表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/154

八十話 勧誘と謎の企み


「言っていることが難しくてよく分かりませんが要するにイメージした場所へ自在に移動できる魔術ということですか?」

「少し違うけど概ねその認識であってるわ」


突然目の前に現れた理由を聞いたアルレルトは何とかイデアの説明を自分なりに解釈し、正確に理解できていた。


『空間転移魔術って消費魔力が割に合わないから《空魔》以来使い手がいないって聞いてたけどイデアは相変わらず化け物だね』

「アーネ、それって絶対に褒めてないわよね?」

『もちろん』


にべもなく頷いたアーネにイデアはため息を吐いた。


「消費魔力に関しては確かに普通の魔術に比べたら多いけど転移する場所を正確にイメージできれば消費魔力は減らすことはできるし、私の魔力量なら最低でも十回は転移できるわ」


その言葉を聞いてアルレルトはイデアが空間転移魔術を習得した理由に気付いた。


「危険な状態に陥った時にイデアが入ればすぐに安全圏へ逃げることができますね」

「ええ、あとはその安全圏を作らないといけないわけだけどはその話はおいおいね。というかここは治療院よね?、どうしてアルがここにいるの?」


空間転移に関する話を終わらせたイデアの質問にアルレルトはニュクスと戦い、致命傷を負ったがサルース先生に助けられたことを説明した。


「そう、ニュクスと戦ったのね。アルとアーネが無事で良かったわ」


イデアは一瞬表情を曇らせたが、すぐに元に戻って二人を労った。


「ニュクスも無事ですよ、つい先日退院しました」

「ありがとう、アル。彼女はとても手強かったでしょう?」

「はい、死にかけましたが彼女に助けられたのも事実です。それとサルース先生のことですが、彼がイデアがレーベンに来る前に話していた治癒師(ヒーラー)ですよね?」


確認の意味を込めたアルレルトの言葉にイデアは小さく頷いた。


「やはり、イデアの諦めの悪さは知っています。ちょうどいい機会ですから今から勧誘に行きますか?」

「そうね、事故とはいえたまたま治療院に来たし、彼を誘ってみましょうか」


イデアが何を言っても勧誘を諦めないのはアルレルトは身をもって知っている。


サルースにとっては迷惑かもしれないが、アルレルトはイデアと共にあると決めているのだから。


◆◆◆◆


サルースは院長室にいるというのを近くにいる職員から聞いたアルレルトたちは院長室を訪れた。


「どうぞ」


ノックをして彼の返事を待ってから入室すると、サルースは何やら作業をしていた。


「お仕事中失礼します、サルース先生」

「久しぶりね、先生」


顔を上げたサルースはイデアを見るなり、目を見開いて驚いていた。


「イデア君、噂では聞いていましたが本当にこの街に戻ってきているとは…」

「甚だ不本意だけど仕方なくよ、先生」


イデアが吐き捨てるように言うと、サルースは目を細めた。


「実にイデア君らしい言葉だ、立ち話もなんだから座りたまえ」


サルースに促されて、アルレルトたちはソファーに腰掛けた。


「単刀直入に言うわ。先生、私のパーティー《ゼフィロス》に入ってくれない?」


イデアは右手を出してサルースを正面から勧誘した。


「イデア君、それは本気で言ってるのかい?」

「もちろんよ」


サルースの言葉には驚きというよりも困惑が強いような気がした。


「私は君の親友を、レーネ君を助けられなかった治癒師(ヒーラー)だ。どうしてそんな人間を仲間に迎え入れようとするんだい?」


「!?」


アルレルトはサルースの言葉に衝撃を受け、彼の質問にイデアがなんと答えるか待った。


「レーネのことで先生のことは恨んでないわ、それにこれはレーネの意思でもあるのよ。治癒師(ヒーラー)を仲間する時は先生を誘おうと二人で決めていたわ」


「私たちの夢を叶えるには先生が必要なのよ!、お願い、私の仲間になって!」


熱意と情熱が篭ったイデアの右手をサルースはかつてのアルレルトのようには決して拒絶しなかった。


「喜んで君たちの仲間になろう」


笑顔でサルースはイデアの右手を取るのだった。


◆◆◆◆


「意外でした、サルース先生がこうもあっさりと仲間になってくれるとは」

「そうかい?、伊達に長生きはしてないからね。後進の育成は済んでいるのさ。だからこの治療院が破綻することは無いから安心してくれ、アルレルト君」


「それにイデア君とは長い付き合いでね、彼女が幼い頃セレジアに面倒を見るように頼まれたからね。冒険にだって頼まれればついて行くよ」

「セレジア?」


また出てきた初めて聞く名前にアルレルトが首を傾げると、サルースは可笑しそうに頬を緩めた。


「はは、そうか。超有名人なんだけど魔術師じゃない君は知らないか」

「"セレジア・エストレア"、《極彩》と呼ばれる最強の魔術師にして先代の《双杖》よ。私に《双杖》の地位を押し付けた最低な人間でもあるけどね」


最後にトゲのある言葉が付け足されたが、イデアが使った最強という言葉がアルレルトは気になった。


「最強の魔術師ですか?」

「魔術戦闘能力以外全部かなぐり捨てたような人なのよ、今でも結婚したことが信じられないわ」

「セレジアも一人の女性だったということだよ、どれほど力の持った魔術師でも人間であることには変わりないのだからね」


微笑むサルースにイデアはどこか居心地悪そうにそっぽを向いてしまった。


「彼女のことはまた後で話すとして今すぐに君たちについて行くのは難しいということは理解してくれるかな?」

「もちろんよ、後進がいたとしても先生は唯一無二の存在だもの」

「いや、それだけではないんだ。実は先程《魔術卿》が私の元を訪れてね」


瞬間、イデアの怒気と殺気が膨れ上がったが、話を止める気はなかったのかすぐに霧散した。


「彼に娘の説得を頼まれた、とても頑固で塔に引きこもって出てこないから出てくるように説得して欲しいとね」

「先生はもちろん断ったのよね?」

「そんな怖い顔で睨まないでくれ、イデア君」


父親の話題に関しては過敏に反応するイデアに苦笑しつつイデアの問いには頷いた。


「断ったよ、《双杖》が魔術の研究の為に塔に引きこもることは珍しくないからそっとしておけと言ったよ」


「だが断ったあとの彼の態度がどうにも気になってね、彼は私に断られたのにも関わらず笑顔だったんだ」

「どうせ、ろくでもないことを企んでるに違いないわね、でもそれじゃあ確かにすぐには離れられないわね」


顎に手を当て俯き、思案したイデアはすぐに口を開いた。


「アル、先生の護衛をお願いできないかしら?」

「構いませんよ、ネロも呼んではどうでしょうか?」


「ネロ君?、あの小人の冒険者も君たちの仲間なのかい?」

「えっ、先生はネロを知ってるの?」

「ああ、前に孤児院で会ったよ、彼女はどうやら孤児院を気に入ってるみたいで毎日来てると聞くよ」


ネロが孤児院に通いつめているとは知らなかったアルレルトとイデアは思わず顔を見合せた。


「それなら無理に呼び出すこともないですね、サルース先生の護衛は俺とアーネだけでも大丈夫です。イデアはどうするのですか?」

「私は抗争を終わらせるわ、そのための種はもう撒いてあるから」


自信を覗かせるイデアをアルレルトは頼もしく思った。


「さすがイデアですね、勝算はあるのですね?」

「あるわ、これは私の推測だけど高い確率でここ数日以内に大規模な衝突が起きるわ、その騒動に紛れて私は行動する。それとアルと先生に頼みたいことがあるの」


イデアのお願いにアルレルトはすぐさま了承したが、サルースは憂慮を携えた顔で懸念を口にした。


「それならば最初から私が行った方がいいと思うが?」

「ダメよ、敵の戦力を分散させる意味でも一ヶ所に集まらないがいいわ。それに先生には私の仲間を信じて欲しいわ」


信じて欲しいというイデアの言葉にサルースの表情から、憂慮は消えなかったが頷いてくれた。


「イデア君の言葉を信じよう」

「ありがとう、先生」


感謝を口にしたイデアは微笑みを浮かべて、すぐに真剣な表情になった。


「これでレーベンとのしがらみは全部断ち切ってやるわ。皆を信じてるから」


力強く信頼してくれるイデアにアルレルト、サルース、そしてアーネは共に頷くのだった。

面白いと思ったらブックマークとページ下の星評価、いいねを貰えると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ