28 カヴァリア連邦取材旅行
シエナ王妃の協力もあってか、ブレスレットは売れに売れ、令嬢用に扇子に着けるアクセサリータイプまで作り出した。これなら鉄道の支援金も余裕で用意できそうだ。
メアリーは懐から一通の手紙を取り出し、馬車の対面に座るサラに差し出す。
「エル様からの手紙なの。」
「ふーん。私なんかが中身を見ていいのかしら。」
サラはその細い指で受け取ると、遠慮がちに便箋を開く。
「ここを見て。」
メアリーが指さした箇所にはエルドレンの美しい字が並ぶ。彼はその美貌に違わず、ラウスト語もさらさらと書き連ねていた。
「『最近は首都モレスティワの集会所で何者かによる襲撃事件が起きている。メアリーが攫われた冬の事件の模倣犯や愉快犯なのかもしれない。』ね、襲撃事件なんてそんなこと起こったかしら。」
サラは不思議そうに首をかしげる。
「サラも知らないの?」
「そうね、民衆が革命を起こすために集会所に集まるイベントはあった気がするけど、少なくとも私のプレイ経験ではその事件はなかったわ。この書きぶりだと、シェレンディア軍部が突入して革命を防いだって訳でもないでしょう?」
サラは第1部をプレイしすぎて第2部の記憶はほとんどないと言っていたが、とりあえず戦線を広げすぎないことと、お金を稼ぐことを目標にしていれば、第2部はクリアできるはずとのアドバイスをしてくれた。
「なんだか不穏だわ。」
「まあ、メアリー様。せっかくここまで来たのだから楽しみましょうよ。飢饉が起こっても2年後の夏なんだし。」
メアリーが浮かない顔をしている横で、サラはうきうきとした表情を隠そうともしない。
馬車の窓から抜ける初夏の風が2人を撫でる。すでに夏真っ盛りと言った暑さだが、ここはラウスト王国よりもカラッとした気候のためか、想像よりも過ごしやすい。
昨年、王立学院に留学していたカヴァリア連邦第一王子ハルラム・カヴァリアから、友達と一緒に連邦へ遊びに来ないかと手紙もらっており、目下の問題が解決したメアリーは小説3作目の取材旅行として、聖女サラは舞台の販促活動を行うためにここカヴァリア連邦までやってきていた。
最初の数日は首都のホテルに滞在していたが、今日からは王子の厚意に甘えて連邦の王宮に滞在させてもらおうと、今は2人で王宮に向かっている。
しばらくすると馬車が止まる。開いた扉から見える敷地内はどこも純白で、その白さに反射した太陽光で目がやられてしまいそうだ。
「やあ、遠路はるばるよくやってきたね。」
視線の先にはハルラム第1王子がいた。彫の深い美しい顔に艶のある黒髪、濃紺の瞳の中で煌めく光彩は今も健在だ。昨年よりもどこか表情に余裕が見られ、大人の魅力を感じさせる。
彼がラウスト王国からの留学から戻ってきた後、父の療養のため、再び政務の中心を担っているというから、その重圧に耐え、国を動かしてきた自信からなるものだろうか。
「どうぞ、メアリー王女。」
差し出されたハルラムの手をとり、メアリーは白磁のような地面に降り立つ。
彼は学院にいた時ですら豪奢な身なりをしていたが、今はその時以上に細かな刺繍と一つ一つ縫い付けられた宝石が散りばめられた服を身に纏って、陽の下では直視できないほどの輝きを放つ。
「より大人っぽくなられましたね。」
ハルラムにそう声を掛けられながら、王宮の中までエスコートされる。昨年の冬に13歳になったメアリーは少し背が伸びて、出会った時よりも2人の目線が合う。何だか気恥ずかしくなり、誤魔化すように口を開いてしまう。
「あの、サラは。」
「ああ、ラフル叔父上がエスコートするよ。父上の弟なんだ。」
嬉しそうに手を取るサラの様子を見て、彼が件の王弟なのだとメアリーは悟る。
「デュメル嬢はラフル叔父上の研究に興味があると聞いていてね。明日は二人で研究所まで行く予定だそうだよ。」
なるほど、そういうことにして王弟と二人っきりになろうという算段か。
「失礼ながら、ラフル様は婚姻していらっしゃらないのですか?」
腕を組みそうな勢いで楽し気に会話する二人の様子に、メアリーは勝手に心配してしまう。ハルラム王子ですら、事情があって婚約者がいなかったが、王弟であれば婚姻していると考えるのが妥当だろう。
「ははは、それはご心配なく。便宜上、ラフル叔父上と呼びますが、彼は私よりも年下なのですよ。確かデュメル嬢の1歳下だったかな。」
「歳の離れた兄弟なのですね。いつも思いますが、カヴァリア連邦の人々は年齢が分かりませんわ。」
メアリーからすれば、連邦の人々は皆彫が深くて、実年齢よりも年上に見えてしまう。
「そうですか。でも、私たちもラウスト王国の方々の年齢が分かりませんよ。」
「お互い様という訳ですね。」
ハルラムの言葉に、それもそうかとメアリーは納得する。彼はメアリーに足元の注意を促しながら、その妖艶な口を開く。
「さて、明日の予定ですが、デュメル嬢とラフル叔父上は予定がありますし、メアリー王女は私とデートといきましょうか。」
「でっ、デート!?」
「……冗談ですよ。でも、エスコートはさせてくださいね。」
驚いて淑女らしからぬ大声を出してしまったメアリーをよそに、ハルラムはいたずらっぽく笑うと、彼女の手に軽いキスを落とした。




