表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/228

第213話 蒼先の奪還

訪問ありがとう。今日は少しテンポを締めて行きます。

朝一番の答えは守れた。

 だが次に狙われるのは、答えそのものじゃない。

 “最初の一言”だ。最初を取られれば、場の空気ごと持っていかれる――蒼先の奪還。


 夜明け前、井戸の水面はまだ暗い。

 人の声が乗る前の静けさは、短い。

 短いからこそ、奪う価値がある。


「塵なし。鏡なし。……朝が薄い」

 カイは井戸端の空気を読み、今日の朝は“誰かが先に喋る”と悟る。

「朝は越えた。今日は先が舌」

 ライラは視線を外れへ流す。代理は今度、袋ではなく“口”で先に来るはずだ。


 老人は今日も座る。

 だが、いつもより早い。

 先に居ることで、先に言える。

 それだけで十分だった。


「借りる腹は返す足で」

 ヴォルクは即断する。

「今日は最初を取る。

 答えじゃない。順番を置く」


 商人が短く頷く。

「見る、待つ、触る。

 この順だな」

「そうだ」

 ヴォルクは言う。

「順番が先にあれば、朝の答えは暴れない」


 ミーナは火を使わない。

 黒石を布に包み、木鉢を据える。布袋の水をひとすくい、“旅酵”を指の腹だけ落とす。焙り麦をひとつまみ、朝片粉を爪の先だけ。塩は影。香草は粉。

「“先守りのすすり”。湯気は出さず、温いで止める」

 酸は淡い。

 だが、急いで答えを出したくなる焦りが少しだけ薄れる。


 やがて代理が来る。

 やはり一人。

 そしてやはり短く言う。


「今日は俺が先に見る」


 だがその前に、老人が座ったまま置く。


「見る。待つ。触る。今日もその順だ」


 先に言われた。

 それだけで、代理の口が一瞬止まる。

 奪うはずの最初が、もう無い。


「……袋はどこだ」

 代理が言う。

「そこだ」

 商人が水路脇の石陰を示す。

 袋は外と内の間にある。

 誰の物でもない位置。

 それが強い。


 代理は袋を見る。

 だがすぐには触れない。

 先に順番が置かれているからだ。

 順番があると、強引な手は“破り”になる。

 破りは札を弱くする。

 そこは分かっている。


 ライラが短く言う。

「見たものから言え」

 意味を足させない言い方だ。


 代理が答える。

「袋。紐は変わらない。泥も増えていない」

 良い。

 位置のままだ。

 まだ答えになっていない。


「待て」

 老人が言う。

 短い。

 次の順番だ。


 少しだけ沈黙が落ちる。

 朝の沈黙は強い。

 急ぐ口を鈍らせる。


 そして最後に、代理が袋へ手を伸ばす。

 触る。

 開ける。

 中は昨日と同じ。

 金具が二つ、布が一枚。


 寝床貸しの前の男が、すぐに口を開こうとする。

 来る。

 “似てる”か、“見た”か、その類だ。


 だが先に女が言う。

「見たものだけでいい」


 良い。

 借りた言葉じゃない。

 自分の手にした言葉だ。

 こうなると強い。


 男は止まる。

 止まった口は弱い。

 弱い口は、朝の空気を取れない。


 代理が低く言う。

「所有は、まだ不明だ」

 昨日と同じ答え。

 同じ答えは強い。

 繰り返されるほど、場の基準になる。


「なら終わりだ」

 ヴォルクは即断する。

 今日も早く閉じる。

 伸ばせば意味が足される。

 足される前に閉じる。

 それが勝ち方だ。


 代理は去り際に短く言う。

「……順番を置かれたな」

 悔しさの混じった声。

 だが、それでいい。

 最初の一言は守れた。


 商人が御者台で短く記す。

「本日の勘定:蒼先の奪還、朝一発話を確保。順番維持、意味付与なし」

「紙は腹にならないが、腹は紙を運ばせる」


 ヴォルクは結論を出す。

「朝は取った。次は“順番そのもの”を壊しに来る」

 順番が壊れれば、また答えは濁る。

 次に来るのは――

 “焦り”を流し込む手だ。

最後まで読んでくれてありがとう。今日はいつもより読みやすさも意識してみました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ