰還がようやくかないます。


 巨大なオイルコンデンサを並列接続した超巨大キャパシタアレイが、1週間にも及ぶ充電も終了し放電のときを待っています。


 コックピットに点灯するGOサイン。


「月探査ロケット『はるかかなた』行きます」



『コロンビヤード砲外伝 FIN』

この話の元ネタはジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』ですが、いろいろ混ぜすぎて原型が無くなっています。

月面ロケット『はるかかなた』の話を書くことがあれば、もう少し原作に近づくことが出来るかもしれません。

ちなみに、ヴェルナーとかなたがどうなるのかは、別の話で語ることになるかもしれません(いきなりの外伝宣言?)。

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