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四十八話 交渉と実力試し

あけましておめでとうございます。


若いとはいえ絶世の美少女であるイデアに切羽詰まった表情で頼まれた門兵は急いで中へ取り次ぎに行ってくれた。


「名演ですね、イデア。初対面でしたら俺でも騙されてます」

「ずる賢い友人が教えてくれた詐術よ、私も何度も騙されたわ」


イデアが儚げな表情で語ったので、初めて見るかもしれない表情にアルレルトは一瞬言葉を失った。


勝気で快活な少女であるイデアがこうした儚げな表情を見せたことに心音が高鳴るのを感じながらも、アルレルトは少し踏み込んでみることにした。


「その友人はどんな人なのですか?」

「ん?、とても頭の良い子だったわ。私だけじゃなくても賢者フルルもよく困らせてたわね」


どこか懐かしそうに話すイデアの様子からその友人は既に故人であることが分かったが、アルレルトは何も言わず聞き入った。


「繊細な魔術の使い方が得意で私に夢を与えてくれた人よ」

「イデアに夢を与えてくれた人ですか、俺としてもその方には感謝しなければ行けませんね」

「ふふ、アルみたいな素直な人とずる賢いレーネの相性は案外良いかもね」


心底楽しそうに話すイデアにつられて自然と笑顔になるアルレルトはもう少しイデアと話したかったが、取り次ぎに行っていた門兵が戻ってきた。


「領主様と閣下はすぐにお会いになるそうです」


門兵の言葉に従って巨大な領主館に入ると、門兵と入れ替わって執事が案内をしてくれた。


ヴィヴィアンを門の前に待たせて、前にグラール伯爵家の館を訪れたのと同様にアルレルトは剣をイデアは杖を執事に預けて、応接室に入室した。


「よお、昨日ぶりだな、アル」

「はい、そうですね、レオ」


応接室に入るとソファーに座る金髪碧眼の偉丈夫、レオンが片手を挙げて声をかけてきたので、同じように手を挙げて答えた。


「《双杖》殿とはギルドで会った時以来だな」

「…あの《金獅子》に覚えてもらえて光栄だわ」

「そう思っているのならもう少し声音に感情を込めて欲しいな」


全く嬉しく思っていないことを見抜かれたイデアは一瞬眉をひそめたがすぐに笑顔に変わった。


「私は貴族という生き物が嫌いなだけだから、気にしないで欲しいわ」

「噂には聞いていたが《双杖》殿がここまでの貴族嫌いとはな」

「ふっ、弟よ、だからこそ面白いのではないか。その貴族嫌いが我が家に来た理由は何だ?」


人を小馬鹿にするようなにやけた面のオリビアに青筋を立てたイデアだが、向かいのソファーに腰掛け口を開いた。


「貴族は嫌いよ、でも手段を選んでる状況でもないのよ。討伐に協力した見返りが欲しいわ」

「ほぉ、《双杖》、お前は確か断っていなかったか?」

「私はね、でもアルの分があるわ」

「ふむ、確かにその通りだ。我は約束を守る女だ。何が見返りに欲しい?」


オリビアは傲岸不遜で貴族の面子を気にする貴族らしい性格の持ち主だ、話は聞いてくれるという読みがとりあえず当たったイデアは思考しつつ口を開いた。


「仲間とその妹を裏組織から救いたいの、その為に戦力がいるわ」

「裏組織を潰す為に我らの騎士を借りたいということか?」

「ええ、そして潰したい組織は《妖魔の館》よ」


《妖魔の館》と言った瞬間、オリビアは表情を変えなかったが僅かにレオンの表情が強ばったのをイデアは見逃さなかった。


「バーバラの歓楽街を仕切る裏組織を潰すとは大きく出たな、その組織が何故勢力を持っているか。お前なら分かるだろう」

「裏の世界を仕切る組織が無くなれば裏の秩序が乱れ領主である貴女の手間が増えることは重々承知してるわ」


そのような当然のことを理解してるはずのイデアが《妖魔の館》を潰すなどと言い出したのか、オリビアはその理由は図りかねていた。


仲間とはこの場にいない小人族の探索役(シーフ)であることは簡単に分かるが、バーバラを治める領主として《妖魔の館》を潰すことができないことなど聡いイデアなら理解できるはずだ。


オリビアがイデアを訝しんでいるとイデアは突然話の矛先を変えた。


「そういえば王国の英雄である《金獅子》がいるなんて珍しいわね、前線以外に興味がないともっぱらの噂だったけど前線から戻ってくるなんてね」


矛先を向けられたレオンのみならず、オリビアとアルレルトもイデアが何を言いたいのか、分からず訝しんだ。


「王国内に興味があるものが出来たんでしょうね、例えば魔人(ディアボロス)とかね」

「!!」


イデアが放った魔人(ディアボロス)という言葉にレオンは目を開いて驚愕した。


「何故それを…あっ」

「愚弟、この程度のカマかけに次期当主たるお前が引っかかってどうするのだ」

「姉上、申し訳ない」


オリビアに睨まれたレオンは目を逸らして謝った、心なしか鍛え上げられた肉体が萎んだようにも見えた。


「やっぱり《妖魔の館》のボスのグラニスは魔人(ディアボロス)なのね?」

「露見してしまったものは致し方ないな。確かにグラニスは魔人(ディアボロス)で間違いない、そして愚弟がここにいるのもグラニスを討伐する為に間違いはない」

「それならば話は速いわ、その討伐戦に私たちを加えなさい」

「こちらとしては戦力が増えるのが嬉しいが魔人(ディアボロス)はそんじょそこらの魔獣とは格が違う、命をかける覚悟はあるのか?」


覚悟を問うレオンの質問にイデアは頷き、アーネと遊んでいたアルレルトも真剣な表情で頷いた。


「お目当ての仲間が我らの騎士を攻撃してきた場合は問答無用で殺害するがそれでも構わないな?」

「無茶は言わないわよ、でもアルがいるからその心配は必要ないわ」


イデアは鋭いアルレルトの直感を信頼するようになっていた。


一通り話が済んだと見たレオンが立ち上がった。


「姉上、早速騎士たちにも二人を紹介しよう。ついでにアル、俺と模擬戦をしないか?」

「レオと模擬戦…ですか?」

「ああ、アルの実力はクリムトとカイネから聞いてはいるが自分の目でも確かめてみたい」


レオンに声をかけられたアルレルトは伺うようにイデアの方を見た。


「別にいいけどやり過ぎだけは注意してね」

「ほう?、まるで愚弟が負けるかのような言い草だな」

「アルは私が見た中で一番強い剣士よ、《金獅子》にだって負けないわ」

「陛下が認めた王国の英雄に勝つとは大きく出たな、その発言忘れるなよ?」

「そっちこそアルの強さをなめないでよね」


視線と言葉で火花を散らすイデアとオリビアをよそにアルレルトとレオンの二人は応接室を出た。


レオンについて行くと建物を出て、広大な広さを持つ中庭のような場所に連れていかれた。


中庭では二百人ほどの騎士が訓練をしていたが、訓練を指導していた老年の騎士がレオンに気付いて、片膝をついた。


「レオン様、訓練の見学でございますか?」

「いや、彼と模擬戦をしたい。場所を空けてくれないか?」

「はっ、かしこました」


老年の騎士がすぐに指示を出すと訓練していた騎士たちが一糸乱れぬ動きで左右に分かれて、自由に戦える場所が出来た。


「審判はガレオン、貴様がしろ」

「はっ、かしこました」


あとからやってきたオリビアに指示された先程指示をしていた老年の騎士は十M(メトル)ほどの間合いを空けて立つレオンとアルレルトの間に立った。


レオンは愛用の大剣を中段に構え、アルレルトは先程執事に返却された黒鬼を抜いて正眼に構えた。


「儂が審判は務める、ルールは殺害に繋がる攻撃でなければ何をしても良い。はじめ!」


はじめの合図がかかった瞬間、両者の姿が掻き消え次の瞬間間合いを詰めた二人の間で無数の火花が散った。


「愚弟の方が力が上だが速度はアルレルトの方が上か」

「本気じゃないとはいえ強いわね」


ほとんどイデアの目には二人の動きが見えないが、アルレルトとあれだけ打ち合って倒れない《金獅子》の強さを感じていた。


「凄まじい、一撃一撃に重みがありとても正面からは受けられませんね」

「俺の剣術は対人用ではないからな、アルの剣は思わず見失うほど速いな」

「それが俺の流派の特徴です、"誰よりも速く剣を振れば何者にも負けず"、俺の師匠の言葉です」


全く本気ではない二人には斬り合いながらも会話する余裕がある。


一度大きな呼吸を挟む形で二人は間合いを開けた。


「強いな、アル。俺とこれほど打ち合える者は王国にも片手に収まるほどしかおらんぞ」

「光栄ですがレオも強い。《金獅子》という異名の由来が気になりますがその異名に負けない強さです」

「これでは少々つまらん、少し本気を出すとしよう。アル、お前も出せ」


アルレルトが何か答える前にレオンの身体の大きさが倍加したと錯覚するほど雰囲気が変わった。


「承知しました」


黒鬼を下段に構えるアルレルトの雰囲気が一変し、抜き身の刃のような鋭さを帯びた。


二人が一歩を踏み出した瞬間、二人の前に審判役の老年の騎士が出た。


「両者そこまで!、そのまま斬り合えばオリビア様の御屋敷が大変なことになってしますぞ」

「むっ、確かにそうかもしれんな。感謝するぞ、ガレオン」

「はっ!、ありがたきお言葉にございます」


レオンはさっさと剣を鞘に納めてしまったので、アルレルトも殺気を抑えて黒鬼を鞘に納めた。


「若き冒険者よ、見事な模擬戦だった。レオン様も仰っていたがあの御方とあれだけ打ち合える者は王国には片手で数えられるほどしかいない、十分に誇って良いことだ」

「ありがとうございます」


賛辞をくれた老年の騎士ガレオンに感謝の言葉を述べると、気分を良くしたのか笑みを浮かべてガレオンは去った。


「…叶うならば本気で打ち合ってみたかったですね」


初めて戦ったレオンはアルレルトが今まで戦った相手の中でも断トツに強かった。


そんな相手と本気を出して戦ってみたかった、そんな思いを抱いたことにアルレルトは笑みを浮かべるのだった。


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