親父ぃ・・・
「ほぉお! 良くもこれだけ連れてきたものだ! 健二ぃ!」
「うるさい声だ……」
細長い廊下の中。
瓦礫を障害物にして、薄暗いフロアを断続的にマズルフラッシュが走って、無数の人影が壁に映った。
弾痕が次々と壁に浮かび、細切れになっていく瓦礫の群れ。
遮蔽物が亡くなり、倒れていく仲間を横目に、鷲人は身体を低く隠しながら、手に持った二丁拳銃のシリンダーを開いた。
そして対物ライフル弾を捩じり込みつつ、鷲人はライフルをかざして戦う仲間に叫ぶ。
「敵はどの程度いる?」
「五十ですね……!」
「他のフロアはどうだ?」
「十階フロアで敵と交戦中です!」
「早く終わらせて応援に駆け付けようようではないか、オルティスは来ているか?」
「確認できません!」
「王が眼前にいるというに舐められた話だ……」
ガシャンッ
弾丸が頭上を掠める中、重々しくフレームにめり込む巨大なシリンダー。
その銀色のフレームがマズルふらっすを照り返す中、鷲人は身体を丸めて俯きがちに息を吸い込んだ。
そして顔を上げて、周りでカバー撃ちをする仲間に叫ぶ。
「よし、埒も明かん故突っ込む、ワシの後に続けぇ!」
『了解!』
そう叫ぶ仲間に頷くと、鷲人は障害物を乗り越え、白衣を翻すと共に身体を低く走り出した。
ヒュンッと弾丸が風を斬る音が耳元に走る。
肩を痛みと熱が走り、白衣に穴が開いていく中、鷲人は両手に巨大な拳銃をかざした。
そして障害物の向こうにいる敵意を捉える―――
「健二ぃ!」
「うるさい……!」
ドゴォオオオオンッ
地響きするほどに重々しい轟音。
バキリッと床が罅割れる程に、リコイルに踏ん張る身体が後ろに引っ張られ、分厚い硝煙と共に弾丸が飛び出した。
文字通り塵と化す瓦礫。
巨大な弾丸が一瞬で障害物を撃ち貫き、隠れていた敵の頭を二つ吹き飛ばした。
そして倒れていく兵士の後ろを、追随する兵士が援護するように弾幕を張り、走る大柄な大男の背中を追いかける。
「健二、出て来い!」
「―――イノシシが……退くぞ!」
「常にスリーマンセルで行け! 狭い通路故挟撃の可能性がある!」
ドゴォオオンッ
音が衝撃波に変わって壁に走る無数の罅。
鷲人は対物弾を障害物に隠れた人影に拳銃を向けつつ、トリガーを引き絞っては、その巨体が大きく仰け反った。
振り上がるバレルの先、弾丸が瓦礫を粉々に砕いて、敵の上半身が血煙に飛び散る。
そして血煙の向こう、鷲人は後ずさりながらよれよれ服の男を捉える―――
「健二ぃ!」
「くそったれが……」
ドスンッ
後ろに滑る脚先から白煙が立ち上り、床をひび割りながら、鷲人は険しい表情で立ち止まると再び走る。
その後ろから弾丸が鷲人の手数を補うように押し寄せ、仲間の援護を受け鷲人は廊下を駆ける。
その向こうに刀を持った男を捉え、拳銃を突き出す―――
「健二ぃ、オルティスはどこだぁ!」
「―――ここにいるよ」
薄暗い廊下に飛び散る火花。
振り上げた刃を抑えつけるように、分厚いフレームで健二の動きを止めつつ、鷲人はつばぜり合いの向こうに男をとらえた。
その男は自分と変わらず、険しい表情で刀をこちらに押し付けていた。
その目は紅く血走っていて、鷲人は忌々しげに顔をしかめる。
「OBT社に加担して何になる! こんな光景をまた増やす気か!」
「―――こんな景色だらけだよ、世界はな」
「何!?」
「オルティスCEOが世界に与えた爪後は大きい―――首都と呼ばれた街は全て砂の中に埋まっている」
更に激しく飛び散る火花。
二丁拳銃を弾き飛ばしつつ、日本の刀を振り下ろすと、小さなため息と共に健二は鷲人に向き合った。
その刃は焦りに顔をしかめる大男の顔を映し、健二は静かに刃を構え腰を低く落とす。
そして床を蹴ろうと、息を吸い込む―――
「行くぞ……!」
「人はどうなった!?」
「……。残っているのはOBTの職員と、研究所のある街だけだよ……満足だろう、お前達がやっている事はいたずらに背後にいる連中の苛立ちを増やすだけだ」
「お前の息子は必ず世界を救う! ワシはソレを信じている!」
「戯れるな……」
「照れくさいか、お前と佐代子嬢の息子だろうが!」
「その尊厳すら奪ったお前が……!」
「咎は受けよう! だがお前は討たねばならぬ!」
「綺麗事を並べた先に見える未来が……そんなに大事かぁ!」
――――盛り上がる地面。
「でぁああああああ!」
瓦礫が飛び散り、床の底から飛び出るのは、巨大なドリル。
二人の間を割るように粉塵が立ち上り、鷲人と健二は塞がれる視界に苦々しく顔をしかめ後ずさった。
そして煙に向こうに見える人影に、二人は目を細める―――
「よぉ」
「――――勇、所詮は、出来そこないか」
晴れていく土煙。
そう呟く健二の視線の先、そこには片腕が機械のドリルに変形した黒き狼男の不敵な笑みがあった。
ヒクリと痙攣する突き出た鼻先。
尖った耳は後ずさる二人の足音を聞き付け、変形していくドリルを手に黒き狼は眼の前父親に首を傾げた。
「親父……よく会えた」
「―――なぜ俺に敵対する?」
「そんな風に見えるか?」
「お前も戯れるか……」
「人の話も聞かないでよく言えるぜ、このコミュ障が」
手の甲に吸い込まれていく機械の塊。
蒼き光を放つ球体を右手の甲に埋め込み、狼男は後ろを振り返ると、苦笑いと共に肩をすぼめた。
「三人とも、少し離れていろ」
土煙が晴れ、床の穴から出てくる美緒、可奈、勇を横目に、狼男は一歩前に踏み出す。
その拳を強く固め、狼はその細めた紅い瞳の向こうに敵を捉える。
「……親父まだあんたには聞きたい事がいくつかあるんだ」
「―――答えないさ」
「だろうな」
刃と共に飛び出す影が一つ。
――――キィイイインッ
風と共に振り薙いだ刃が二つ、眼前をよぎるままに、狼男は身体をよじって突進する健二の一撃を避けた。
「怖い怖い……」
「むかつくな、息子よ……」
二振り目は耳元を掠め、狼はニヤついた口元を帯びつつ、刃を振るう健二の懐に潜り込んだ。
そしてソッとわき腹に掌を押し付ける―――
―――激しく震える空気。
ドォオオンッ
ドラム音のような衝撃が走ると共に、大きく健二の身体がくの字に曲がり、血反吐を散らしながら後ろに吹き飛んだ。
手から零れて床に転がる一本の刀。
柄に食い込む鋭い爪。
駆ける狼の手に一振りが握られ、健二は後ろに飛び退いて立ちあがるままに、振り下ろす一撃から構えた。
そして鍔で狼の刀を受け止めようとする―――
「なぁ親父……!」
―――パキンッ
根元から折れる刃。
驚愕に目を剥く健二の手元から刀の柄が零れおちるままに、鋭く刃が振り下ろされて切っ先が地面を抉る。
「……バカ力が……!」
風を斬り、返す刃。
振り上げた刃が、反らした胸元を僅かに袈裟に撫でるままに、血飛沫が僅かに飛び散った。
顔をしかめつつ、後ずさる先には駆けよる狼男の姿。
腰に差したナイフを一本、申し訳程度に構えると、健二は夕の剣撃を紙一重でかわしていく。
「くぅううう!」
「親父はなんで俺をこんな身体にした!」
「うぬぼれるな! お前は元々そうなるために生まれた! お前は元々がそんな身体だ、たかが道具が図に乗るなよぉ!」
「―――俺も、その程度の命か」
「愛が欲しいとほざくか、ガキが!」
「言っちゃ悪いか?」
「気持ち悪いんだよぉ!」
―――肩に浮かぶ刃の痕。
風を斬る鋭い音色。
血飛沫が尾を引き、振り薙いだ刃が壁を抉るままに、狼は気まずそうに顔をしかめ後ずさる父親を睨む。
ボトリと床に落ちる肉の鈍い音。
歩み寄る狼のつま先にあたるほっそりとした片腕。
肩の滑らかな断面が露わになり、滴りすら上げず、健二は息も絶え絶えに恐る恐る肩の断面を抑えた。
「お前は……お前達は、俺の言う事を聞けばよかったんだよ!」
「……いやだね」
「人形が今更に自我を持つ―――なんで俺の言う事を聞かない、そこの役立たずのウドの大木も貴様も、出来そこないのクローンも、貴様もぉ!」
「悪い、俺も人間なんだよ……ただの人間さ」
「気持ちの悪い物言いをする、木偶が人間のふりをするなぁああ!」
「言いたい事はそれだけか?」
「この世界に何がある! 言い残す!? 戯言も大概にしろ、こんな世界、こんな一人の人間に振り回されるだけの生き方!
お前に、お前達に俺はこれからも振り回され続ける!
気に入らない、気に入らない! 消えてしまえぇえええええええええええ!」
「お袋に一言言えよ」
「シネぇええええええ!」
「―――じゃあな」
虚空を走る刃の軌跡。
鋭く引き抜いた腰の刀は優しく男の首を撫で、もう片方の刀はその胴元に一筋の斬痕を刻みつけた。
踊るように、獣は長い尻尾を翻す。
スゥと踵を返し背中を向け、狼はゆっくりと二振りの刀を振り薙ぐ―――
「……親父……あんた辛かったんだな」
ピシャッと弾ける血飛沫。
ポタリと刃の先から滴る血潮。
紅い滴りが飛び散ると共に壁に真っ赤な一文字が浮かび上がり、振り抜いた刃がピタリと止まる。
そして狼は二本の刀を腰に収め、踵を返せば、そこには崩れ落ちる肉の塊。
―――殺してやる……殺してやる……
コトリ……
悲痛に歪んだ男の顔が一つ、寂しげに微笑む黒き狼のつま先に当たる。
そして脚が切り刻まれ、胴が十に分割され、腕が宙を舞い、鮮血一つ上げることなく、肉塊が床に崩れ落ちた。
―――殺して……コロシテ……
転がり広がって、踵を返す狼男の背中を追いかける。
そして床に開いた穴に落ちている。
―――コロ……
消えていく――――
「健二よ……」
「親父さん」
「――――よくもやってくれたな、夕君」
そう言って少し表情を曇らせる鷲人。
その背後には残党処理を始める仲間の姿が見え、狼男はため息交じりに肩をすぼめ目を背けた。
「どの道、決着付ける気なかったんだろう?」
「だから言おう、ありがとう……」
「渋い面しやがる。俺の前でまたソレを見せたら、親父の代わりに斬り殺してやる」
「―――重々承知した!」
そう言って声高々にそう告げる鷲人に、狼男は煩わしそうに尖った耳を垂れると周囲を見渡した。
そこには駆けよってくる勇と美緒と可奈の姿。
安堵にため息が漏れ、夕は三人を手招きすると、ギュッと抱きつく三人の髪を優しく撫でた。
「すまんな。少し寄り道してしまった」
「ううんっ、夕君すっごく格好良かったッ!」
「だろ」
「―――私の武器使ってくれないの、夕……?」
「アレは少し大ぶりすぎる、広い所じゃもっと有意義に使うさ。それにお前の武器はいつでも一緒だ」
「……うんっ」
「―――悪いな、勇。親父、殺してしまった」
「うん、でも兄ちゃんは生きてるッ」
「……ありがとう」
抱きつく三人の髪を優しく撫でると、黒き狼男は三人から離れて腰に二本の刀を捩じりこんだ。
そして踵を返すままに、見上げる鷲人に紅い瞳を細め、狼は口を開く。
「―――お袋の死体はあるか?」
「アレはオルティスと共にいるのだろう」
「なぜ?」
「狂っている、ということなのだろう。彼女には彼女なりの考えがあるのだろうが」
「?」
「―――さて、オルティスがこちらに来ていると嬉しいのだがな」
そう言って穴だらけの白衣を翻すと、腰に巨大な二丁拳銃を捩じりこむと、鷲人はため息もそこそこに背中を向けた。
「偵察!」
そして敵兵を処理していく仲間を見下ろせば、そこには駆けよってくる兵士が一人。
「所長、数名の敵影がビルの地下に赴いているのをソナーで確認しました」
「上々だ。……では行こうか、王よ!」
「おう」
「アナトリウスが呼んでいる―――シュトゥルフを始めとして、暗き者どもを迎えに行かんとな」
「シュトゥルフ?」
「いやでも相見えることになろう、さぁ行こうか王よ」
この散発的にエピいれるだけ入れて伏線張らない回収しないという癖はどうにかならんものかね(戒め)




