第九話「車輪の音」⑤
街が見えてきたのは、午後の日差しが傾き始めたころだった。
丘の向こうから、石造りの建物が少しずつ顔を出してきた。
リーフェル村とは比べ物にならない規模だった。城壁がある。塔がある。旗が複数、風を受けてはためいていた。街道の幅も広くなっていた。行き交う人の数も増えてきた。商人らしき人間、旅人らしき人間、荷を積んだ馬、馬車。人の流れが、街に向かって収束していた。
「あれがオルディナですか」
と蒼依が言った。
「そうだ」
とディルクが答えた。
「この辺りでは一番大きい街だ。ギルドも衛兵詰め所も、必要なものは大体揃っている」
夜久は城壁を見ながら歩いた。城壁の上に衛兵の姿が見える。門のところに人が集まっているようだった。
「何か、騒がしくないですか」
と夜久は言った。
ディルクが目を細めた。
「確かに」
と言った。
「門の前に、いつもより人が多い」
蒼依が足を速めた。夜久とゼータも続いた。荷車の車輪が、少し速くなった。
街の門が近づいてくるにつれて、人の声が聞こえてきた。
衛兵の声。怒鳴り声ではない。緊張した、でも整然とした声だった。
何かが起きている。何かが、動いている。
門の前に、武装した人間が普段より多く集まっていた。衛兵だけではない。
思い思いの装備を身につけた、職業も年齢もばらばらの集団だった。剣を背負った者、弓を携えた者、重そうな鎧を着込んだ者。それぞれが思い思いの方向を向きながら、でも同じ何かを待っているような空気があった。
夜久は目を細めた。
穏やかな街道の一日が、ここで終わろうとしていた。
その先に何があるのか、まだ誰も知らなかった。




