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技術系研究員 由比川のどかの日常  作者: 錬金術師まさ
コロンビヤード砲外伝
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第9話.帰還


正直、回れ右して逃げ出しても誰にも文句を言われないレベルの相手だった。

美味しいところは『千の異なる顕現』に持っていかれたけど、助かっただけで十分だ。

 ほっとしていると、妹たちから通信が入る。


「パーねえ、一体なんでここにいるの。テスラタワーでバディさんを見張っているんじゃなかったの」

「それより、今のはなんだったんです。なんか黒い手が....」


 質問攻撃に晒される。


「込み入った話だし通信じゃちょっとな。そっち行くよ」


『はるか』に手をついて外装データにエアロックを上書きする。

 出現したエアロックを通って二人の前に現れる。


「やぁ、お疲れさん」

「.....パーねえ。相変わらず真面目に仕事をしている技術の人たちに怒られそうな能力だね」

「のどかには内緒よっ(ぺろっ)」


 はじめましての妹に、改めて自己紹介をする。


「君が新しい妹だね。私のことは、パー姉さんとよんでね」

「イエス、マム!!」


 いきなり怖がられている理由はなんとなく判ってるけど....


「怖くない。怖くないですよ」


 アオちゃんが直立不動になっている かなたちゃんを宥めている。

 いきなり、ハッキングしたのはまずかったかな。

 でも、緊急事態だったしさ、許してよね。


「先ほどの質問もそうなんですが、少し状況を説明していただけないでしょうか?」

「そうそう、襲ってきたあいつは『風に乗りて歩むもの』っていって、風の主神の眷属で結構メジャーなヤツなんだよ。あいつに襲われると大体風の主神の前に連れて行かれてそれっきりってことが多いね」


 ちょっと情報通なところを見せながら、それでいてフランクなところを演出、頼れる姉を演出してみる。


「あいつがここの時空に入り込んだことが『千の異なる顕現』が気に入らなかったらしくてね。成層圏までやつを誘い出せって言ってきたんだよ。やつの手先になる気は毛頭ないけど、のどかちゃんとあんたたちのためひと肌脱いだってわけ」


 出てきた途端にあんな大物とドンパチする羽目になるとは、まったくひやひやものだったけれどね。

 ここいらは、姉のメンツにかけても伏せておいた。


「まぁ、これもそれも済んだことだし...早く のどかちゃんに合いたいよ」


 ため息をつくアオちゃん。

 なに、姉、何かおかしなこと言った?


「パー姉さま。投影は出したものを消すことが出来ないんですよね。ということは私たちはこの船で大気圏突入をしなければならなくなりますが.....」

「大丈夫よ。仮にも『風に乗りて歩むもの』とタイマンをはれる船なんだから。大気圏突入なんて余裕よ」

「お忘れかもしれませんが、今回の打ち上げは『かなた』で成層圏を突破することをアンサリ・ゼットプライズと契約しています。もし、それ以外のロケットで帰ってきた場合は契約は不履行になるでしょう。その時、のどか様たちは非常に困った立場になります」


 たしかに、私、投影で改造したものをもとには戻せない。

 折角、邪神を追い払ったのに、このままだとプロジェクトが失敗する....私のせいで。

 のどかちゃんに怒られる。嫌われる。


「.....どうしよう(TωT)」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 急に現れた積乱雲に飲み込まれて消息を絶った『はるか』が、ようやくレーダーに戻ってきたのは打ち上げ後小一時間経過したあとだった。

 同時にアカから通信が入る。


「アカなの?急に消えちゃったから心配してたんだよ。大丈夫なの」

「大丈夫。ちゃっと乱気流に飲み込まれかかって危うかったけど、いま成層圏外だよ」


 ノイズ混じりだけど無事な声を聞いて、管制室に歓声が上がる。


「盛り上がっているとこ悪いんだけど、乱気流の影響で、帰還コースから外れちゃったんだ。海に突っ込んじゃいそうなんだけど、何とか拾ってくれない?」

「了解だけど、大気圏突入とか大丈夫なの?余分なエネルギーはそんなに積んでいないけど.....」

「う、うん。何とかやり繰りできるから。じゃあ宜しくね」


 それだけ言うと通信が切れた。

 こんな状態も想定して居たので、レーダーの観測と『はるか』からのデータから予定着地点を割り出すと、回収準備を開始した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 通信を終えたアカは、ホッとした様子で確認する。


「あんな感じでよかった?」

「上出来です」


 姉妹会談による作戦会議のアオちゃんが考えたシナリオが採用された。

 ロケットは成層圏離脱後、太陽風の影響でレーダーからは消えていましたが計画通りのフライトを済ませて海へ不時着する。

 残念ながら船は回収できないが、アカたちの機転でフライトレコーダは回収される。

 これならば、魔改造してしまったロケットを目に触れさせないので、アンサリ・ゼットプライズと契約を履行できる。


「で、かなたは出来るだけ喋らないように。喋る時も『roger』とか『All right』とかなるべくAI風でおねがいします」

「わかりま...『roger』です」


 さすが私の自慢の妹たち、やることに卒がないけど....


「ねえ、この作戦だと私ってのどかに会えないんじゃないの?」

「今回は仕方ありません。あきらめてください」


 やっぱりそうか。

 折角、あそこから抜けてきたのに。

『千の異なる顕現』が大人しくバディの面倒を見るとも思えないから、私ここにそんなにいられないのに。


「ごめんね。今回はこれ以外の方法がなさそうだし、対面はまた別の機会にすればいいよ」


 赤い子にもダメを押され、がっくり肩を落として私はうなずいた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『かなた』にスティルス機構と光学迷彩機構を追加投影、レーダーからも目視からも完全に隠す。


「ここまでやると、この時空最強の戦艦なんじゃないかな...」


 海に突っ込んでも大丈夫なように水密して、雷撃戦用に魚雷を積んでおく。

 かなたの改造が終わったらデブリを拾ってきて、ロケットの形に仕立てる。

 これを かなたの代わりに海に突っ込ませて目くらましにする。


 全ての準備を終えて、通信を送る。


「そっちの準備はいい?」

『こちらも準備完了です。一足先に降りて目標着水地点近くで待機していますが....』

「が?」

『本当にこちらに乗らなくて大丈夫ですか?大気圏突入の摩擦は大変ですよ』


 どうやら、ハッキングしたことは許してくれたらしい。

 その上、私の事を気にかけてくれるなんてなんて優しい妹だ。

 おねーちゃん感動しちゃうぞ。


「こいつのコースを固定したら大気圏突入の前におねーちゃん戻るから」

「戻るってどこにですか?」

「ん、おねーちゃんにも待っている人がいるから...」

「恋人さんですか?」


 苦笑して答える。


「ただの友達だよ」


 それだけ言うとデブリの加速にかかる。

 かなたが前方にいる筈だがスティルスが効いて全く視認できない。

 しばらく加速してデブリの速度が十分になったことを確認した。


「じゃあ、そろそろ帰るか....」


 ロケットが大気圏に突入する寸前、一瞬の閃が走ってそしてパー子は消えた。

無事帰還を果たし、祝賀ムードもひと段落、パー子に会えなかったことを残念がるのどかにさらに追い討ち?

「私、ヴェルナー様にお使えしようかと思うんです」


次回「コロンビヤード砲外伝 そして、再び宇宙(そら)へ」

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