菓子パンデミック・幕引き
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「そ、そんなばかなぁっ! あの絶対無敗の夜美奈ちゃんが負けたっ!? しかも、あんなパリコレモデルみたいなスタイルの触手能力の美人にぃ!? 今日の地女大、色々とヤバすぎるよぉ!!」
地雷系女子大の広大な校舎の屋上に、割れんばかりの大声がスピーカーを通したように響き渡った。
昼間、柄長と威乃森の能力戦をそれっぽく解説する能力を用いて実況解説し、場を盛り上げていたポニーテールの一年生、夜井出葉琉依の絶叫。
「葉琉依ちゃんの解説、今日はいつもより一段とキレッキレに冴え渡ってるねぇ。そりゃ、こんな前代未聞のお菓子のパニックと、怪獣大決戦みたいな大勝負が立て続けに起きれば当然かぁ」
その隣で、面白そうに目を細めてそう言ったのは白高羂茘。同じく昼間、水と同化する能力を悪用してキャンパスの噴水の水に潜み、柄長を心臓が止まるほど驚かせるというタチの悪いイタズラをした三年の生徒。
「あ、あああ……な、なんなの今日は……私の電撃より全然強いめちゃくちゃな電気使いの子に、あの学園最強の莎我を負かしたヤバそうな女まで……」
さらにその奥で、淡黄色の豪華なポニーテールを揺らし、お嬢様の風情を漂わせる二年の威乃森朋美が膝をついていた。
昼間、柄長に同じ電気使いとしての誇りを懸けて勝負を挑むも、手も足も出ずに完全敗北した屈辱。それだけには留まらず、入学早々、水飴まみれにされ、自分を学園の頂点の座から引き摺り下ろして来たという屈辱的な敗北を与えたあの憎き莎我が、外部から来た見ず知らずの、地女大の空中菓子を触手で乱獲して暴れ回っていた謎の女に完膚なきまでに敗北しているという現実。
己の実力に絶対の自信があったのにも関わらず、到底自分が割って入れそうにない、神々の遊びのような次元の違う現実の激闘を突きつけられ、耐えきれなくなった威乃森はその場に糸が切れたように崩れ落ちた。
「キャーッ! 威乃森様、気を確かになさって! 深呼吸を!」
すぐさま彼女の周囲を固める取り巻きの女子生徒達が悲鳴を上げながら駆け寄る。
それ以外の場所にも、広大な屋上には何百という大勢の女子生徒が、ワラワラと興奮冷めやらぬギャラリーとして隙間なく埋めつくしていた。
空中には莎我が能力の出力をフル解放して巨大菓子を乱舞させ、屋上からは昼間地女大に君臨していた禍々しい紫色の触手が天を衝くように伸び、莎我を執拗に追いかけるという、ハリウッド映画のクライマックスの如くとてつもなく目立つ能力戦を展開していたのだ。
当然、地上のキャンパスにいた生徒たちもその異様な光景に気付き、特等席でその歴史的現場を見届けようと、屋上へと我先にと集まってきていた。
「し、信じられん……あの無敵の莎我に、あんなあっさりと勝っちゃうなんて」
「筮麽ってマジで何者……? ほんとに私らと同じ人間か? あれも国家指定していいんじゃないの?」
ガーデンテーブルに陣取る西圓寺と麤月輪は、口をぽかんと開け、目の前で繰り広げられた光景が未だに信じられない様子。
「ふ、だからさっき言ったでしょ。純粋な物理戦闘能力において、うちの筮麽に勝てるやつなんて日本にほぼいないって」
柄長が、さも自分が勝ったかのように胸を張り、自分のことのように誇らしげに鼻を鳴らす。
「いや、なんで君がそんな一番のドヤ顔してんねーん」
「あてっ」
麤月輪が、すかさず柄長の頭に鋭く重いチョップを落とした。
「あーっ! あの威乃森先輩に完全勝利した、雷神の化身っ! 貴方もこの世紀の決戦をここで見てたんですね!」
「ほんとだ、小さくて可愛い電気使いの子だぁ。まだ帰らずにいたんだ~」
頭を抱える柄長に気づいた実況の夜井出が甲高い声を上げ、白高がひらひらと軽く手を振った。
「げっ。昼間のだる絡み解説の子に、悪魔の水女」
柄長が露骨に顔を顰める。
「あら……? 貴方は……昼間の生意気なサイドテール!?」
絶望に顔を伏せていた威乃森。
夜井出の大きな声で柄長の存在に気付いたのか、取り巻きを掻き分けて鬼の形相で歩み寄る。
「うわ、出た。昼間の無駄にプライド高いお嬢様の人」
嫌な予感が背筋を這い回るのを感じ取った。
「ちょっと貴方っ! こんにゃろ、逃がすかっ!」
「な、なに……? まだ私に何か用?」
「昼間の敗北は、私の体調不良と不運が重なったただのまぐれだからっ! 私の真の力を見せてあげる! もう一度、今ここで正々堂々と勝負しなさいっ!」
雷撃を放つ能力。
激昂した威乃森の全身からは、バチバチとけたたましい音を立てて高圧の黄色の稲妻が放たれ、見事なポニーテールの髪が静電気でメデューサのように逆立っている。彼女の怒りに呼応するように取り巻きの女生徒たちも「そうですともっ! 威乃森様が負けるはずありません!」と続き、柄長は腕を引っ張られ、あちこちから揉みくちゃにされる。
「ちょっ……や、やめろって! か、郝躬っ! 緋羅々っ! 助けてぇ!」
柄長は涙目で、必死に西圓寺と麤月輪の方へと助けを求めた。
だが。
「あー、どちら様でしょうか? 人違いでは?」
「ワタシ、エナガ、シラナイ。ニホンゴ、ワカラナイ」
二人は見事なまでの無表情でシラを切り、明後日の方向を見つめて完全に赤の他人のフリをし始めた。
この地女大において、威乃森は莎我に匹敵するほど執念深く面倒な権力者という認識が広まっており、正直なところこんなつまらない諍いに関わりたくは無いというのが、二人の共通認識。
「こらぁ~~!! 薄情者っ!! 裏切り者ぉっ!!」
柄長の悲痛な叫び声が、熱狂する屋上の空へと空しく響き渡った。
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そして一方の筮麽。空中で捕まえた莎我を器用に触手で引き寄せ、そっと拘束を解いてから、熱気に包まれるキャンパスの屋上へと優雅に降り立った。
「はい、私の勝ちね」
眼前で、触手を全て引っ込めた筮麽が無表情のまま少しだけ口角を上げ、ピースサインを作ってみせている。
「いやぁ、お見事です。私の完全敗北です。まさか、能力を全開放した私が手も足も出ずに負けちゃうとは思いませんでしたよ。亜鳴蛇さん、とてもお強いんですね。あの無数の触手の展開規模、神業のような精密な操作、圧倒的な出力……全てが、私の知る能力者の中で最高峰です!」
莎我は衣服の乱れを整えながら、筮麽に向けて一切の陰りのない、清々しい笑顔を作った。
「いや、君も本当に凄かったよ。お菓子だけであんなに色んな現象が引き起こせるなんて本当に凄いね。流石国家指定級の能力だ。感服したよ」
筮麽も素直な言葉で相手を賛美する。
自分は複数の強力な異能を同時発動するという、ルール違反の反則技を裏で使ったのにも関わらず、ただひとつの異能を極限まで練り上げ、あそこまで戦い抜いた莎我の才覚は、心から素直に凄いと思った。
「さっすが筮麽だっ! 信じてたぞー、アタシは最初からアンタが絶対に勝つって思ってたからね!!」
観戦に飽きたのか、屋上に直立して残っていた巨大チュロスの柱を齧り食っていた伽羅部がドタドタと駆け寄り、筮麽の首にベタベタと肩を組み、嬉しそうにゆさゆさと体を揺らした。
「まぁね。私がちょっと本気を出せばこんなものだよ」
筮麽も満更でもない様子でされるがままに揺らされていた。
「ですが、一つだけ質問よろしいでしょうか? あの時、一体どうやって私を捕らえたんでしょう? 私はあの落下地点にスポンジを出現させて着地しようとしたのですが、気付いたらスポンジではなく貴方の触手に捕まっていて……何が何だか分かりませんでした」
莎我が、敗北の理由を知るべく、純粋な好奇心から疑問を尋ねてくる。
「ん? あぁ、あれ。簡単だよ、触手を君の落下地点へ先回りさせてただけ」
あの時の攻防でしたことは、種を明かせば至極単純。
莎我が空中に吹っ飛んだ瞬間、触手を限界まで細くして巨大な蜘蛛の巣状に張り巡らせ、彼女が自らスポンジに出現させて着地するより一瞬早く、待ち構えるように彼女を捕らえ、拘束したに過ぎない。
しかし、その過程で神速で移動する能力を併用していた為、人間の動体視力を凌駕するその圧倒的な速度の前には、何が起こったのか莎我本人の認識すら追いつかず、理解できなかったのだ。
とは言え、あくまでこれは筮麽自身の持つ視認した能力を行使する能力を、全て一つの触手能力によるものであると見せかける為の、巧妙な複数能力行使の偽装。
そして、空から落ちてきた莎我の華奢な肉体に怪我をさせないように、触手をマシュマロのように極限まで柔らかく変質させ、さらに衝撃を逃がす能力も裏で同時使用するなど、相手を傷つけない最大限の配慮と計算を行っている。
多少、強力な能力をいくつか併用したとはいえ、筮麽は一切本気は出しておらず、少しばかり戯れてやっただけだ。
もしも能力の偽装という縛りをやめ、真の異能を完全に解放して容赦なく戦えば、この勝負はコンマ数秒もかからず、莎我が認識する間もなく血の海と共に決着していた。
「なるほど……! 素晴らしい、良い経験が出来ましたっ! あぁ、敗北。なんという甘美で素晴らしい響きでしょうか。己の全て、本気を出して尚且つ敵わない強者がこの世にいるなんて……。亜鳴蛇さん、貴方のおかげで、これでようやく私の滞っていた小説の続きが書けそうですっ! 本当に、心から感謝しますっ!」
自身がそんな怪物と戦っていたなどと露知らずな莎我は、感動の面持ちで嬉しそうに言いつつ、くるくるとバレリーナのようにその場で回って見せた。
人生での無敗伝説が途切れたことなど、彼女にとっては些細な問題ではない。それどころか、彼女にとってこれはむしろ望外の喜びだった。
これで、ただ主人公がチート能力で無双するだけという、起伏のない退屈な内容の小説から脱却出来る。圧倒的な敗北の絶望、そしてそこから這い上がる苦悩。この生々しい敗北の経験は、今後の小説執筆におけるキャラクターの感情描写に大いに役立ちそうだ。
「で、莎我……いや、夜美奈。勝負の約束通り、私が勝ったから君の能力の仕組みについて、もっと詳しく教えて欲しいんだけど」
筮麽は莎我の確かな実力を認め、親しみを込めて下の名前で呼ぶことにし、当初の最大の目的である能力の完全コピーをする為、彼女の能力の発動条件や詳細について深く聞き出すことにする。
「なんだ筮麽、そんなマニアックな事が知りたかったの?」
伽羅部がチュロスの粉を口の周りにつけたまま、不思議そうに首を傾げて言った。
「うん。これほど汎用性の高い能力の構造、純粋に面白そうだから気になってさ」
筮麽も、自身の能力の真実を隠しつつ適当に返す。
莎我は尊敬の眼差しで筮麽の方を見上げ、花が咲くような満面の笑みを作る。
「はい、私で良ければ喜んで! 私のお菓子を実体化させる能力のメカニズムですが……端的に言うと、私がこれまでの人生で一度でも食べたことのあるお菓子の味や構造を記憶し、それをこうやって無から具現化して、自在に動かせるという能力です。これ自体は、先程の空中戦まででお見せした通りですが」
「うん、それは見てて分かった」
莎我は優雅に両手を上げ、まるで魔法使いのように周りの空中にぽんぽこと、色とりどりのアイシングクッキーや、巨大なポッキー、板チョコなどの甘い菓子類を次々と出現させ始める。
「あ、ねぇねぇ莎我、これアタシが食べてもいい? というか食べるね」
すぐさま餌に食いつくように反応した伽羅部。
「ええ、勿論良いですよ、伽羅部先輩! 好きなだけ食べちゃってくださいっ! 作りたてですよ!」
「さっすが! 学園どころか世間様にまで知れ渡った問題児の割に、物分りいいじゃん! いただきっ!」
伽羅部は筮麽から素早く離れ、宙に浮く菓子類を野生動物のように無造作に捕まえて、バリバリと遠慮なく食べ始める。
「で、その続きは?」
筮麽は話を急かした。屋上に群がる無数の女子生徒たちが、歓声を上げながらこちらに押し寄せてくる前に、さっさと目的のコピー条件を満たしてしまいたい。
「はい。戦闘の途中でもお見せしましたが、ただお菓子の物質を出すだけじゃなくて、概念を応用すれば、甘い香りだけ、アイスクリームの冷気だけ、あるいはホットスイーツの熱エネルギーだけを抽出して出せたりもします」
実演するように、莎我の身体から甘ったるいスイーツの香りが強烈に漂い、彼女の右手からは灼熱の熱気が、左手からは肌を刺すような極寒の冷気が白く漏れだした。
「まぁ、あくまでお菓子という概念の応用ですね。特に冷気や熱気の出力は、スイーツの温度の域を出ないので。純粋な熱や冷気操作に特化した能力持ちの人達には、火力や応用性は及びません」
出現させた現象をスッと霧散させながら、自己分析の解説を続ける。
「ですが……この万能に見える能力には、一つだけ致命的な欠点があるんですよ。これ、私にとってもかなり残念で悲しいことなんですが」
「ほう?」
筮麽は、獲物を見つけた猛禽類のように目を輝かせる。
発動になにやら厳しい誓約や制約でもあるのだろうか。しかし、自身の能力としてコピーしてしまえばそんなものは関係ない。
面倒な欠点など他の能力で上書きして取り払い、自身の使いやすいように好きなように変質させればいいだけだ。
「実は……」
「実は?」
唾を飲み込む。
身構えた。
この能力の深淵たる欠点が分かれば、能力の本質を理解し、ようやくこの素晴らしい能力を己のコレクションにコピー出来そうだ。
莎我はぽん、と空中に小さなピンク色の綿飴を出し、少し悲しそうな顔をして、
「私本人は、決して食べれないんですよね、この出したお菓子」
「…………え?」
視認した能力を行使する能力。
今、この瞬間、条件は完全に満たされた。確かに、莎我夜美奈の能力の詳細を完全に理解し、その能力を自身の深層領域へと見事コピー出来たと実感した。
「いや、ほんとにすっごい理不尽な欠点なんですよ、これっ! 他の人が食べたら一流パティシエの作ったお菓子の様に美味しいのに、能力者である私本人だけは、味覚がバグったようにすごく不味く感じて、とてもじゃないけど食べられたものじゃないんですっ!」
莎我は顔を覆い、深い悲愴感を溢れさせ、身振り手振りを交えて熱弁した。
莎我のお菓子を実体化させる能力。
その能力に課せられた最大の欠点は、能力者本人は決してそれを美味しく食べることが出来なくなるという、残酷な呪いのような代償。
チョコは泥水を固めて食わされているように感じ、フワフワのケーキは食器用スポンジや粘土を噛んでいるように感じ、サクサクのクッキーは乾燥した木の皮を食べているかのように感じるなど。本人だけは、到底人間の食べ物として受け付けられない代物へと味覚が変貌してしまうという点。
幼少期より、彼女は幾度もこの忌まわしい欠点を無くそうと、能力の制御や味覚の調整など血の滲むような努力はした。だが、能力が強力に洗練されればされるほど、反比例するように菓子類の味も最悪のどん底になって行き、周りの皆は笑顔で美味しそうに食べているというのに、自身だけはそれが永遠に出来ないという、酷く苦い思いをしてきたのだ。
とはいえ、それなら菓子類は普通に買えば良い。
自給自足が出来ないならば、この能力は完全に戦闘用や移動用のツールとして割り切れば良いし、その地獄のようなクソマズ菓子の味の経験を参考に、自身の執筆する異世界ファンタジー小説で、その世界のゲロマズなモンスターの肉などの食材を描写する貴重な参考資料にするなど前向きに考えることにしていた。
「な、なるほど……そういう、ことか……」
念願の能力をコピー出来たは良いものの、筮麽は酷く落ち込み、項垂れた。
確かに、自身の持つ異能なら、他から模倣した能力の性質を都合よく改変するなど朝飯前だ。視認した能力を行使するというのは、ただ模倣した能力を行使するのではなく、こうして自由に混ぜたり変質させるというのが真の性質だ。しかし、この能力の根源である<味覚の代償>という、根幹に関わる概念部分を無理にいじればどうなるか。
このバランスの取れた能力が崩壊し、生ゴミのような悪臭を放つスイーツや、でろでろに腐敗して溶けたスライムのような謎の物体しか出せなくなるという、大災害級の汚物生成能力に変質するであろうことは、これまでの長年の能力改変の経験から容易に予想出来る。
ほぼ万能に近い筮麽の能力だが、世界の理の全てが自分に都合よく行くという、神のような全能とは限らないのだ。
「う、うん。まぁ……えーと、その、なんだ。出力規模も凄まじいし、応用はめちゃくちゃ凄く効くから……うん、良い能力だと思うよ、うん……」
魂の抜けたような虚ろな目で適当に相槌を打った。
わざわざこの騒がしい地女大にまで出向き、当人と命懸け(向こうだけ)の能力戦までしたと言うのに、最大の目的であった<国家指定危険能力者から能力をコピーし、何時でも何処でも美味しいお菓子を無限に食べる>という野望は、最も残酷で最悪の形で打ち砕かれたという結末。
まさに、徒労。骨折り損のくたびれ儲け。
「まぁ、能力の代償、こればっかりは仕方ないですけど……それより亜鳴蛇さんっ! 先程の貴方の素晴らしい触手能力についても、是非詳しく教えてくださいよっ! 鋭利なだけじゃなくて、極限まで柔らかく変質したり、無数に分裂したり、形やサイズが自由自在だったり……世にも珍しい、三つ以上の属性を持つ多重属性ですよね? 是非、亜鳴蛇さんの能力も詳しく教えて欲しいですっ! 今後の小説執筆の、最強のモンスターの参考にするのでっ!」
莎我がホロフォンを起動し、興奮冷めやらぬ様子で目を輝かせる。
こうして自身の強さを素直に、手放しで褒められるのは、筮麽にとっても決して嫌なことではなく、好ましいことだ。
せっかくコピーした能力は本人用としては全く使い物にならない残念なことになったが、まぁ、今まで好きなだけ美味しいお菓子をタダで食べさせて貰った礼だ。彼女の尽きない質問攻めの話に、少しだけ付き合ってあげることにした。
「うん? あぁ、いいよ。別に隠すことでもないし。私のこの能力はね──」
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「は、はひぃ……嘘だ……私の能力の、完全な上位互換……」
「キャーッ! 威乃森様ーっ! しっかりーっ!」
「ま、こんなもんかな。出直してきな、お嬢様」
そんな屋上の端では、またしても柄長が威乃森相手に、残酷なまでに完膚なきまでの勝利を収めていた。
流石にこんな人口密集地の屋上で、本気の高圧電撃勝負をド派手にする訳にも行かない。
そこで柄長は、電波でテクノロジーを操る能力の一端を見せつけることにした。
電気の操作と、テクノロジーへのハッキング操作という、強力無比な二重属性。柄長が頭部から微弱な電波を放ち、ちょっぴりと自身のホロフォンを能力により起動させて見せ、インチキと騒ぎ立てる威乃森のホロフォンも遠隔操作してみせ、強制的にアラームを鳴らすなどの芸当を見せると、即座に威乃森の顔は血の気を失い青ざめた。
ただ単に物理的な電撃を放つだけの単一属性の威乃森では、到底出来るはずもない繊細かつ凶悪な芸当。
追い打ちのように、柄長にニヤニヤと意地悪く笑われながら、周囲の電子機器を意のままに操作する神業を見せつけられ、自身の能力が彼女の能力の前にあっては児戯に等しい<完全上位互換>の前にひれ伏すしかないと気付かされ、威乃森は即座に白旗を上げ敗北を認めた。
「す、凄すぎるぅっ! 電気だけじゃなくて、現代のテクノロジーすら意のままに操るなんて……柄長さん、能力の汎用性が規格外すぎますよぉ!! しかも自分の能力の完全上位互換かつ、一日に二回も手も足も出ずに負けちゃった威乃森先輩の立つ瀬が、もう学園のどこにもなくなりましたーっ!!」
「はうあっ……!! や、やめてぇ……!」
夜井出が容赦のない熱い実況解説を振るうが、威乃森は完全に能力者としてのプライドと自信を消失し、またもや地面に崩れ落ちてしまった。
「やっば! ともみん、完全に心折れてしおれてるぅ! ウケる!」
「すごいすごい! なにその能力、チョー便利すぎてマジでウケるんですけどー! 私のホロフォンの充電もしてー!」
「いやぁ~、それほどでもぉ……。まぁ、私にかかればこんなもんよ」
周囲を取り囲むギャラリーの女生徒たちに口々に褒めそやされ、柄長は分かりやすくデレデレとにやけ面を作り、くねくねと照れくさそうに身を捩らせた。
「……柄長って、褒められるとあんなチョロいんだ」
少し離れた安全地帯のベンチで、すっかりギャル達から人気者になり、ワッショイワッショイと胴上げされている柄長の情けない姿を見つつ、麤月輪は呆れの混じったため息を零した。柄長のその残念な一面をよく知る横の西圓寺は、タバコを吹かしながらうんうんと深く同意する。
「ねぇねぇ、その触手能力、構造どうなってんの!? マジで凄すぎするだけど! 触らせて!」
「ん、他にもこんなこと出来るよ、色変えたり、硬くしたり……」
「すげーっ! キモイけどうつくしー! めちゃめちゃレアな三つ以上の多重属性!? 初めてみたぁ!」
「てかホントに背高っ! 百九十あるんじゃないの!?」
「知り合いの紫吳ってやつくらいありそう」
「あの無敵の夜美奈ちゃんに勝っちゃうなんて、ヤバすぎでしょ! サインください!」
筮麽の方にも大勢の生徒が押し寄せ、もはや学園祭の出し物のようにその触手能力お披露目会となっていた。
すっかり地女大の屋上は、凄惨なバトルの跡地から一転、お祭り騒ぎで賑わっていた。
「ねぇー、せっかくだしさ。このままここで、みんなでお菓子パーティの二次会しないー? ほら、美味しいお菓子出せる莎我もいる事だし!」
巨大な板チョコを齧っていた伽羅部が、持ち前の陽の力で提案した。
「おっ、なら私の出番ですね、任せてくださいっ! 今日は最高の勝負が出来て大満足の一日だったので、皆さんの好きなリクエストのお菓子を、限界まで出してあげますよっ!」
莎我も、敗北のショックなど微塵も感じさせず、嬉しそうに叫んで両手を広げた。
その後の、屋上での狂乱の菓子パーティ二次会は、もうめちゃくちゃにカオスな盛り上がりを見せた。
柄長は持ち前の適応力で地女大生徒ともすっかり打ち解け、夜井出や白高らといった曲者たちと一緒に出された高級お菓子をたらふく食べた。
そして、この学園を恐怖に陥れた筮麽と一緒に来たということを知った生徒たちは、皆「とんでもない最強コンビが地女大に来た」と目を丸くして驚愕し、さらに彼女たちが長野県の、ネットの掲示板発祥の架空大学から現実化した国際信州学院大学に通っているというトンチキな事実を告げると、そのギャップに皆は大いに腹を抱えて爆笑した。
そして、パーティも中盤。柄長が少しだけ気になっていた、莎我の執筆中の小説お披露目朗読会が鳴り物入りでなされたのだが……。
これがもう、見るに堪えないほどめちゃくちゃにつまらなかった。
本人が心の底から楽しんで、情熱を注いで書いているのは文章から伝わってくるものの、内容はどこかで見たような使い古された異世界転生テンプレをなぞっているだけで、文章の構成も設定の矛盾も酷いもので、とてもじゃないがシラフで読める代物ではなかったのだ。
屋上の空気が凍りつき、みんなが気まずそうに微妙な反応で愛想笑いをしている中、莎我一人だけは、自身の才能を信じて疑わず最後まで自信たっぷりであったが。
そんなこんなで、二日に渡ってキャンパスを揺るがせた波乱に満ちた菓子・パンデミックは、甘い匂いと笑い声と共に、ようやく平和な幕を下ろした。




