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改造手術は裸体が基本です♂

 昔の話だった。


「―――夕。前弟が欲しいって言ってたよな」

「うん」

「できたからお前にやるわ」

「どういう経緯ですかそれぇええ!?」

「お前クローンだ。遺伝子は弄ってあるから正確には違うが大事にしろ」

「ど、どういう事だよ。なんで?」

「知る必要はない」

「コミュ障も極まればそこまで言えますか!?」

「仕事だからそろそろ出るわ」

「あ、待たんかいそこの親父! 唇毟ったから帰ってこんかい!」

「いやぷー」

「むっかぁああああああ!」


 ――――当時は、美緒が勝手にいなくなったこともあって寂しい思いをしていた。

 親父なりに気を使ったのかもしれない。

 それとも、何か研究の副産物で連れてこられたのかもしれない。

 ともかく、4年前、俺に弟ができた。

 親父に似て、どこか愛想のない子だった。

 だけど、付き合ってみればそんな事はなくて、弟は少しずつだけど色んな事を喋ってくれた。

 山の手の研究所の中での出来事。

 何を食べて何を教えられ、何を見てきたか。

 そして、俺のことについてどの程度教えられてきたか。


「……兄ちゃん……」

「ん?」

「―――大好きだよ……」


 そして会話の最後はいつもこれが占めていた。 

 たどたどしい物言いは今も変わらなくて、表情の乏しい唇から洩れる言葉は俺のクローンとは思えないほど甲高くて。

 それでも一生懸命声を出そうとしているのがわかって、嬉しかった。

 だからいつも俺は弟の頭を撫でて頷いていた。


「なぁ。お前の名前はなんていうんだ?」

「……ない」

「じゃあ、俺に名前をやるよ。……勇。お前はこれから勇だ」

「……兄ちゃんと一緒?」

「おうよ」

「―――うんっ」

「よろしくな、勇」

「兄ちゃん……大好き、大好きだよっ」

「へへっ、俺もだよ」


 ――――親父が考えている事は良く分からないし、何をやっているのかは分からない。

 OBT社が何をしていて、俺達家族がどんな役割があるかも知らない。

 ただ、わかるのは、あの日から俺の家族は増えて、いつも一緒にいてくれるという事だけだ。

 それだけが、当時の俺は嬉しかった。

 多分、今も―――


「……両想いだね」

「う、うん……うん?」

「……子ども作る」

「あれ? そんな話だった? 違うよな勇? ていうか男、だよな?」

「僕は男だよ……だから兄ちゃんが好き」

「う、うん?」


 当時から変な奴だった。

 今も、か。

 勇……どうしているんだろう。

 俺は今、なんでこんな所にいるんだろう。

 なんで――――










「なんで俺捕まってるんですかぁああああああああ!?」

「捕まえたからよ」

「シンプルな答え、嫌いじゃないわ!」

「おはよう、夕」


 暗がりの向こうから聞こえてくる声に記憶が湧いてくる。

 それはとても、懐かしい声。

 薄暗い闇の中、夕は四肢を縛られながら、ベッドの上で身体をよじりつつスピーカーから聞こえてくる声の主に叫んだ。


「お前、可奈だろ!」

「正解」

「親父とどっこいのイカれた頭の―――美緒はどうした!?」

「自分の心配でもしたら?」


 頭上から噴き上がるスポットライト。

 眩さに目を凝らしながら、周囲を見渡せば、そこは体育館のようなフロアが広がっていた。

 木の床が天井に敷き詰められたライトを照り返し、防音性の壁が四方を包む小奇麗な十五畳の広い部屋。

 真ん中には夕の四肢を縛る鎖付きのベッドが備えられ、壁には大きなガラスが埋め込まれていた。

 その奥、小さな顔がぼんやりとガラス越しに見えていた。

 その輪郭は良く知るものだった。


「……その背丈と顔立ち、やっぱり可奈ちゃんか?」

「うん。おひさ」

「お、おひさ……ていうか挨拶してる場合じゃないでしょ!」

「だね。裸はきついだろうし」

「……え?」

 

 そう言われて夕は更に自分の身体に目を向けた。






 ―――光の下に晒す裸体。





「えええええええ!?」

「……ちっさ」

「やめてぇええええええええええええ!」

 

 鎖に四肢を縛られながら、悶える夕の声がフロアに響き、ガラス越しの少女はため息をついた。


「まぁいいわ。そういうのって血がたまって大きくなるんでしょ」

「生々しいからやめなさい、確か可奈ちゃんまだ十三歳でしょうが!」

「13に向かってチンポ晒してる屑が言えたセリフ?」

「お前が縛っとるんだろうがぁああああああああああ!」

「―――もぉ、夕君のはすぐに大きくなるんだからッ」


 そう言ってガラスの向こうにもう一つの影が見えた。

 スラッとしたスタイル。

 白さを基調とした、夕と同じ学校の制服から覗かせるのは長い脚、か細い腕と膨らんだ谷間に添える小さな手。

 大きな目は紅く、こちらへと振り返って更に輝く。

 幼さの残る笑顔は変わらず、少女、美緒はガラス越しに手を振ると、惚ける夕に叫んだ。


「やっほぉおお! 元気夕君!?」

「お前が気絶させたんだろうがぁ!」

「だから心配したんだよぉ?」

「いいから解けよ!」

「オナニーしたいの?」

「どんな風に頭弄ったらそういう結論になるのぉ!?」

「小学校の時いっつもお股触ってたし」

「違うねん! ちょっとズボンの中のナニの位置がおかしかったから」

「私のお股も触ってた」

「ごめんなさいぃいいいいいい!」

「―――やっぱ言い逃れできない屑よね、夕って」


 身悶える夕にため息を零しつつ、ガラス越しに少女、可奈は隣に立つ姉の姿を見上げて唇を尖らせた。


「やるの?」

「うんっ」

「―――どうなっても知らないわよ?」

「なんとかなるっ」

「ならなかったら?」

「私が決着をつける」

「……そう」


 満面の笑みを零して頷く姉に零れるため息。

 少女は小さく肩をすぼめると、あどけなくガラス越しに夕に手を振る姉を横目にその場を離れた。

 圧縮空気の抜ける音が部屋に響く。

 ジャラジャラと鎖を動かしベッドの上で身悶えていた夕はハッとなって開く扉の音に顔を上げた。

 そこには、白衣を床に引きずり歩く小学生のような女の子が一人。

 胸は薄く、背は小さく、メガネはライトを照り返して目元は見えず、乏しい表情で少女は夕の下に歩み寄る。

 そしてポケットに手を突っ込みつつ、夕の顔を覗き込む―――


「ねぇ夕」

「―――お前、変わらないな。顔立ちもやってる事も」

「ありがと。私も五年前のあんたの評価が今も変わらなくてほっとしたわ」

「なんだよ……」

「お姉ちゃんに寝返った最低の屑」

「寝返った!? どういうことですかぁ!?」

「付き合ってるんでしょ?」

「いや……その、五年前の話だしなぁ……」

「……ふぅん」

「それはいい、ここどこだよっ」

「樋之継手村の山奥。結構山の斜面かな?」

「――――OBT社の研究所か?」

「そんなわけないでしょうが」


 そう言いつつ、ポケットから取り出すのは、小さな錠剤。

 指でつまんで眉をひそめる夕の口元へと近づけると、ギュッと口を閉じる青年に、少女は眠たそうに目を細めた。


「開けて」

「いや―――」

「ほれ」


 口を開いた瞬間に吸い込まれる小さな錠剤。

 慌てて口を閉じるが、錠剤は喉の奥に呑みこまれていき、夕は目を白黒させながら、苦しげに身体をよじった。


「が……な、何飲ませた!」

「ナノマシンの停止促進剤。特定のナノマシンと結合して遺伝子改変要素を消去させて、記憶因子を抽出するの」

 すらすらと呟く少女に、夕は混乱気味に声を荒げて叫んだ。

「ど、どういう事だよ、状況がまるで見えない!」

「あんたの変態オヤジが何をさせようとしているか知ってる?」

「知らねぇよ!」

「あなたはね、OBT社の実験対象にされていたの」

「何のことだよ!」

「あなたの身体を内側から改造しいくことで、彼らはあなたを抑えつけ、君が本来持つ『力』を自分たちのものにしようとした。

 そしてその為に、あのクローンも用意した。骨抜きにするために」

「はぁ!?」

「ユウって子供か何人目か、あなたは知ってる?」

「知らねぇよ! 戯れるな!」

 

 目を血走らせ、吼える夕に、少女はおどけた様相で肩をすぼめて、また白衣のポケットに手を突っ込んだ。


「怖がらないでよ。あなたはたぶん成功作なんだから」

「なんのだよ!」

「強化人間」

「ひゅんひゅんビットでも飛ばすのかよ!?」

「似たようなものよ。謂わば残った全人類の為に戦うというのが、貴方の親父様のご計画よ。

 でも全人類の九割を消した敵と対抗するなんて容易じゃない」


 そう言いつつ取り出すのは、針なしの一本の注射器。

 ブシュッ

 顔をしかめるユウの首筋に噴出口をあてがうと、圧縮空気と共に液が血管に流れ込み、血が僅かに傷口から浮かぶ。

 そして即座に頭をよぎる熱っぽさ。

 眠たさが頭を横切り、夕は苦しげに眉をひそめると共に、上体を起こす少女を睨みつけた。

 その紅く滲む視線の先、少女は微笑む―――

「だから、あなたがいるの。恐らくオリジナルである、あなたを」

「どういう……ことだよ」

「喋れるってことはオリジナルかもね。致死量の倍の薬を投与したから」


 そう呟く唇から零れる安堵のため息。

 少女はポケットに注射器を収めつつ、安堵に微笑みを浮かべ苦しげな夕を横目に白衣を翻した。


「私達も、OBT社と目的は同じく、あなたみたいに、強い人間が必要なの」

「な、何がだよ……」

「ナノマシンはあなたの能力を抑制するため―――目が覚めたら、お父さんとお母さんに聞いて見て」


 そう言う少女の背中がぼやけてくる―――


「お、おい可奈……お前の目的は……」

「OBT社の壊滅」

「は、はぁ……?」

「そして、来るべき【暗き者】達の対峙」

「何……言って……」

「その為には、オリジナルユニットの『あなた』が必要―――頑張ってもらうわよ」

「お、オリジナル……」

「まぁ、その前にこの薬に耐えられたらの話だけど」


 そう呟く声が遠のき―――


「……がはぁ」


 うめき声が最後に聞こえて、夕はガクリと鎖に繋がれたまま、口から泡を吹いてその場に崩れ落ちた。

 それに対応して股間の塔もしおれて倒れる。


「……ふふっ」


 唇から零れる口笛。

 メガネのずれを直しつつ、少女、可奈は部屋の出入り口を潜ると、扉を閉めて薄暗い廊下に立った。


「可奈ちゃんっ」


 そこにはムスッと口を尖らせる美緒の姿。

 可奈は眠たそうな表情は変わらず、小さくため息を零すと、頬を膨らませる姉へと近づいた。


「何?」

「夕君に何したのよっ」

「ただのクローンじゃん」

「オリジナルかもしれないじゃないッ」

「クローン体だったら?」

「殺す」


 キョトンとした表情は変わらず、さらっと告げる姉の言葉に妹の可奈は怖々と肩をすぼめた。


「おっぱいでかいのに言う事きついねお姉ちゃんは」

「む、胸は関係ない!」

「いつになったらオリジナル君にこれツンツンしてもらうかしらっと」


 そう言って豊満な胸元を指でつつくと、ビクンと跳ねる華奢な身体。


「こ、こらぁ!」

「とりあえず彼を見てて。私お父さんに連絡入れてくるから」

「うぅうう……」

「『彼氏』なんでしょ?」

「そうだけどぉ……夕君っておっぱいの大きな子がキライみたいだし」

「じゃ私も脈ありかな……」

「―――可奈ちゃん?」

「じゃ、私行くね」 

 

 手を振って廊下を歩く白衣の少女の背中を見つめ、美緒はムッとした表情を浮かべつつつ、喉に疑心を飲み込んだ。

 そしてスカートを翻すままに、美緒はガラスに張り付いて中を見つめる。

 ゴクリ……

 緊張に喉を嚥下していく唾。

 ピクリとも動かなくなった裸の青年をガラス越しに見つめながら、美緒は表情を強張らせる。

 だが、熱っぽい視線の向こう、ベッドの上で青年はまるで動かない。

 目は虚ろに天井を見つめ、ダラリと垂れた舌が口の端から垂れる。

 まるで死んだように肌が白い―――


「夕君……」


 美緒はギュッと祈るように胸元に両手を添えて、きつく目を閉じた。

 唇からため息が零れ、美緒は祈りを声に乗せる。


「夕君……夕君が狼だよね、オリジナルだよね……死なないよね」


 制服に皺が浮かぶくらいに、胸元を掻きむしり、ジンワリと涙が零れる―――


「夕君……」



 ―――変化が出た。



 グルルルルゥ……

 ガラス越しに微かに聞こえる声。

 ハッとなって顔を上げると、ガラスの向こうにう見えるベッドに横たわる青年に目を見開いた。


「夕君ッ」


 ――――グゥウウウ……

 食い入るようにガラスを覗き込みながら、聞こえてくる力強い唸り声。

 ビクン……

 鎖につながれ四肢をベッドに放り投げだしていた身体が痙攣して、ベッドの上で力強く跳ねるのが見える。


「すごい……」


 ボコリ……

 体中の筋肉が痙攣して膨張していく。

 そしてビッシリと裸になった全身に毛深い体毛が生えだし、顔の形がゆっくりと変形していく。

 その姿はまるで動物のように―――


「……」


 ごくり……

 興奮に呑みこむ生唾。

 汗を額に浮かべながら、ゆっくりと変化していくその夕の様子を、美緒はじっとガラス越しに見つめていた。

 そして部屋中に響き渡る獣の雄たけびに胸を震わせる―――


「夕君……パパ、パパぁ!」


 居てもたってもいられず、髪を振り乱し駆けだす美緒。

 そうして薄暗い廊下の奥へと消えていく少女の背中、ガラスの向こうで男の身体が大きく変化していく。

 その身体はビッシリと黒い毛に覆われた獣のように―――――




さぁそろそろ話が妙な事になっていきますよぉ。次長いんでご注意を

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