ドラゴン フライ
数日は大した魔物に合うことなく歩いていると、水が流れる音が聞こえてきた。
「川だ!」
俺は思わず走り出した。
木立を抜けると大河に出くわした。対岸がかすんで見える距離である。
「いやあ、気持ちいいなー!小川はあったけどこんな大きな川ははじめてだ。」
「ゼント待ってよ~。」
ミュウが追い付いてきた。
「ゴード国に行くにはこの川を渡らなければならない。」
「我一人なら飛び越えられけどゼントはどうする?」
「俺は・・・・瞬歩で走り抜けてみるか?」
「ちょっと練習!」
そう叫んで川の端を少し走ってみた。超速で足を出すと水はほぼ固体状態なので水上を走ることができた。
「大丈夫行けそうだ。」
「でも途中で川に落ちたら川の魔物の餌食なるよ。」
やっぱり川にも魔物がいるのね・・・。
「大丈夫、落ちそうになったら何とかするよ。」
「じゃあ、我が先に行って、ゼントが失敗したら助けてあげるね。」
ミュウは魔物の姿に戻ると、10m程湖岸から離れたと思うと助走をつけてジャンプした。
凄い跳躍力だ!あっという間に対岸に到達してる。
対岸についたミュウが手を振る様子がかすかに見える。
「それじゃあ、行くか。」
俺も助走をつけて一気に”瞬歩”で走り出した。
水面に足跡の様に波紋が描かれていく。
あと50mぐらいのところで、足の動きが怪しくなり態勢を崩した。
「ヤバい!」
そのまま川の中に落ちそうになったが、魔剣から”氷の刃”を前方には放ち、前方の水を一瞬で氷つかせて、その上に滑り込んだ。
俺はカーリングの石の様に氷の上を滑って対岸に到達した。
「やっぱり瞬歩を使うには遠すぎたな。」
「最初から凍らせればよかったのに。」
「いやこの距離を凍らせるのは無理だったので、最後の手段でとっておいたんだ。風の刃で飛び上がるという手もあったんだけどね。」
「ところで、せっかく川に来たのだから魚を捕らないか?」
「お魚!」
ミュウが目を輝かせている。
「どうやって捕るの?我は水の中はちょっと・・・。」
確かに猫は水の中は苦手だな。
「こうやって捕るんだ!」
俺は木刀から小さい電撃を出して見せた。
「電撃で?」
「水は電気を通すから、こうやって木刀を水につけて電撃を放つんだ。」
俺が川の中にある大きな岩に向かって電撃を放つと「バキィ!」という音共に岩が割れた。
それから直ぐに岩と俺の間の川面に魚がうじゃうじゃと浮き上がってきた。
俺はすかさず『氷の刃』を川面に放ち水面を凍り付かせて魚が流れ去るのを止めた。
「こうすれば簡単に捕まえられるだろう。」
「ゼント意外と頭いいんだ。」
「失礼な!」
俺たちは氷からはぎとるようにして魚を捕り始めた。
半分ぐらい捕り終えたところ、急に川の中央付近が盛り上がり巨大な魔物が出現した。
全身が黒い鱗に覆われた竜!口には無数の牙が生えている。
「え、ヤバいよ、あれはSSクラスのピラニアドラゴン!なんでこんな場所にいるの?」
「ゼント魚捕っている場合じゃないよ!逃げないと。」
Sクラスのミュウが怯えている。相当ヤバい奴だな。
もしかして、川の中で寝ていたのをさっきの雷撃で起こしたのか?
「わかった、ダッシュだ!」
俺たちは捕っていた魚を放りだして全力で森の中に駆け込んだ
ミュウは魔物の姿に戻って猛然と走りだした。
後ろで大きな波音が聞こえたかと思うと、周りが急に暗くなった。
真上に奴が飛んできたのだ。
俺たちの全力疾走についてこれるのか?
まてよ、ミュウは俺よりもっと早いはず?
俺の速度に合わせてくれているんだ。
竜が雄たけびを上げたかと思うと口から強烈な青い火炎を吐きだした。
俺は瞬歩で、ミュウは最大戦速で何とかよけることができたが、後方は火の海だ。
このままでは二人共やられてしまう。
「ミュウ、全速で逃げろ! お前の速度なら逃げ切れる!」
「そんな、ゼントを置いて逃げられないよ!」
「俺は瞬歩で逃げて見せる!だてにソーリの森は抜けていない!」
「分かった!」
ミュウが全速をだして走り始めた。
俺は瞬歩で500mぐらい一気に進んでミュウに追いつき、離されては瞬歩で追いつくということを繰り返しながらソーリの森を激走していた。
瞬歩は一回に使える距離が500mぐらいなのだ。
木々の中を抜けて草原に出た時、足が急にふらっときた。
ヤバい、瞬歩がもう使えない!
体勢を崩した俺は、転がりながら倒れ込んだ。
急いで立ち上がり後方を見ると、ドラゴンの姿は見えない。
逃げ切ったのか?
そう考えた瞬間、黒い塊が猛スピードで上空に現れて一瞬で静止した。
黒いごつごつした鱗を前進に纏い、血走ったような目をした怪物がこちらを睨んでいる。
今まで出会った魔物では感じえなかった恐怖に血の気が引いていくのを感じた。
「ここまでか・・・。」
ミュウは行ったようだな。
俺がこいつとやり合っていればミュウは逃げ切れるだろう。
恐怖を押し殺して全力でこいつとやり合うことにした。
「うおりゃーーー!!」
俺は全力で光の刃を放った。
的はでかいので外すことはない。
だが、光の刃は奴の鱗を少し傷つけただけで、致命傷など与えられるような威力はなかった。
まあ、ミュウが恐れるわけだよね。
奴は悠然と空に浮かびながらこちらを見ている。
直接攻撃してみるか?
この距離ではジャンプしている間に落とされてしまう。
ところで奴はなんで攻撃してこない?
もしかしてブレスを吐くのに時間がかかるのか?
そう考えた瞬間、奴は喉元を膨らませてから大きな口を開けブルーブレスをこちらに向けて放ってきた!
もう俺にはこれしかない!
魔剣を向かってくる巨大なブルーブレスに振り下ろした。
一瞬目の前が真っ白に輝いたと思うと火炎が俺の周りにはじけ飛ぶように散って後ろの木々を地面を燃やしていた。
高温の炎が周りを飛んで行ったため、服は燃え、体中に火傷ができている。
木刀を見ると燃えるどころか焦げ跡一つ無い。
ユグドラシルの木っていったい何なんだ?
だが、奴のブレスを弾けるなら勝機はある。
俺は諦めずに動きながらひたすら『光の刃』を打ち続けた。
奴はブレスを弾かれたことに驚いたのか、少しの間動きが停止していたが、すぐに気を取り直し、こちらに向かって突進してきた。
ブレスが効かないなら圧倒的な力の差でねじ伏せようというのだ。
巨体からは想像出来ない程の俊敏さで巨大な尾を振り回して攻撃してきた。
ジャンプで辛うじて奴の尾をかわしたが、次には巨大な手での攻撃が続く。
巨大な質量の尾や手の攻撃を一撃でも受ければ致命傷である。
奴の攻撃を辛うじて避けながら俺は『光の刃』をひたすら放ち続けた。
しばらくは尾と手の攻撃が続いたが、奴は急に動きを止めた。
ブレスが来るそう思った瞬間、奴の体中の鱗が青白く光りだした。
ブレスじゃない!
そう思った瞬間奴の全身から光の刃のようなものが飛び出してきた。
無数の鱗による攻撃である。
避けきれない!
アイスランスを放ち前方の鱗をいくつが撃ち落としたが落としきれなかったものが飛んで来る。
咄嗟に瞬歩で後ろに飛び退いて時間を稼ぎ落しきれなかった鱗をアイスランスで迎撃した。
迎撃しきれなかった何枚かの鱗が手足を切り裂いていく。
なんて奴だ!
体中血だらけだが、神経が麻痺しているのだろうか?何故か痛みは感じない。
まだいける。
俺からの攻撃が再開すると奴はまた尾と手で攻撃を始めた。
・・・・・・・・・・・・
そろそろか?
まだ奴の鱗は貫通していないが、狙い続けた一点だけはかなり薄くなっている。
これを外せばもう後がない。でも次の鱗の刃やブルーブレスを防げるかは分からない。
一か八かだ。
「雷撃!」
俺は光の刃ではなく、雷撃をその一点に全魔力を込めて放った。
轟音と共に雷撃はその一点を貫いた。
ドラゴンは地響きを起こすように空に向かって吠えたかと思うと地上に立ち、こちらを凝視した。
だめだ、もう逃げる力もない。
奴の喉元が膨らんだ。
ブレスが来る。かろうじて残った力で魔剣を構えた。
だが、奴がブレスを吐くことはなかった。。
奴はその体勢のまま突っ伏すように倒れて全く動かなくなってしまったのだ。
「や、やったー!」
俺は両手を挙げてガッツポーズをとった後、そのまま意識を失った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
頭に柔らかいものを感じながら夢見心地の状態で意識が戻てってきた・・・。
ここは?
ヤバい、俺は意識を失っていたのか?この森で寝てたら魔物の良い餌だ!
俺は大急ぎで上半身を起こしたとした瞬間、顔に柔らかいものが当たり我に返った。
「え、ミュウ?」
ミュウが俺に膝枕をしてくれていた。顔に当たったのはミュウの胸だった。
「良かった!ゼント生きてた!」
ミュウを俺に力いっぱい抱きついてきた。
「く、苦しいよミュウ、ちょっと力抜いて!」
「あ、ごめんなさい。本当にうれしかったの!」
ミュウに話を聞くと、草原を過ぎて次の森にはいた時にゼントが追い付いてこないことに気が付いたが、全速を出していたので停止するまでかなりの距離を進んでしまったとのことだ。
止まって後ろを振り向いた時には青い光が空に輝いていたので、ゼントが戦っているのに気が付き全速で戻ってきたのだという。
「俺は瞬歩が使えなくなったので、少しでも奴を足止めしてやろうと夢中で戦っていたんだ。ミュウが戻ってきたら意味ないじゃないか。」
「ゼントは一緒に逃げるって言ったじゃない!約束破ったのゼントだよ。」
「あ、ああごめん、でも嬉しい、俺のために戻ってきてくれたんだ。」
ミュウはにこにこしながら体を寄せてきた。
「ところで戻ってくる途中で凄い雷鳴がしたけど、あれはゼントが放った電撃?」
「ああ、全力で放った電撃だ。奴が電撃で目を覚ましたということは、それなりに電気に弱いんだろうと考えたんだ。でもあの鱗を貫くのは無理だろうと思って光の刃で奴の鱗を少しづつ削り取ってみた。」
「あの胸の部分ね。」
「そこに電撃を当ててやっと倒れてくれた。ブレスを吐かれたときはヤバかったけどこの木刀が弾き返してくれたんだ。」
「あの青炎を浴びて焦げてないなんて不思議な木刀ね?」
「ああ、でもこの木刀には命を何度も助けられた。もう、俺の一部みたいなもんだ。」
「そうだ、疲れただろう。これを飲めば元気がでるよ。」
俺はポーションを出してミュウに渡した。
「うっ!まずい・・・。でも元気が出てくるね。」
そういえば、俺も大火傷や大怪我を負ってたな?
「え?」
手足を見ると服は燃え落ちているが、火傷や傷の跡が全くなく、どこも体が痛くない。
「ミュウ?俺が寝ている間にポーションを飲ませてくれたのか?」
「いや、そんなことはしていないぞ。」
「おかしいなあ、満身創痍だったんだけどな。」
「我が来た時には傷なんかなく、気持ちよさそうに寝ていたぞ。ゼントが寝る前に自分にヒールをかけたんじゃあないか?」
「うん、記憶がはっきりしないけど、勝手に治ることはないから多分そうなんだろうな。」
倒れた時は魔力も切れていたので、なんかすっきりしないけど、まあ、いいか。
「さて、今日はここまでにして夕食でも作るか?」
まだ日は高いがもう歩く気力は無い。
「その前に、このドラゴンどうする?」
「食えるのかな?」
「ドラゴンなんて食べたことないよ!」
「そりゃそうだよな、とりあえず鑑定してみよう。」
<ピラニアドラゴン>
以下生前の能力
*魚類から進化したドラゴン(ピラニアンの最終進化形態)
*体力:109000
*魔力:120000
*スキル:ブルーブレス(数千度の高温の炎で敵を焼き尽くす)
陸生(魚類ながら、手足と翼を持ち陸での行動が可能)
*食用可(美味)
「こいつ魚類で、しかも美味いのか?じゃあこいつを食おう!」
「お魚?」
「刺身や塩焼き、フライも良いな。煮つけは醤油がないとだめだし。」
「お魚!お魚!転生してから初めて!じゅるる。」
え?そうなの。ミュウがこんなに喜ぶとは思わなかった。
「刺身は・・・寄生虫がいるとまずいので止めておくか。よし、フライにしよう!」
その日の晩御飯はライでご飯を炊き、ドラゴンのフライをおかずに、美味しくいただきました。