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オール・ギフテッド  作者: パラデミコプス
第二部 第一章 異能の花

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全人類選ばれし者-オール・ギフテッド-

「しかし厄介とはどういう意味だ?」

 苑奈がコーヒーを飲みつつ言った。

「そりゃあ、現に今私たちが苦労してるし。毎日新発見や未知の現象が見つかるやらでその調査や解析で多忙を極めてるし」

「まぁそれは確かにそうだな」

「それに、フラワーがなかったら人間社会も全く違うものになってたでしょ? 文化、生活、職業、スポーツ……今は異能やそれにより発達した科学を基盤とした社会が形成されてるけど、それまで……特に黎明期の人達はとんでもなく大変だっただろうね」

「だろうな。当時の映像記録やニュース記事なんかでも旧時代からの移り変わりはよくわかる。過去に戻れるなら是非この目で見てみたいものだ」

「いるかもよ、そういう能力持ってる人が」

「タイムスリップ能力者……果たしているのかね」

「概念系能力自体レアだし居ても超地味な出力しか持たないけど……もしかしたら、遠い未来そういう人が現れるかも」

 箕鋲は目を細める。

 あの煮麼筮なら、もしかしたら出来るのだろうか。

 能力創造すら可能な彼女ならば、ひょっとしたら可能なのかもしれない。

「昔の人間社会は、こんな魔法みたいな能力なんてものは一切なくて、それこそ漫画やアニメの中だけの架空の話だったらしいよね。今じゃ、能力が無い世界なんて、全く想像出来ないや」

 箕鋲は、コーヒーカップを両手で包み込み、窓の外の景色を眺めつつしみじみと言った。

 苑奈もその歴史的見解に同意しつつ、

「ああ。それに、当時の旧人類の髪色や体毛もこんな色鮮やかなものではなかった。データベースに残る旧時代の映像記録では、精々黒、茶、金、稀に白……色素の差異こそあれど、この程度の地味なものだっただろう。瞳の色だって同じようなものだ。どうやら、これもフラワーの遺伝子組み換えが、色素細胞のメラニン生成に予測不能な影響を与えているらしいがな」

 苑奈は、箕鋲の美しい浅葱色の髪を見つめつつ、自身の鮮やかな薄荷色の髪を指でくるくるといじって見せた。周りの席で談笑する客や、窓から見える行き交う人々も、個人によって赤や青、紫など、百花繚乱のように髪の色が違う。これも、異能普遍社会においては何ら違和感のない日常的な風景。

「とは言えさ、人類の強靭な適応力も凄いよねぇ。その当時、世界中で未曾有の大パニックになったのも束の間、たった数ヶ月で当然のように異能社会という新しいシステムが定着しちゃってさ。まぁ、既存の物理法則が尽く覆って、専門書が全部ゴミになったから、各国の学者たちは新しい法則を解明しなきゃいけないって大パニックになって、過労死寸前だったらしいけど。そして今じゃ、能力自由行使法でみんな能力をモラルの範囲内で自由に使ってるし、異能と科学が当たり前の様に交差して発展してる。よくある悲観的な考えなら、漫画アニメみたいに超常の力を使ったでかい異能戦争でも起きそうなもんだけど、そういう世界規模の戦争もないよね」

 箕鋲が不思議そうに言うが、

「能力とは言っても、大半の人間が持つそれは、大概は世界を揺るがすほどの大層な物でもないからな。例えば、大学にいただろ? 触れた生卵を綺麗に割るだけの能力だったり、人差し指がたった一センチだけ伸びる能力とか。炎や冷気を操ると言っても、ライター程度のちっぽけな出力の能力の方が、統計的に見ても圧倒的に多い。まず、軍事的な戦闘に使えるレベルの強力な能力自体が、全人類の数パーセントと極めて少ないのだ」

 苑奈は、研究者としての客観的なデータに基づきそう返した。

「くひひ、私の能力もまぁ、そっちの底辺寄りだからねぇ。戦闘は論外として、日常生活でも役に立つことはなかったし。あ、でもうちの子供は、私がこれを出すとすっごく面白がってくれてるよ。私の作った波紋を、ぴょんぴょんジャンプして避けて遊んだりさせてたなぁ。それに、うちの旦那も、カフェで偶然相席になった時に、不意に出ちゃったこの波紋を見て『すごく綺麗ですね』って言ってくれたのが運命の馴れ初めで──」

「や、やめろぉ! 頼むから、これ以上私の前で、その絵に描いたような幸せな家庭の惚気話をするんじゃないっ!! 心がへし折れる!!」

 苑奈は、顔を土気色に青ざめさせ、両手で耳を塞いで必死に懇願した。

 温かい家庭の温もりや、愛する旦那とのドラマチックな惚気話。独り身を拗らせた三十路の心と耳に猛毒すぎて、物理的に吐血して死にそうになってくる。

 もし仮に、これで助手の星ヶ咲にまで素敵な彼氏でも出来て、毎日ラボで惚気話をされるようになったら、天下のドクター苑奈アゲハは速攻で心を病んで、研究室ごと自爆してしまうかもしれない。

「くひひ、いいじゃんいいじゃん。アゲハはさ、私なんかと違って、圧倒的な強能力なんだし。物質のナノテク化と自在な操作でしょ? 地位も名誉も手に入れてるし、正直、同じ科学者としてすごく羨ましいね」

 箕鋲が、またテーブルを指で軽く小突きながら言う。

 ポワン、と美しい波紋が広がり、苑奈の目前へ向かっては端に当たり、静かに弾けて消える。

「はっ。まぁ、雨古の言う通りだ。私の能力が、世界でも類を見ないほど汎用性に優れた能力なのは否定しないさ。なんなら君の能力だって、私の技術で似たような事象を完璧に再現できるぞ」

 苑奈は自尊心を取り戻し、ドヤ顔でテーブルにそっと手を置いた。そこから、輝く銀色のナノテクを液状にして放出し、微細な振動を与えて波打たせ、そして自身の生体電流から切り離されないよう極めて慎重に操作し、箕鋲のものと瓜二つの見事な波紋を作って見せる。

「うわぁー! すっごい綺麗。やっぱりいいなぁ、アゲハの能力は何でも出来て」

「ふふん、まぁ、天才たる私にとってはそれ程でもないさ」

 称賛を浴びて満足した苑奈は、哄笑しつつ、展開したナノテクを素早く体内に収納した。

「それでね、今回アゲハを呼んだ論文の件についてなんだけど。いや、まぁ学会での正式発表前だから、いくら信用してるアゲハ相手でも核心の詳しいデータは言わないんだけどさ。アイデアを丸ごとパクられたら嫌だし……」

「失礼な。私が他人の研究をパクリなど、そんな三流の真似をするわけないだろう」

「そう?」

 箕鋲が、悪戯っぽく笑ってコーヒーを飲みつつ、

「最近、一部の学者間でひそかに上げられてる仮説なんだけど。異能の出力や強さに比例して、その持ち主の性格が極端に穏やかになるんじゃないか、って意見があってね」

「ふむ。自然界において、強大な力を持つ大型生物の性格が、生存競争の必要がないため温厚で穏やかになる、と言われる事はあるが。それと同じ理屈か?」

「うん。で、その精神的な変容が、単なる環境要因ではなく、脳内の神経伝達物質に干渉するフラワーの未知の副作用によるものなんじゃないか、って話が出てね。ほら、各国の国家指定危険能力認定された、核兵器クラスの強力な能力持ちの人間だって、当人は拍子抜けするほど温厚で、闘争を好まない性格の人が多いらしいし。日本でも、破滅の剣で海を割った鹿児島の大学生とか、万物を凍らせる冷気で湖を凍らせた新潟の女子高生も温厚な性格の持ち主だったらしいし。……最近東京を騒がせた、校舎をお菓子まみれにして新しく国指認定されたっていう地女大の女子生徒は、なんか闘争心で溢れた子だったみたいだけど……人に危害を加えるテロをしたかった訳でもないらしいしね。実際、怪我人は誰も出てない。それで、もしこの説が生物学的に正しかったら、強大な力を持つ者が溢れているのに、今まで能力による世界規模の破滅的な戦争が起きなかったことの、明確な裏付けになるんじゃないかなって」

「ふむ……。確かに、その視点は非常に理にかなっているな。強力な異能による凶悪犯罪は、能力の危険度に反してそれほど多くない印象だ。寧ろ、異能により発展した現代兵器による凶悪犯罪の方が目立つ」

 苑奈は、自身の身の回りの人間を思い浮かべる。

 あの強大な天候操作の能力を持つ星ヶ咲や、そして、あらゆる異能の模倣と行使の異能を持つあの煮麼筮。

 あれほどの世界を容易く滅ぼせるかもしれない強力な能力持ちであっても、彼女らの根底にある心は、平穏を愛する小市民そのものだからだ。

「まぁ、まだデータ不足の仮説レベルだから、堂々と論文として学会に出せるか分からないけど……研究テーマとして、面白そうじゃない?」

「フラワーが脳神経に干渉し、能力の強さに比例して齎す性格の平穏化、か。実に面白そうじゃないか、私個人としてもその仮説を大いに支持するよ」

 苑奈は、すっかり冷めてしまった残りのコーヒーを一気に飲み干した。

「くひひ、ありがと。あんたにそう言ってもらえると、百人力で自信湧くよ。まぁ、こういう精神論に踏み込んだものは、どうしても数値的な信用性に欠けがちだから、説得力のある論文が書けるかは分からないけどね。ま、育児の合間に頑張って色々調べてみるよ」

 箕鋲が、充実感に満ちた朗らかな笑みを作る。

「しっかし、世間じゃ、全人類選ばれし者、オール・ギフテッドなんて大袈裟に呼んでるけどさ。なんだかんだで、洒落てるよね。この世界」

 自らもコーヒーを飲み干し、箕鋲は晴れやかな顔でそう言った。

「ああ、そうだな。退屈とは無縁の、最高に洒落て面白い世界だよ」

 苑奈も、心からの同意を示す。

 ふと窓から外を見ると、人々がそれぞれのささやかな能力を平和的に日常行使し、互いに笑い合う、異能普遍社会のありふれた日常がどこまでも広がっていた。

ネタ切れ

書きたかった話は書ききったのでここらで打ち止め

序盤のコメディのノリを続けられれば良かったのだが……

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