ep.3噂のイケメン~櫻木 新 33歳~今日子視点
「あ~~~!!もう無理っ! タバコ行ってくる!」
無理。
もう限界だ。
仕事が進まない。
集中できない。
いつまで経っても終わらない。
帰れない。
うちの会社は、ホワイトでクリーンな大手化学系メーカーだ。
残業なんて、ほとんどない。
社員は基本、定時の17時には帰る。
もちろん私だって、普段はそうだ。
17時になればさっさと仕事を切り上げて、買い物に寄ったり、そのまま帰ったり。
そして弟のために晩御飯を作る。
そう。
普段なら、だ。
なのに今日は――。
取引先との会議の日程が、再来週から来週の月曜日に変更になった。
急すぎる変更だが、普段からお世話になってる取引先の都合なら仕方がない。
どうしようもない。
……なんて、素直に納得できるほど私はできた人間じゃない。
そして現在、金曜日。
時刻は18時10分。
資料集計は、まだ終わっていない。
全くもって終わる気配がない。
「あ~~~もうっ!」
イライラした私は、現実逃避のため喫煙所へ向かう。
何がなんでも行く。
だってイライラするもん!
「はいはい。ヤニ切れね。ごゆっくり~。私はコレ済ませたら帰るからね」
煙草の入ったポーチを取り出した私に、ヒラヒラと手を振るのは同じく残業をしていた同僚のリサだ。
彼女は普段の口調、普段のファッションだが、しっかりと視線はパソコンに向いて仕事の手を止めないのは偉い。
上司として褒めてやりたい。
でもさ……。
「リサの裏切り者~。なんで私ばっかり書類書類書類書類!全然終わらないー!」
「しょーがないでしょ?キョーコはうちらのリーダー。責任者様なんだからさ。早くヤニタイムしてきなよ。じゃね~」
しょうがないのは分かってるよ!
それでも羨ましい妬ましい!
それもしょうがないでしょ!
と、一時間も残業に付き合ってくれた彼女に言えるわけもなく、私は「はい……おつかれ……きをつけてね……」とだけ返して喫煙所へ向かった。
前、ごめん。
今日はカップラーメンかレトルト食べて。
こんな時のためのカップラーメンとレトルトだけどさ。
絶対に手料理派って訳じゃないけどさ。
やっぱり仕事を理由に、弟にご飯作れないとかホント申し訳ない。
ガチャ
「あ」
「お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です」
喫煙所に入ったら、まさかの先客。
しかも居たのは、リサが話してた例のイケメンさん。
営業部に異動してきた……名前は……。
……なんだっけ?




