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四十一話 巨毒蛇討伐戦


イデアの作戦を共有したアルレルトたちとオリビア率いる騎士たちは二十階層に繋がる階段を降りた。


「ここが二十階層、巨毒蛇(バシュム)の住処」


アルレルトの目に飛び込んできたのはイデアの地図通り、樹木で作られた闘技場(コロシアム)、そしてその主は戦場の中心でとぐろを巻いていた。


その姿はまさに巨大な蛇、アルレルトたちに気付き、とぐろを巻いていた巨毒蛇(バシュム)は顔を上げて、咆哮した。


「シュルルルルゥゥ!!!」

「騎士たちよ!、散開せよ!」


巨毒蛇(バシュム)の咆哮に負けず劣らずの声で叫んだオリビアが散開を命ずると、巨毒蛇バシュムの喉が膨らみ毒液の息吹(ブレス)を吐いてきた。


「アーネ、守りは任せます」

『アル様は僕が守る』


懐に入ったアーネの返事を聞きながらアルレルトも息吹(ブレス)を避けて、弧を描くように巨毒蛇バシュムに接近する。


「"神風流 斬風"!」


アルレルトの全力の斬撃は巨毒蛇バシュムの深緑の鱗を斬り裂いた。


「シュルルゥ!?」

「うっ、これは…」


鱗を斬り裂いて噴き出したのは深緑の液体、巨毒蛇バシュムの体液と思われるそれが発する()()にアルレルトは顔を顰めながら後ろに飛んだ。


「冒険者、無闇に切りつけるな!、それでは剣が…何故剣が溶けていないのだ!?」

「はっ?」


怒声を飛ばしてきた騎士長カイネの言葉を理解しかねたアルレルトの視界に一人の騎士が映った。


「ちっ!、魔銀鉄(ミスリル)の剣でも溶けるのか」


騎士が持つ巨毒蛇バシュムの体液が付いた剣の刃がゆっくり腐食して溶けているのが見えた。


「ーー」


アルレルトは思わず黒鬼の刃を確認したが、漆黒の刃は巨毒蛇バシュムの体液が付着しても溶ける様子はなかった。


巨毒蛇バシュムの体液は強力な毒液だ、並の武器でも触れれば溶けるはずだがお前の剣はオリビア様やレオン様の剣と同じように耐えるのか!?」

「理由は分かりませんがどうやらそのようです」


巨毒蛇バシュム息吹(ブレス)が迫り、アルレルトとカイネは左右に逃げて躱した。


(黒鬼が溶けないのは幸いでしたが猛毒の体液が噴き出てくるのは面倒ですね、いや、疾風ならいける?)


一瞬、一撃離脱の剣技である"疾風"ならば斬れるのではと考えて即座に止めた。


疾風は走りながら斬る剣技で速度が乗らなければ斬撃の威力が出ない、アルレルトの手応えでは巨毒蛇バシュムの鱗は相当に硬かった。


斬れる可能性は五分(ごぶ)だという確信があり、時間稼ぎという目的がある以上安易な博打には出れない。


「潜らせんぞ!、"剣神流 瞬光(しゅんこう)"!」


地面に潜る素振りを見せた巨毒蛇バシュムの胴に素早く接近したオリビアの一撃が命中した。


「シュルルゥ!!」

「"神風流 大風"!」


オリビアに意識を向けた巨毒蛇バシュムの隙をついて、全くの反対方向から大上段斬りを打ち込んだ。


「シュルゥ!?」


打ち込んだアルレルトが噴き出す毒液を避ける合間に巨毒蛇バシュムの口が向けられる。


「"剣神流 斜王(しゃおう)"!」

「シュルルゥ!!?」


オリビアの一撃が巨毒蛇バシュムの横っ面に激突し、辛うじて猛毒の息吹(ブレス)がアルレルトの横に逸れた。


「オリビア様!」「今向かいます!」

「レイエス!、クロッカス!」


猛毒の体液に鎧を溶かされながら騎士の声を聞いたオリビアは二人の横合いから高速で迫る深緑の尾に気付き、声を荒らげた。


「「しまっ…」」

「グルルルルゥ!!」


闘技場の上空を飛び機会を伺っていたヴィヴィアンが急降下して、巨毒蛇バシュムの尾の一撃を防いだ。


「オリビア様!、飛ばされます!」

「っ!」


一瞬気が緩んだオリビアはアルレルトの声で我を取り戻し、巨毒蛇バシュムの背から離脱した。


「シュルルルルゥゥ!!」


怒りの咆哮を上げた巨毒蛇バシュムは尻尾を押さえつけるヴィヴィアンを無視して、アルレルトとオリビアに狙いを定めた。


「「一手遅い」です」

「皆!、上に飛んで!」


二人が同時に呟くと同時にイデアの声が戦っていた者たちの耳に届き、指示通りに皆地面から一時的に離れた。


「"白氷大地(グラスバーン)"!!」


イデアの氷魔術がほとんど一瞬で闘技場の地面を覆い尽くし、巨毒蛇バシュムも地面と接していた体が凍りついていた。


「一気に畳み掛けるわ!、"閃雷槍(ザンダーランス)"」

「シュルルルルゥゥ!?」


イデアの強力な雷魔術が連続で顔面に命中し、巨毒蛇バシュムは悲鳴を上げた。


「騎士たちよ!、我に続け!」

「アーネ、毒液はお願いします」

『万事任せて』


オリビアと騎士、アルレルトたちは一斉に攻勢をかけた。


「"神風流 大風"!」


跳躍して放たれた大上段斬りが巨毒蛇バシュムの体を大きく斬り裂いた。


噴き出す毒液はアーネが張った魔術障壁のお陰でアルレルトには届かない。


「"剣神流 斜王(しゃおう)"!」


反対側からオリビアの上段斬りが激突し、騎士たちの攻撃も連続で命中した。


「シュルルルルゥゥ!!」


怒りに震えた巨毒蛇バシュムは敵の中で一番脅威な存在の排除を決断した。


すなわちちょこまかと動き回るアルレルトたちではなく、魔術を放つために動かないイデアだ。


「シュルルルルゥゥ!!」


当然、巨毒蛇バシュムが自分を狙っていることに気付いていたイデアは磐石の構えで魔術障壁を張った。


「イデア!、横に逸らしてください!」

「!?」


自分の魔術障壁に自信を持つイデアは突然耳に飛び込んできたアルレルトの言葉が理解できなかったが、身体はアルレルトの忠告に従った。


角度が付けられた魔術障壁は巨毒蛇バシュム息吹(ブレス)を横に受け流し、イデアの横側の地面を溶かした。


「私の魔術障壁が溶けて…!?」


魔術障壁が息吹(ブレス)で溶けかけていることに驚く暇もなく、ボロボロの魔術障壁を突き破って巨毒蛇バシュムが突っ込んできた。


魔術障壁を張るか、魔術を撃つか一瞬迷ったイデアは再び巨毒蛇バシュム息吹(ブレス)を放とうとしているのが見えて、頬を引き攣らせた。


「イデア!!」

「アル!?」


いつの間にか闘技場の中心から走ってきたアルレルトがイデアを俵のように抱えて、巨毒蛇バシュムから救った。


「"閃雷槍(ザンダーランス)"!、アル!、ありがとう!、助かったわ!」

「自分の魔術を過信してはいけませんよ!」

「ごめんなさい!、ちょっと侮ってたわ」


イデアはアルレルトの諌言に対して、素直に謝罪した、今のは自分の魔術を過信したが故の危機だということをイデアは自覚していたからだ。


「いえ、アーネの魔術障壁がほとんど一瞬で溶けたのでもしかしてと思っただけです。イデアの魔術は強力ですが猛毒とは相性が悪いようですね」

巨毒蛇バシュムの毒液を舐めてたわ、でもまだ勝機は残ってるわ」


アルレルトは黒鬼を鞘に納めて、イデアの抱き方をお姫様抱っこに切り替えた。


「それで勝機とは?」

「う、うん。息吹(ブレス)を撃つ瞬間を狙うのよ。巨毒蛇バシュムは速いけど息吹(ブレス)を撃つ時は止まるのよ」


至近距離に映ったアルレルトの顔にたじろぎつつもイデアは今までの戦闘で導き出した勝機を伝えた。


「オリビア様には俺が伝えます、ですが魔術と息吹(ブレス)の撃ち合いでは何が起きるか分かりません。のでネロを使いましょう」

「分かったわ、アルたちが誘導したネロには私が伝えるわ」


巨毒蛇バシュムから距離を取ったことを確認したアルレルトはイデアを下ろして、黒鬼を抜いて走りながら空を飛ぶ仲間の名を呼んだ。


「ヴィヴィアン!」

「グルルゥ!」


アルレルトの声に応えたヴィヴィアンは降りてくると、その背にアルレルトは乗った。


「オリビア様!、巨毒蛇バシュムをイデアの元に誘導します!」

「っ!、騎士たちよ!、巨毒蛇バシュムを《双杖》の元に連れていくのだ!」

「「「「はっ!!」」」」


騎士たちはオリビアの命令に応え、消耗しているにも関わらず一糸乱れぬ動きで巨毒蛇バシュムに攻撃を仕掛けて、注意を引いた。


「"神風流 斬風"」

「シュルルルルゥゥ!?」


ヴィヴィアンから降りたアルレルトの一撃が巨毒蛇バシュムの脳天に命中し、巨毒蛇バシュムは悲鳴を上げた。


殺意に染まった目がヴィヴィアンに乗ったアルレルトを捉え、息吹(ブレス)を放つ。


上に飛んで避けたヴィヴィアンを騎士たちが攻撃を止めたことで巨毒蛇バシュムは追い掛けた。


二発の息吹(ブレス)を放ってヴィヴィアンに当たらないと知った巨毒蛇バシュムは全身を使って一気にヴィヴィアンに接近してきた。


「ヴィヴィアン!!」


アルレルトの指示を受けたヴィヴィアンは真上に上昇し、追いかけようとした巨毒蛇バシュムの目に可視化できるほどの濃密な魔力を全身から放つイデアが目に入った。


巨毒蛇バシュムは即座に目標をヴィヴィアンからイデアに切り替えて、息吹(ブレス)を放とうして、()()()()()()()()()()


「!?」

「小さいことは不利なんかじゃないよ、こうやって不意打ちができるから」


既に見えない巨毒蛇バシュムの片目にはずっと潜んでいたネロが投擲した短剣が突き刺さっていた。


「"滅炎球(インフェルノボール)"」


意識を潰された片目に持っていかれたことで息吹(ブレス)を放とうと開いていた口の中に黒炎の球が入り込み、巨毒蛇バシュムの頭部が爆発した。


頭部を吹き飛ばされた巨毒蛇バシュムは絶命し、アルレルトたちは巨毒蛇バシュム討伐戦に勝利するのであった。


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