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二十六話 迷宮都市バーバラと再会


暗殺者と思われる集団に襲撃された一行は全速力で迷宮都市バーバラを目指していた。


「全方位を警戒しろ!、また襲撃してくるかもしれん!」


クリムト騎士長の声が響く中、ヴィヴィアンの背に乗るアルレルトに彼が馬を寄せてきた。


「アルレルト殿、最初に馬車へ放たれた矢を防いでくれて感謝する。旦那様が君を派遣してくれて助かった」

「礼は受け取ります、騎士の皆様に負傷者はいませんか?」

「腹立たしいことだが相手も手練、負傷者は出たが大事に至る者はいない。簡単な止血ならば皆できる」


アルレルトの心配は杞憂のようで、クリムト騎士長は断言した。


「頼もしい限りです、貴族の護衛というのも大変なのですね」

「はは、このような大規模な襲撃は滅多にないが貴族というのは多かれ少なかれ敵がいるものだ、冒険者には分からんだろうがな」

「クリムト騎士長は事情を知っているのですか?」


アルレルトは情報収集も兼ねて、探りを入れてみた。


貴族のいざこざに首を突っ込む気はないが敵がどのような輩なのかは知っておきたい。


「無論知っているがアルレルト殿は知らない方がいい」

「心配してくれるのは嬉しいですが暗殺者がまたいつ襲ってくるのか分からない状況では少しは敵のことを知りたいのです」

「暗殺者のことは心配するな、バーバラに入りさえすれば大丈夫だ、私が保証しよう」


アルレルトは半信半疑だったが、これ以上聞いても教えてくれなさそうだったので素直に諦めた。


引き際は弁えている、アルレルトの主目的はイデアに会うことで貴族のゴタゴタに巻き込まれたいわけでないからだ。



肌がピリピリと痺れるような気がする程に騎士たちが周囲を警戒する中、 最後尾にいるアルレルトの視界に巨大な城壁が見えた。


「総員街に入るまで警戒を怠るな!」


クリムト騎士長の檄が僅かに緩んだ騎士たちの緊張を締め直した。


「(アル様、貴族とはこれ以上関わらない方がいい。こんな面倒事ばっかり)」

「あと少しの辛抱ですよ、貴族との付き合いについては俺も検討中です」


マグナス様の依頼(クエスト)はメリンのこともあって受けたが、もし次に貴族の依頼(クエスト)を受ける時はもっと慎重になろうと決意した。



不幸中の幸いというべきか、貴族専用の門から楽に迷宮都市バーバラに入ることが出来た。


「待っていたぞ、クリムト騎士長」


相も変わらず最後尾で街の中に入ったアルレルトの耳に凛とした声が聞こえてきた。


ヴィヴィアンから降りたアルレルトは騎士たちが一人の人物に膝をついている光景を目撃した。


「臣下の礼は不要、(メリン)の護衛ご苦労であった。すぐさま屋敷へ移動せよ。その前に父上が雇ったという冒険者はいるか?」


騎士たちに臣下の礼をとらせた美しく長い金髪を紐で束ねた碧眼の女性がアルレルトを呼んだ。


「マグナス様に雇われましたアルレルトと申します」

「冒険者が騎士の真似事か?、面白い。ソナタも妹の護衛ご苦労であった、報酬を渡そう」


騎士のように膝をついたアルレルトをからかいつつも、恐らくグラール伯爵家の一員であろう女性は傍に控えていた騎士から皮袋を受け取ると、アルレルトに直接渡した。


「感謝致します」

「ふむ、父上が約束した額がそこにある筈だ」


それだけ告げた金髪の女性は馬に跨ると、騎士たちを伴ってメリンを乗せた馬車と共に去っていった。



「クリムト騎士長が大丈夫だと言ってた意味が分かりました」

「(うん、あの女、貴族のくせに強い)」

「彼女だけでなく控えていた騎士たちも手練でしたよ、それはそうとアーネは貴族に嫌な思い出でもあるのですか?」

「(別に、昔ちょっと揉めたことがあるだけ)」


貴族について話す時、言葉に(とげ)があるので指摘するとアーネはぶっきらぼうに答えた。


過去に何かあった様子だったがアーネが答えたくなそうだったので、アルレルトは深く尋ねなかった。


「(そんなことより衆目を引いてる、早く移動した方がいい)」


アーネの言う通り、貴族と会話していたのとヴィヴィアンがいるお陰で周囲にいる人々の目を集めていた。


「イデアとは迷宮広場(ダンジョンスクウェア)で会う予定です、まだ日は落ちていませんから会えると思います」


集合場所は事前にイデアと決めていた、バーバラの中心にある広場でどんなことがあってもイデアは夕刻には必ずいると言った。


「遅めのお昼ご飯を食べながら広場に向かいましょう」


天上の太陽の位置を確認したアルレルトはアーネとヴィヴィアンを連れて、バーバラの中心部に向かうのだった。


◆◆◆◆


露店で買い食いをして腹を満たしたアルレルトはヴィヴィアンの上に乗るアーネが人獣の姿で焼き串を頬張るのを見ながら、迷宮広場(ダンジョンスクウェア)に入った。


「やはり街の中心だけあって人も多くて広いですね」


グラールの中央市場ほどではないが、人の往来が多く十分巨大な迷宮広場(ダンジョンスクウェア)の中心に大きな噴水があり、アルレルトはヴィヴィアンを連れて、その噴水の前のベンチに座った。


「ヴィヴィアン、先程購入したお肉です、丁寧に食べるのですよ」

「グルルルゥ!!」


喜びの声を上げたヴィヴィアンの口に巨大な肉を放り込むと、一瞬で飲み込んだ。


「きちんと噛んで食べてください、亜竜とはいえ丸呑みは良くないですよ」

「グルゥ」


申し訳なそうに頷いたヴィヴィアンは次いで出された肉を噛んで食べた。


「アル様、この焼き串もっと食べたい」

「迷子にならないのならば買ってきてもいいですよ」

「大丈夫、アル様の匂いは覚えてる」


自慢げに自分の鼻を撫でたアーネの言葉に「なるほど」と納得したアルレルトは銀貨を持たせて、送り出した。


「あっ、露店の店主がアーネの容姿に驚いて…」


アーネが人獣だということを思い出して、声を掛けたがアーネは既にいなかった。


「お金を持っている人には売ってくれるでしょう」


そう納得したアルレルトは広場から周囲を見回した。



迷宮都市と言われるだけあって、視線の先には巨大な円形の建物、迷宮(ダンジョン)の入口がある。


迷宮から出てくるのは軒並み疲れ切った顔の冒険者たち、皆一様にボロボロで迷宮(ダンジョン)がどれだけ過酷なのかを言外に教えてくれる。


(俺は迷宮(ダンジョン)というのものをまるで知りませんが過酷な冒険になるのでしょう)


体験したことがないので想像することしか出来ないので自然と緊張するが、それと同時に高揚もしていた。


「イデアと冒険できることが楽しみなのでしょうね」

「グルゥ?」

「…ヴィヴィアン、もう肉はありませんよ」


全て平らげたヴィヴィアンが次を催促してきたので、背嚢を広げて肉が入っていないのを確認させた。


「グルルルゥ!」

「唸ってもダメです、また買ってあげますから」


軽く威圧を込めて言うとヴィヴィアンは納得して、目の前に寝っ転がった。


「おい、あれ亜竜じゃないのか?」

「ここら辺じゃ見た事ない冒険者だな」

「亜竜を連れる冒険者とか珍しいな」


ヴィヴィアンのせいで注目が集まっているのを感じたが、アルレルトは故意に無視した。


「アル様、沢山焼き串買ってきた。食べる?」

「それでは一本だけ」


アーネが戻ってくると周囲の人々の視線がさらにざわついた。


「なんだあれ?」

「獣みたいな女だ、人獣って奴じゃねぇか?」

「まじであの冒険者、何者だ?」


周囲に人が集まって人集りになり、顔を顰めたアルレルトが立ち上がった時、人集りから一人の人間が前に出てきた。


「久しぶりに会えたと思ったら随分と注目の的みたいね?」

「俺個人としては甚だ不本意です、イデア」


憎まれ口のようになってしまったが、現れた真っ白な髪と同じ色のローブを着た魔術師イデアにアルレルトは笑みを向けるのだった。


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