訪問者
「お菓子くれないと悪戯しちゃうぞ」
突然家を訪れた女の子が両手を前に差し出すと、濁りのない瞳を俺に向けてきた。
「はっ? お菓子? そんなのないけど――えっ? なに?」
そう言った瞬間、子供の純粋な目が上下にずれた。
可愛らしかった顔がアンバランスになって、俺は息を飲むしかなかった。
するとその子供の口が大きく裂けて、口の中身が全て見える。
ドロっとした血液が垂れて、ポタポタと玄関の床を濡らしていく。
ピンクの肉が見える口元がぐにゃっと歪むと、吊り上がるように笑う。
「アヒャ、ヒィヒィッ――いたずら、いたずらしちゃうよ〜」
ケタケタと楽しそうにするそいつの瞳が細くなり、肩が楽しそうにしゃくり上げる。
子供だったものから出た声は、酷くしゃがれていて別人とすげ変わったようだった。
なに……こいつ。
おかしいだろ。
コスプレ? それにしては精巧すぎる。
にゅるっと目がずれたし、ヒビが入るように口が裂けた。
でも、人間じゃなかったらなんだ? 怪物か? 幽霊なのか?
いや、ありえない。
ただのコスプレに違いない。
そいつを無理やり外に押しやって、玄関を閉めて鍵をかける。
「おいおい! なんだよ今のは……仮想パーティ?
コスプレ?」
そう言うのは都会のどっかでやってくれ。
「ちっ! 床、めっちゃ汚れてるじゃんか……しかも、臭ぇ……最悪だ」
床にボツボツと跡を残した、赤黒い血液のようなものから酷い臭いが漂っていた。
「はぁ……拭いておくか」
玄関に背中を預けて廊下へと体を向ける。
気持ち悪い液体を踏まないように、一足で廊下の床に片足を乗せると、一気に体を持ち上げた。
反対の足を床に乗せる。
「――いっ! はぁ!? なんだよこれ?」
鋭い痛みから足の裏を見て見れば、濁った金色の円形の物体が見えた。
「……画鋲?」
どこから?
てか、この形の画鋲とか小学校以来、久しぶりに見た気がする。
「たく……最悪だ」
ゆっくりと引き抜くと、根元の方にべったりと自分の血が付着している。
時間をかけて抜くのは辛い。
勢い任せに引っ張った。
「いぎぃっ!」
画鋲は抜けた。
だけど、変わりに肉がごっそりと抉り出される。
震える指先でその画鋲を持ち上げて目の前に持ってくると、針の先が三叉に分かれている。
それが返しのように反り返って、三つある内の一つに自分の肉がへばりついていた。
「ひぃ!」
男は反射的にそれを投げ捨てる。
裂けた靴下からはどくどくと血液が流れ続け、それがフローリングの床に広がっていく。
「――とりっく、おあ、とりーと」




