第258話 蒼戻の足主
訪問ありがとう。今日は少し静かに戻った足の主を追う回。急がず、足と理由を分ける流れを楽しんでもらえたら嬉しいです。
翌朝、廃倉へ続く道はまだ乾いていた。
夜の風で、細い土埃だけが石の端へ寄っている。
だが、昨日立てた三本の木串は残してあった。
水車小屋。
曲がりの石。
廃倉前。
そして土の上の印。
踏み返し。
戻り足。
線は向きを変えた。
水車小屋から廃倉へ向かった足ではない。
廃倉から水車小屋へ戻った足がある。
なら今日は、その戻り足の主を見る日だった。
ガラムは南壁の外に立ち、広場へ一度だけ目を向けた。
赤、灰、茶の棒はいつも通り立っている。
受け取りも止めない。
外の足を見るために、中の腹を空にするわけにはいかない。
エドが隣へ来る。
「戻った奴を見るのか」
「ああ」
「ザムじゃないなら、廃倉の誰かか」
「まだそこまで言わない」
ガラムは短く返した。
「廃倉にいた者と、廃倉から戻った者は違う」
エドは苦い顔で頷く。
「また分けるんだな」
「分けないと落ちる」
見張りが板を二つ打った。
門前に来たのは三人だった。
ラダン。
掃き役の女。
それと、背の低い男。
男は廃倉の番をしている者だという。
番といっても正式なものではない。物を守るのではなく、人の出入りを眺めているだけの顔だ。
ガラムは門を開けた。
「入れ」
三人は外側の道へ出る。
広場へは入れない。
今日は土の上で見る話だからだ。
ガラムは背の低い男へ聞いた。
「お前が持っているものは何だ」
男は落ち着かない目で廃倉を見た。
「昨日の夕方、廃倉から水車小屋の方へ戻った奴を見たことだ」
「聞いたものは」
「そいつが何をしに戻ったか。それは知らない。誰かが金を受けたとか、そういう話は聞いただけだ」
「名は」
男は口を開きかけたが、ガラムは手で止めた。
「まだいい。先に足だ」
掃き役の女が昨日の三本目の木串の前に立つ。
廃倉前。
右足だけが強く残っていた場所。
「戻った足は、ザムより小さい」
女は言った。
「右足が強い。左の遅れはない。坂を戻る時の踏み方です」
背の低い男は頷く。
「俺が見た奴も、右へ体を預けて歩く。左足じゃない」
ガラムは土へ新しい印を置いた。
右寄りの足。
ラダンが低く言う。
「ザムではないな」
「ザムの足とは離れた」
ガラムは答えた。
「だが、まだ主は置かない」
ラダンは今度は急がなかった。
ただ頷く。
「わかった。足を先に置く」
背の低い男が少し焦れたように言う。
「でも、俺は顔を見てる」
「見た顔は後だ」
ガラムは即座に切った。
「足と顔を同時に出すと、顔が勝つ」
男は黙った。
顔は強い。
強いから、足を踏み潰す。
ここで名や顔を先に置けば、右寄りの足も、戻り足も、全部その顔へ吸われる。
だからまだ置かない。
掃き役の女が細道を少し歩き、曲がりの石の近くで止まった。
「ここにも同じ踏みがあります」
「戻りか」
「はい。廃倉から来て、水車小屋へ向かう向きです」
ガラムは曲がりの石の横へも印を置いた。
同じ戻り。
水車小屋へ戻る足。
右へ体を預ける足。
ザムとは違う足。
ようやく線が揃い始めた。
エドが低く言う。
「次は顔か」
「その前に、なぜ戻ったかだ」
ラダンが顔を上げる。
「理由を見るのか」
「ああ。戻った足の主を見ても、理由がなければまた名だけ走る」
背の低い男が口を開く。
「そいつは、水車小屋の裏に置いてあった袋を取りに戻った」
「袋?」
「小さい革袋だ。中身は見てない」
ガラムは右寄りの足の先へ、新しい印を置いた。
取り戻し。
空気が少し変わる。
頼み口。
騒ぎ待ち。
戻り道。
そして、取り戻し。
もし残りの金が動かなかったなら。
もし騒ぎが起きず、払うはずのものが止まったなら。
誰かが戻って、預けたものを取り戻しに来てもおかしくない。
薬草婆が壁の内側から声を投げる。
「金か、証か、どっちかだねえ」
「まだ中身は言わない」
ガラムは返す。
だが、線はかなり近い。
狼は腹で走る。
群れは順で持つ。
戻り足には主がいる。
だが、主を見る前に、戻った理由を見る。
そうしなければ、名だけが先に立つ。
ガラムは乾いた道に並ぶ印を見た。
右寄りの足。
同じ戻り。
取り戻し。
次は、その袋だ。
戻った足が何を取り戻したのか。
そこまで見えれば、
頼み口の腹はさらに狭くなる。
最後まで読んでくれてありがとう。誰が戻ったかより先に、何を取りに戻ったかを見るのが大事なんです。次も楽しんでもらえたら嬉しいです。




