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転生王女は推し活したい!~推しである婚約者になかなか会えなくても、グッズ作って活動します~  作者: 東風香


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52 春霞の約束

翌朝、メアリーが身を整えて食堂に向かっていると、遠くから呼びかけられる。


「メアリー姉上!」


声のする方向に顔を向けると、そこには東部にいるはずのイシュタルが手を振っていた。彼は少し疲れた様子はあるものの、軽い足取りでこちらに近づいてくる。


「あら、エル様の代わりにイヴァナにいたはずでは?」

「昨日の夜更けに首都に着いたんです。姉上の出発前に間に合ってよかった。」

「私のために?ありがとう、イシュタル。」


子犬のような彼の様子にメアリーは目を細める。


「兄上と姉上の婚約が認められたと聞いたよ。これで兄上も落ち着いて、シェレンディアも安泰かな。」

「もう、イシュタル何を言っているの。」


メアリーは恥ずかしさを隠すように彼の肩を勢いよくと叩く。


「姉上、痛い、いたいよ。」

「イシュタル、お前は自分のことを考えた方がいいと思うが。」


その声に目線を上げると、食堂の扉からエルドレンが顔を出していた。2人のはしゃぎ声が中まで聞こえていたようだ。


「……あれはどうにもできませんよ。」

「ああ、どちらかと言えばイシュタルは母に似ているからな。」


メアリーが首をかしげる。


「メアリーは気にしないで。さあ、みんな待っているよ。」


エルドレンが扉を開くと、食堂には皇帝も皇后もすでに席に揃っている。


「揃ったね。」


皇帝の威厳のある低い声が響く。号令をかけられたようにメアリーとイシュタルは慌てて席に着いた。


「エル、ラウスト国王から婚約が認められたそうじゃないか。よかったな。」

「こんな平和裏に娶ってくるなんて、驚いたわ。」


他人事ではあるが、あんまりな言われようだ。


「前科がありますから。」


エルドレンはちらりとこちらを見る。その話、前にもしていたことがあるけどなんのことだろう。聞きたいような聞きたくないような。ただ、表立って話題にする勇気はない。


「本人が良いのであろう?」


皇帝に視線を送られて、メアリーは愛想笑いを返す。


その後は、事務的な会話が続き、2人の結婚はシェレンディアの雪解けとともに開催される太陽祭の場で公表されることとなった。



「あれ、ラウル様?」


王宮から港に向かうため馬車に乗り込もうとする2人を、彼はウェーブのかかった薄い茶髪を揺らして出迎える。


「メアリー様、お久しぶりです。」


差し出された手に、メアリーも応じる。


「こちらの護衛のために出迎えてくださったのですか?」

「半分正解です。私はエルを迎えに来たんです。」


ラウルの話から、エルドレンはメアリーを港まで送った後、直接東部まで向かうようだ。


「確かに私はエルの部下ですけど、昨日イシュタル君を東部から首都に送り届けたと思ったら、今日には東部にトンボ返りですよ。メアリー様もひどいと思いませんか?」


彼は手を広げて大げさな表情を作ったかと思うと、指を鳴らす。


「そうだ、メアリー様も一緒に東部に行きましょうよ。確か、ハルヴァはお好きでしたよね。」

「ハルヴァって何かしら?」

「昨年の冬にメアリーにお土産として渡したお菓子だ。」


メアリーの疑問にエルドレンが即座に応える。


「へぇ、あのお菓子ハルヴァって言うのね。とてもおいしかったわ!」

「そうでしょう、東部に行けばいくらでも食べられますよ。」

「そうしたいのはやまやまなんだけど、私が行っても邪魔になるでしょうし。」


ラウルとメアリーは面白くない顔をしているエルドレンにも気が付かず、2人で盛り上がる。


「ラウル、その話は終わりだ。」


エルドレンはいつか見た冷たい青い瞳でラウルを見つめていた。ただ、彼らにとってはいつものことなのか、ラウルは怯む様子もない。


「えー、エルもついて来てほしいですよね。」

「……。」


着いて来て欲しいとは言ってくれないんだ。メアリーは視線を落として、玄関アプローチの立派な石畳を見つめていた。


「あ、エル、先に行かないで。」


ラウルの声を無視して、メアリーの手を引くエルドレンは馬車までの歩みを進める。


「本当は連れて行きたいよ。」


メアリーには彼の背中しか見えず、エルドレンの表情は読めない。メアリーは黙々と彼についていく。


「ずっと隣で笑っていて欲しいんだ。」


その声にメアリーが視線を上げると、銀髪から覗く耳は少し赤く染まっていた。


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