再会
忍が就職して2年が経った。
忍はまだクリニックに通っている。
その日は診察を終えて、治療費の支払いの為に待っていた。
その時、クリニックに数馬が入って来たのだ。
長身で涼しい目元、スーツを着こなしている数馬は入って来ただけで、その場に居る女性達の目を釘付けにした。
忍は動けなくなった。
頭の中が真っ白になった。
数馬はスマホを見ていて、忍が居ることに気付かなかった。
目を上げて受付に向かった時、忍の姿を目にした数馬は立ち止まってしまった。
身動きできなくなった数馬に、看護師が声を掛ける。頬を赤く染めて………。
「何か分からないことがありましたら、ご案内します。」
「………いいえ、結構です。」
忍は何故か声も掛けられず、名前を呼ばれても動けなかった。
その時、誰かがペットボトルに入っている水のような物を壁や床にかけた。
零したのではない。
わざと、壁や床にかけたのだ。
そして、直ぐに使い捨てライターに火を点けて、液体が掛かった所に投げた。
火が点いた。
その火は直ぐに天井まで燃え上がった。
忍は足に値が張ったように動けなくなった。
「忍っ!」
数馬の声がした。
すると、数馬が走って来た。
忍を抱き上げて、驚く忍に「逃げよう。」と言った瞬間だった。
火の勢いが大きくなり、皆が出口へ急いだ。
パニックになっている。
看護師は患者の避難行動を指示出来なかった。
指示出来るような状態ではなかった。
出口に人が向かう。
それは秩序が無い移動。
将棋倒しも起きる可能性がある。
数馬は自分よりも弱い者を先に出そうとしていた。
その時、爆発が起こった。
数馬は忍を、腕の中に居る忍の命を守り抜くと決めている。
自分の命に代えても…………。
忍の頭に手を遣り、忍の身体全てを自分の身体より出ないように包んだ。
猛火が迫って来ても………。
人の恐怖に満ちた叫び声が響いた。
爆風が物を飛ばした。
それが人の身体を襲った。
数馬は⦅爆発……バックドラフトだろうか……?⦆と思った瞬間、背中に激しい痛みを感じた。
痛みを感じながら、数馬は立ち上がって前に進んだ。
⦅出なければ忍が死ぬ! 出なければ!⦆
出口から出て、階段を下りた。
数馬は腕の中の忍に聞いた。
「痛いところはあるか?」
「無いわ。」
「そうか…………良かった…………。」
「数馬さんは? さっき、呻いたでしょう?」
「いいや、何でもない。」
「本当に? 本当に怪我してない?」
「してない。」
「下ろして! 私、歩けるわ。」
「危ないから………。」
「でも、重たい。」
「大丈夫。」
「でも………。」
「………………………。」
途中、消防士と会った。
「このまま下りて下さい!
もう大丈夫です。
救急も来ています。
慌てずに怪我をしないように下りて下さい!」
数馬は忍を抱いたまま1階に下りた。
ビルの出口が目の前だった。
「数馬さん、もう下ろして。」
「まだ、出てないから………。」
「もう、大丈夫よ。下ろして。」
「………ごめん、嫌だったよな。」
「………ううん、ありがとう。」
忍を下ろした数馬が救急隊員に声を掛けられた。
「貴方、背中から血が出ています。
傷を見ますので、こちらへ!」
忍にも声が掛かった。
「大丈夫ですか?
咳が出ていますね。
こちらで、少し待っててください。
重傷者から先に搬送されますので。」
「あの! 数馬さんは?」
「数馬さん?」
「私を抱いて下りてくれた男性です。
さっき、あちらに………。」
「済みません。分かり兼ねます。」
忍は不安でいっぱいだった。
数馬が怪我をしていたなんて知らなかったのだ。
怪我をして忍を抱いて下りてくれた。
それなのに……何処の病院へ搬送されたのかも分からない。
「数馬さん…………数馬さん…………。」
何度も数馬の名を呼びながら、忍の頬を大粒の涙が伝わり落ちた。




